110 怪物少女の闘争:準々決勝3回戦 黒歴史の上級神ヒス vs 超特級女神・極聖マルリリッカ その①
準々決勝第3回戦。早々にチャーミーのお父さんである豚人間ファーザーの叫び声が響き渡った。
「ぶおおお~っ!! 我が最強の娘、チャーミー!! 今回も、見届けてくれぇ~~~っ!!」
「ファーザーの真剣勝負でぇす! チャーミーは、最後までしっかり見届けまぁす!!」
そんな豚人間チャーミーの前には大量の豚料理が並んでいる。とんかつ、角煮、豚しゃぶ、煮豚、豚天……これら全てはチャーミーが希望し俺が適当に作って保存袋に入れておいた料理だ。
「なあ、チャー……」
俺はチャーミーに、何故今このタイミングでこれらの豚料理を並べているのか? を、聞こうと思った。だが、彼女の闘技場を見ているのか豚料理を見ているのかわからない謎の視線、唾液が溢れ出ているのを必死に飲み込んでいる口元、全身から湧き立っている湯気、その他様々な異常性を察知して、とりあえずその件には触れない事にした。
黒歴史の上級神ヒスチームは、神仲間の同級生3名を戦士とし、全員をボトルマスターにすることで豚人間おじさん達を10名引き連れている。
対する超特級女神・極聖マルリリッカチームは、戦士やモンスターとしてとびっきりの女子中学生達を引き連れていたのだが、既に全員がぐちゃぐちゃのゾンビになってしまっていて、現状ではもう誰が戦士で誰がモンスターだったのか一目ではわからない状態だ。
そんな状態の彼女たちが、全員で仲良く、マルリリッカが中でリボンたっぷりのコスチュームに着替えているのであろう光り輝く巨大なブーケを運んでいた。
ファフニルがゾンビを見て、うへぇ……という嫌そうな顔を隠さずに、レム姉さんに質問を投げかける。
「なあ、あいつらってどう見ても死んでるんだけどよ、あれでも負けって事にならねえのか?」
「試合中にゾンビ化したならまだしも、あの子達って最初からゾンビの戦士だったっぽいからなあ……」
みててね♪ みて!みて~♪
「「「 マルリリッ♡ マルリリッ♡ 」」」
すごーい魅力♪ 魅せてあげるね~♪
「「「 マルリリッ♡ マルリリッ♡ 」」」
マルリリッ♪ マルリリ~ッ♪ 今日も貴方のマルリリッカ~♪
ゾンビ達が見た目に反して楽器で器用に音楽を鳴らし合唱する中、巨大ブーケの光の中からぴょ~んと飛び出したマルリリッカが、リボンの沢山ついたわけのわからない格好でマイクを持って歌いながら登場した。
「愛! 努力! 根性! そして正義の為に! 超特級女神・極聖マルリリッカ、ここに降臨したんだからねっ!!」
おっ! おっ! いっくううう~~~っ!!!
ごごごご降臨んんんん~~~っ!!!
生マルリリッ!! 生マルリリ~~ッ!!!
踏んで~~~っ!!! 踏んで~~~っ!!!
マルリリィ~~ンッ!!! マルリリィ~~ンッ!!!
