111 怪物少女の闘争:準々決勝3回戦 黒歴史の上級神ヒス vs 超特級女神・極聖マルリリッカ その②
聞いたことがある名前だが、はて、誰だったっけ? 手元のボウルでオムレツを作るべく卵を撹拌しながら適当に考えていると、レム姉さんが何故か勘違いして褒めてくれた。
「流石ですね……ミライくん、気が付きましたか。お気付きの通り、あの少女は超特級女神・極聖マルリリッカの黒歴史。女神時代のマルリリッカ……修行の女神マリカです」
そう言うと、そのまま酸っぱいものを食ったような顔で会場を見つめている。
「上級神のスキルですから、合法的な魂のコピーですよ……。個人的には許せないんですが」
「そんだけじゃないじゃろ。あれ、かなりヤバいスキルじゃな?」
珍しく、姫が身体を起こして真剣な顔で闘技場を凝視している。その姫に頷くと、レム姉さんも真剣な表情で闘技場を見つめ始めてしまった。
うーん、もっとしっかり解説してくれると俺にも分かりやすいのだが。
修行の女神マリカを名乗る少女は、ポッケの中からセミっぽい昆虫を取り出し、躊躇すること無くおいしそうにムシャッ!と食った。
「1に修行、2に修行! 修行の合間に栄養補給! これ、おいしいよ? 食べる?」
「や、や、やめて! その虫は、お、おいしくないよ!? きもちわるい!!」
狼狽した顔で後退るマルリリッカだが、口元にはよだれが……。
なあ、あの子……少し若いが、マルリリなんじゃ……?
マルリリが二人居るっ……お、お、どうすれば~っ!?
フッ、妹が二人に増えてしまったな。俺は大丈夫だぞ!
ツイン・マルリリッ~! ツイン・マルリリッ~!
マルリリッカの熱狂的ファンなおじさん神達がざわついているが、何処か喜んでいる感じだ。彼らにとっての信仰の対象である超特級女神・極聖マルリリッカが二人に増えたのだから、そりゃあ嬉しいのかもしれないが……。
突如、マルリリッカの背後で火柱が上がる。なんと、残っていた豚人間が成し遂げたのだ。
「ぶおおお~ん! 最後のゾンビも燃やしたぞぉ! これで、我々の勝ちだお~ん!」
「勝ちだ~っ!」「勝ちだおおお~ん!!」
しかし、何故か試合が終わる気配がない。
『あれっ、これは、どういう事なのでしょう~? 私からも、戦士が全滅してマルリリッカチームが敗北したように見えるのですが……あれぇ~!?』
ウサちゃんが困惑した実況をしている中、マルリリッカの背中に張り付いている肥満淫獣が、膨れ上がった脂肪の下に隠していたモンスターボトルを取り出し、指を突っ込んで叫びだした。
「(呼吸音)ぷははっ! こうなったら仕方がないでぷぅ! 豚人間達の相手はとっておきの君に任せるぞ……発現せよ! 我が最強モンスター、調教女王様~~っ!!(呼吸音)」
モンスターボトルから虹色の光が溢れ出し、キラキラと輝く閃光の中から、これは明らかにサディスティックな女王様だ! という格好をした女性が現れたのだが、よく見ると格好だけで、顔つきはやはり、とびっきりの女子中学生だった。
『何ということでしょう!? ゾンビ達はボトルマスターではなかったのでしょうか!? マルリリッカちゃんの背中に背負われていた肥満の生き物が、実はボトルマスターの戦士だったようです!』
「なんだそりゃ、隔離してた3体のうち、本物のマスターは2体だったって事か?」
「収入が無ければ契約数制限は発生しない筈でち。ゾンビたちの消え方で怪しいなとは思ってまちたが、もしかしたら、戦士はあの肥満生物だけなのかも……」
周囲をきょろきょろと見渡し、ふにゃふにゃの顔で狼狽えながら、それでも何とか頑張って豚人間3匹に向かって精一杯の高圧的な態度をとり、ムチを振るう女王中学生。
