108 怪物少女の闘争:準々決勝1回戦 複製の上級女神ヌガー vs 破壊の上級女神メス その②
誰もバリアを張っていない今、このタイミングで、目の前の上級女神メスに、起爆ボタンを押されてしまうのか? そもそも自分の戦士が全滅している状況で攻撃を加えてくるだなんて明確に反則だと思うのだが、タンザナイトの洗脳魔道具に支配されているメスに何を言っても無駄だろう。
俺はメスを止めるべく身体を動かそうとする。間に合う感じではないが、あのボタンを奪い取って……兎に角どうにかしなければならない。
どうにかしたかったのだが……何故か、身体がまともに動かない事に気がついた。全身の感覚が鈍くなっており、これっぽっちもまともに動く感じがしない。それどころか、目も、口も、まともに動かない。呼吸だってしていない。自分を取り巻く周囲の全てが停止しているように見えた。
な、なんだこれ? 一体何がどうなっているのだ!?
(緊急時の超加速モードが作動したのでぇす)
脳内に、フィレの声が響き渡る。
(この状態では、現実世界での1秒間が、マスターさんと私には300倍の5分に感じまぁす。あ、頭の中で思う事で言葉が通じますよ)
(なんだこれ、すごいな!? こんなのアリなのか!?)
(まだ、研究中の技術を試験的に実装していました。あくまで試験だった為、最大使用時間は現実時間換算で1秒のみで、エネルギーの補充は出来ない使い捨てでぇす)
フィレは一体何処に居るのか。目線も動かせないので、探しようがない。俺の目線にはこれまで使われていなかった空間に数字が表示され、カウントダウンが進んでいる。恐らく、これが残り時間なのだろう。
(でもこれ、身体が動かないんじゃ、何の解決も出来ないんじゃないのか?)
(マスターさんの装備には、脳の動作速度を上げる機構しか搭載できていませんからね。でも、私の身体に仕込んでいたナノマシンには、こちらもまだまだ試験段階の物ですが、身体の動作速度を上げて、自由に動き回れる仕組みを組み込んでいました!)
脳内に響くフィレの声が、徐々に喜びに満ちた感じに変わっていく。
(これは、科学の、勝利でぇす!)
視界にフィレが入ってくる。しかし、彼女のその姿は全身に異常な量の傷や欠損を負っており、それなのに血は流れていない。一体何が起きているのだ!?
確かに動いている。しかし、その動きは遅く、決して自然ではなくガクガクしており、一つ一つの動作に引っ掛かりがある。そして動くたびに肉体に突然、無数の傷や窪みが出来ていくのが見えた。
(フィレ、お前の身体、それ大丈夫なのか? 動くたびに、物凄く痛そうな事になって……)
(わ、私達の身体は、こんなに超高速で動くようには出来ていませんからね。こう見えても、周囲に衝撃波を撒き散らしたりしませんし、ある程度、ダメージは軽減しているんですが……まだまだ技術が追い付いていませぇん。恥ずかしいでぇす!)
唐突に、目の前で彼女の左腕の皮がゆっくりと剥がれだした。剥がれた皮膚は血を吹き出したりせず、地面に落ちることもなく、ふわりと浮かび続けている。
音が聞こえる訳でもない。しかし、その音は聞こえてしまった気がする。彼女が歯を食いしばる音だ。
(ひぐっ、こ、これ、は……要、改善、でぇす!)
そのまま小型のメス爆弾までたどり着き、上からそのボロボロの身を覆い被せる。
(……い、今から、渾身のイタズラをしまぁす。これで、爆弾は爆発しなくなるでしょう)
(わかった。それにしても、フィレには助けられてばっかりだな)
(この爆弾が最後とは限りません。不発に戸惑うであろう女神メスを、戸惑うよりも前に……!)
