105 怪物少女の闘争:八回戦 真実の上級女神ウル vs 踊りの上級女神ジュリ その②
「私も詳しくは知らないのだけど、タンザナイトの為に生み出された技術を他でも有効活用したかったらしくて、裏では色々と試作されてたらしいのよね~」
ヌガー様が、なんとこれっぽっちも脱がずに、真面目な表情で語り始めた。時折見せる、この真面目な姿だけで活動してくれていたらいいのに……と、毎回思ってしまう。
「地上の流行に影響されて、使い捨てタイプとか試作してたらしいし、洗脳や操作の強度を高める実験もしていたみたい。結局は全て一緒に使用禁止になって封印されたのだけど、先の事件でそれらも全て持ち出されていたのかも……」
要するに、洗脳魔道具の力を利用する何らかの個人か団体かが存在する可能性はあるという事である。事実として目の前では、あの厄介な洗脳魔道具が使われているのだ。
「なあ、洗脳されたやつが大会に参加する事に、問題はねえのかよ?」
「うーん? 何にしても、これって異常事態だと思うし、情報は報告させてもらうわね。洗脳魔道具についての詳しい情報を知ってるのって、一部の上級神と私達とヌガーちゃんねるの視聴者くらいだと思うし」
「それにしても、一体どこの誰が、何のためにこんな事……を?」
闘技場上では女神ビームの乱射が続いているのだが、発射している4名の顔つきが消耗しきっていて、拡大表示されるとかなりヤバい。本当は、こんなに撃てるものではないのだろう。発射される際の光の加減からも、女神ビーム自体がどんどん弱まっているのが判る。それでもなお凶悪な威力なのだが……。
このビーム乱射に耐えているウル達の防衛能力も何気に物凄いものだ。
「これは……!」
キリコが急に立ち上がり、珍しく興奮気味の顔で語り始める。
「私も考えたことはありました。もしも女神ビームを撃たれたら、葉隠流術者としてどう対抗するか、と。擬死、潜伏、幻惑……様々な手法を考えました。……ですが、やはり我々の一族には、この技が一番しっくりきます! 師範、やはり我々の技術は、葉隠流は素晴らしいですよ!」
しかし、俺の目には、圧倒的な攻撃力の差で、真実の上級女神ウルチームは崩壊寸前のように見えていた。既に闘技場から消え失せている師範を褒め始めたキリコは、一体何を褒めているのだろうか?
とどめを刺すつもりか、4つの光が同時に発生した、その瞬間。
「「 葉隠流暗殺術・変わり身の術っ!!! 」」
キリコと、キリコの師範の声が、極太の光線が発生するのと同時に響き渡った。
女神ビームは、もの凄い威力を持った攻撃だ。しかし、連射や乱射は出来ず、出来たとしても消耗が激しく、命にかかわってしまう。一度発射したビームの方向を変える事は出来ない、一度出し始めたら出し切るまで動けないなど、何気に地味な弱点も多い攻撃らしい。
女神ビームが着弾していた箇所にいた筈のウル達は、いつのまにか木の切り株に姿を変えており、次々と女神ビームが着弾して消え失せていく。
当の本人たちは全員が女神ビーム4発を同時発射中で隙だらけのジュリ達の真上に姿を現した。剣を振りかぶり、短刀を突き出し、大口を開け、一人も欠けずに落下しながらそれぞれが叫ぶ。
「グハハッ! 俺様達が、イチバンになってやるぜ~っ!!」
「私の微力だけでは……でも、皆の力を合わせれば、或いは」
「ぶひょおおおおおおおお~ん!!! いただきまぁ~す!!!」
女神も戦士もモンスターも、全員が3人の女神戦士に集中攻撃する。その激しい攻撃は、女神ビームを発射し終えていない身動きの取れない女神たちを、一人残らず原型も残らない状態にまで叩き潰した。
『こ、これは凄い! 圧倒的な火力差で敗北寸前のように見えたウルチームが、恐るべきチームワークで、踊りの上級女神ジュリチームの戦士3名を完全撃破しました! 真実の上級女神ウルチームの勝利でぇす!』
勝利と聞いて、笑顔になってぺたりと座り込むウルチームの面々。各所に怪我をしているのは本当で、しんどい戦いだったようだ。
「凄いな、変わり身の術。何度も見てきてるが、これほど見事なのは初めて見たよ」
「本来の変わり身の術は、こんなに大勢の存在を一度に弄る技じゃないんです。師範だから出来た無茶ですが、さすがにお疲れでしょうね……」
天を仰いでいる師範に、身体を引きずるようにゆっくり近づいてくる上級女神ジュリ。
彼女の尻には洗脳魔道具が張り付いたまま、虹色の光を放っている……。
『さて、明日の4試合は……あ、あれっ? ちょっと、ジュリさん!?』
突然ジュリの手から発された光線が師範の頭を貫きそうになったが、間一髪の所で避けたらしく、天狗のお面を貫いただけだ。
「あっ、危なっ……! えっ? どうしてです!?」
「おいコラァ! この神ビッチ、何のつもりだよ、オイ!?」
今の攻撃は、最後に残った力をかき集めた女神ビームなのかもしれない。だとすると、どちらにしてもジュリチームは限界が近かったのだ。
憔悴しきっているのに無表情のジュリが、突然、ぶつぶつと何かを言い始める。そしてほんの数秒後、やけに軽快な音をたて彼女の洗脳魔道具が粉々になり、まるで糸が切れた操り人形のように地面に崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった。
その後、意識が回復したジュリや、敗退選手用広場で復活した女神戦士達には、闘技場で戦った記憶が殆ど無かったらしい。記憶しているのは昨晩布団に入って寝た所まで。記憶の神によって過去を洗われるが、有力な情報は得られなかった。