客席の一部に密集している、マルリリッカファンのおじさん達が、今回も謎のライトを照らしながら、手を振り足を振り、激しく踊って大興奮の渦を形成している姿が見えた。
「あれ? 確か、変身の時って観客のエネルギーを吸うんじゃなかったっけ?」
「ミライくん、マルリリッカのやってることは、殆どがただの演技です……まぁ、多分面倒くさくなったんじゃないでしょうかね?」
やけに巨大で殺傷能力が抜群に高そうな鈍器を取り出して、一振りするマルリリッカ。背後からは、太ったヒヨコのような謎生物がブルルンッ!と脂肪を揺らしながら顔を出している。相変わらず肥満が行き過ぎていて怖い。
「おっきな悪いおじさん達!! 集団で乱暴する気なんでしょう!? そんな事は許されないんだからね!」
「(呼吸音) マルリリッ! 今日の敵は、目の前に並んだ、何でも食らう凶悪で四つん這いな豚人間達と、その主人達でぷぅ! あの主人達は神界学園の生徒で大したことはないでぷが、豚人間って意外に強いから、気をつけないと危ないでぷぅ! (呼吸音)」
にやり、と笑うマルリリッカ。
「大丈夫! 極聖の力、速攻で思い知らせてあげるんだから!」
僕達の作戦は、兎に角マルリリッカのゾンビ達を全て焼き尽くす事だった。マルリリッカの攻撃が心配だが、今回も豚人間全員にバリアを張っておけば大丈夫なはずだ。大勝利の上級女神ヴァルリアのこの世の物とは思えない強烈な多重斬撃にも耐えられたのだから。あれ以上の攻撃を、あのマルリリッカが出せるとは思えない。
「ううっ、豚人間の皆さん、事前の打ち合わせ通りに頼みます。ゾンビさえ処理できれば、僕たちの勝利ですから!」
「ぶおおお~ん! まかせておけー!」
「みんな、突撃だブー!」
走っていく豚人間たち全員の掌には、事前に火炎魔法の魔法陣を描いてある。これでゾンビに触れれば、後は勝手に火炎に包まれて燃え尽きてくれるはずだ。豚人間たちへの様々な補助魔法等を分担している3人の友達と目を合わせ、問題がない事を確認する。
上級神になったとはいえまだ若く、持っている能力は強力だが使いにくく、小心者な事もあって、殆ど一般の神と変わりのない暮らしを送っていたヒスには、古くからの学友であり、立場が変わっても友情は変わらない3人の友がいた。
4人で集まれば、何だって出来た。お互いに足りないものを、それぞれが補ったのだ。気がつけば、その活動が認められ、学校で様々な表彰を受ける立場になっていた。
ある日、周囲の評判が妙な方向に転がりだした。もしかしたら、ヒス達の実力ならば、神王の座を掴むことだって出来てしまうかもしれないのでは? という、無茶振りにも程があるやつだ。勿論、固く辞退しようとしたのだが。
「はぁ……。 今更だけど、まさか本当に参加させられるとはなあ」
「お前、このタイミングでそんな事言い出すの?」
順調に火炎魔法が発動している。ゾンビ達は順調に焼却され、残りはたった1体だ。これは勝てたかなと思った次の瞬間、巨大な鈍器に友二人の身体がへし折られ、闘技場外に吹き飛んでいった。
「ぶおおおっ!?」「ああっ、嘘ぉぉ~ん!!」「ヒィィ~ン!」
豚人間たちが次々と闘技場から消えていく。ボトルマスター消失の為だ。残りは3名しかいない。
激痛が走る。いつの間にか、腕がへし折れ、大量出血していたのだ。目の前では不意の攻撃からヒスの身体を押し倒し守った友が、自らの失った片足から血を吹き出し、顔を真っ青にして悶え苦しんでいた。
「お兄ちゃん達から貰った極聖の力に、勝てるわけがないよ! さあ、すぐにキメてあげるね!」
目の前では、マルリリッカが巨大な鈍器を振りかぶった状態でポーズをキメていた。その姿はとても可愛らしく、僕が小さいときから大好きだった、いや、今でも大好きなあの極聖マルリリッカそのものだ。
ああっ、マルリリ、マルリリ!
「ふああっ! 文句なく可愛いのに、なんなんだよ、ちくしょうめ!」
この戦いで死んでも無傷で蘇ることが出来るが、友人をこんな目に合わせた彼女のことを、僕は許すことが出来ない。出来るだけ彼女を傷つけないように戦いたかったのだが、もうそんな気持ちは何処かに消え失せてしまった。どんな手段を使ってでも、一矢報いてやる!
目の前に幻の扉を呼び出す。この力は念じるだけで良いのだが、消費が激しい。身体がグンと重くなる感覚。すぐさま扉が開かれ、内側を満たす黒煙と共に何かが溢れ出てくる。
「黒歴史、開放~っ!!!」
僕のこの力は何が起こるか自分でも良くわからないのだが、少なくとも相手にダメージを与えることは出来る筈だ。可哀想な事になってしまうかもしれないが、報いを受けるが良い!
突然出現した謎の扉から溢れ出た黒煙の中から形作り現れたのは、何やらみすぼらしい、ホームレスっぽい格好の少女だった。それを見たレム姉さんが、途端に無言になる。あの少女は一体何なのだろうか? ボトルモンスター……?
「はじめましてぇ~! 私、修行の女神マリカでぇ~す!」