(試合が終わったら、何か、お前が好きな料理を作るか。材料は何でもあるし、俺はそれほど上手ではないが、割と何でも作れるぞ)
(うそっ!? うそうそぉ~……! それじゃ、あ…… トンタマで、頂いた、甘くて素敵、な…… 忘れ、られない…… あの味を…… お願い、しま、す)
そう……
お願いします。
あなたの力や、皆の力で
何よりも大切な、
6号様のお命をお守り下さい……。
この殆ど停止した時間の中で、フィレの周囲が何やらキラキラと輝きだすのが見えた。一体何を始めたのかは分からないが、同時に目の前のカウントダウンが0になり、再び時間が動き始める。
「アハ、ハハハ……! メス爆弾ミクロ、起爆~~っ!!」
カチリ、と音を立てて、上級女神メスの手に握られたスイッチが押される。しかし、観客席をも巻き込んだ大爆発を起こすはずなのに、何も起こらない。爆弾には、いつのまにかぼろ雑巾のような状態のフィレが覆いかぶさっていた。
「ア……れ? 接触不良?」
メスが、手元のスイッチを何度も何度も繰り返し押す。しかし、何の反応も無い。何が起こっているのか意味が分からず、戸惑いの表情を浮かべるよりも先に。
「くらえっ!【イナズマ・マシン・キィーック!!!】」
以前にこれを使って洗脳状態の皆と戦った際、フィレ曰く「間に合わせ状態」だった装備から放たれる、信じられない速度のキックやパンチの威力に、俺は何度も驚愕していた。まぁ、勝負には負けてしまったわけだが。
今回の装備は、あの時とは違う。目の前に表示される様々な情報も一層詳細になり、現状の把握を容易にしてくれている。相手の弱点を分析し、効率的に命を奪う場所に攻撃を打ち込むべく、軌道を修正してくれるのだ。
強烈な電撃を纏ったイナズマ・マシン・キックが、メスの丸出しの横腹を直撃したように見えた。
「『女神バリア』~~~ッ!!!」
キックを押し返すべく、傷ついた体からエネルギーを絞り出すように張ったのだろう。フリスビーくらいの大きさしかない、レム姉さんのバリアなどとは比べ物にならないくらい稚拙な特殊効果しか見えない防御壁だ。しかし、それでも女神バリア。それも、上級女神の張ったバリアだ。その異常に高い防御力で、蹴りは空中で止められてしまった。イナズマ・マシン・キックはまだ進みを止めていないのだが、標的に辿り着くことが出来ない!
「何故、爆発しないのだ? おかしい、こんな訳がががががががががががっ……!!?」
メスの動きが固まり、全身を硬直させた。これは、ルアの電撃だろうか!?
女神バリアが消滅し、勢いを取り戻したイナズマ・マシン・キックが上級女神メスに触れた瞬間、水風船の最後のごとくその身体がパァンと音を立ててはじけ飛び、転げ落ちる洗脳魔道具。こうして、最後は割とあっさりと決着がついたのだった。
洗脳魔道具や、フィレが覆いかぶさったメス爆弾ミクロがそのまま残っている事などから、係員が闘技場に殺到する。しかし、フィレやメス爆弾に触ることは出来なかった。
装備で調べてみると、詳細は不明なのだが、どうやらフィレを中心とした直径1m程の物質の構成を弄くり、透明度の高いガラス細工に変えてしまったらしいのだ。まるで巨大なビー玉のような状態のフィレは、とりあえず係員の手によってチームの小屋に安置された。
「くっ、俺がもっと強ければ!」
「もっと早く、電撃を打ち込むべきでちた」
「変態だったけど、悪いやつじゃなかった……ね」
「ぶああああっ!! ぶああああ~ん!!!!」
「フィレちゃんの死と引き換えの勝利だなんて……」
6号は、何も語らず、ふるえて俯いていた。姫が、背中をさすってやっている。
無理もない。何しろ、今、彼女の腋に吸い付いているフィレの腋なめテクニックは、6号の正常な心を破壊して快楽に溺れさせた事すらあるものなのだ。
フィレはビー玉化で命を失った後、いつもどおり何の問題もなく復活した。チーム小屋から躍り出てきて数秒で6号の腋に吸い付き、それから一言も喋っていないが、あの幸せそうな顔を見る限りは大丈夫なのだろう。
フィレの死と復活は、今回は大目に見られることになったらしい。
「ちゅぶっ! ちゅぶっ! ちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶ!! ちゅぶぶっ!! ちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶ!! ちゅぶぶっ!! ちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶ!! ちゅぶぶ~~~っ!!」
「あ、あ、あっ!? あ~…… ひ、ひいっ……ひぎいいいん!!! 駄目、駄目駄目駄目!!! 変♡なの来ちゃう~っ♡♡ 変♡になっちゃうの~~~っ♡♡♡ ぎ、ぎぼぢ、ぎぼぢイ~~~~~~のっ♡♡♡」
洗脳魔道具は大会運営に回収され、調査に回された。敗退選手用広場で復活したメスや筋肉戦士達には事情聴取が行われるも、やはり昨晩からの記憶が無くなっており、誰が何のためにこのような事をしているのかは解らなかったそうだ。