「ふええっ! 豚ども、エサの時間でーす! 屈服しなさぁい!」
「ぶあああーっ!? い、い、いけません! あの女王様は、ほ、ほ、本物でぇす!?」
チャーミーの恐れとも悦びとも取れる叫びが聞こえたので、気になって視線を向けると、歓喜に満ちた表情でベランダに寝転がって腹を出し、足を開いて屈服して、ほかほかの湯気を上げながらクネクネしているチャーミーが見えたので、なかった事にして視線を闘技場に戻した。
チャーミーのファーザーを含めた豚人間達は、女王中学生の足元に転がって嬉しそうな顔で腹を出し、チャーミーと同じように完全に屈服している。しかし、マルリリッカと黒歴史マリカの戦いは、膠着状態に陥っていた。
同一人物とはいえ、上級女神と通常女神の戦いである。当然、力の差ははっきりしている筈なのだが、攻守共に力が均衡しており、決着がつかない。
「やはり、あの黒歴史は意志や力までも術者の都合が良いように改造され、本来よりもかなり強くなっておるな?」
「あんなに凄い力があるのな……ら、最初から出しておけば良かった……のに」
「うーん、何か問題があるんだろうけどよ、あんなのを連発されたら、どうやって勝てばいいんだ?」
俺が焼いたばかりのオムレツをパクつきながら、皆が闘技場から目を離さない。こんな風に言うのも何なのだが、二人の戦闘は何処かアニメっぽくて、観ていて飽きないのだ。
オアーッ!! イけっ! イけ、マルリリィ~ッ!!
フフッ、妹たちよ、争いはやめるんだ!
今だ撃て~っ! 二人で撃つんだ~っ! どびゅ~っ!
兄を撃ってくれ~!! 二人で兄を蔑んでくれぇ~っ!
俺、若いほうがいい~~っ!! こいよっ! こいよっ!
マルリリィ!!! マルリリィ!!!
相変わらず、観客席のマルリリッカファンおじさん神達が大騒ぎしている。居なくなったゾンビ女子中学生達の代わりなのか、おじさん神達が掻き鳴らし合唱している曲が別の曲に切り替わったので、前と同じく必殺技を出したりするタイミングなのだろう。
「……悪の秘密結社は、こんなとんでもないものを開発していたの!? 一体どうして!?」
「1に修行、2に修行! 永遠に続く修行の果てには、更なる無限の修行が待ち構えているんでぇす! むしゃっ! むしゃっ!」
「駄目っ! やめて! おいしいからって、私の顔で虫を食べないで~~~!!」
おじさんたちによって流れ始めた曲に合わせて歌い始めたマルリリッカは、女神ビームを放つ体勢を取り始めていた。
たかまる♪ たかまる♪ あたしのちから~♪
「「「 3・2・1♡ マルリリッ♡ 」」」
極太パワー♪ 届いてほしいの~♪
「「「 3・2・1♡ マルリリッ♡ どびゅ~ッ♡ 」」」
マルリリッ♪ マルリリ~ッ♪ 届いてっ! 貴方のマルリリッカ~♪
「貴方の心を狙い撃ちするんだからね! 3・2・1・【超特級女神ビ――――ム】ぅ~~ッ!!!」
黒歴史マリカも同時に女神ビームを放とうとしていたのだが、マルリリッカの真っ直ぐ突き出した指から全方向に射出された光が、丁度昆虫を口に含みだして動きが止まっていたマリカに向かって1本に収束した直後、極太の破壊光線に変化して、その姿を飲み込み、吹き飛ばして……
「【因果応報】」
漆黒の強烈なバリアに包まれたヒスの声が闘技場に響き渡ると同時に、女神ビームに飲み込まれ粉々になって吹き飛んでいった筈の黒歴史マリカの姿が、まるで逆再生されるように、スッと元に戻った。
同時に、マルリリッカの全身から、ブシャッ!と血が吹き出す。
「うぎいっ!! 痛ったああああああああああああ~~~いっ!!」
「こ、これは……? 一体、何をされたんでぷぅ!?(呼吸音)」




