103 怪物少女の闘争:七回戦 嘘の上級神ウッソ vs 偽の上級神ガンガン
豚人間戦士達は、闘技場の上を簡単に掃除してから頭を下げて去っていった。
観客たちからの声援も熱く、人気がありそうな雰囲気。彼らの手の内がはっきり解っていない以上、何気に結構な強敵かもしれない……。
「もぐもぐっ! チャーミーは、もぐっ、ファーザーの闘いを見届けましたぁ~ん!!」
ソファに座り込みクッキーのような焼き菓子を頬張りながら、突然チャーミーがぶうぶう鳴き声を上げた。
この豚人間、つい先程まで幻の食品を眺め興奮していて、どう考えても試合を観戦しているような雰囲気では無かった筈だが……。
『さて、アナウンサーを交代し、ここからは私が誠心誠意、実況させていただきまぁす!』
台上に上がり観客に両手を振り上げて挨拶したのは、ぷりっぷりの肉体にあどけなさの残る顔つきの、どう見ても豚人間の女性だった。
「選手に続いて実況まで豚人間だぜ? 天界にも豚人間、多いんだな……?」
「そりゃそうですよ、なにしろこの世界の地上と天界に現存する人口の半数は、豚人間ですからね」
「ぶおおお~ん! 屋台の店主さん達にも、同族が居ましたでぇす!」
「ミドルスコール周辺は、大戦の影響か、豚人間が少ない……けど、地方だと豚舎で大勢暮らしてるらしい……よ」
レム姉さん達が衝撃的な事を言い始めたので、思わず口にしていた煎餅を落としてしまいそうになった。
『さて、嘘の上級神ウッソさんと、偽の上級神ガンガンさんが闘いまぁす! 嘘と偽の闘い、似た者同士な感じがしますけど……選手の入場となりまぁす!!』
二人の名前を聞いた途端、ヌガー様は小さな唸り声を上げ、闘技場を見るのをやめて、食料庫から出してきた謎の黒い果物を切り始めた。
まん丸い果実を包丁で割ると、中から濃厚な香りを纏った鮮やかな赤色の果肉が姿を表す。
見た感じでは、どうやら俺の経験ではあまり良い記憶の無い種無しスイカのようだ。
値段が高い割に味が劣りあまり美味しくないイメージしかないのだが、目の前の種無しスイカは皮の色合いからして普通の物とは何かが違う。
聞いてみると、どうやら最近地上で売り出されている新品種で、厳密には種無しではなくほんの少しだけ種があるが、味は良いらしい。
一切れ頂いて食べてみると、ギュッと詰まった芳醇なスイカの甘みが口蓋内に広がり、爽やかでとても美味しい。
「この味、もしかしてチーズとかと簡単に組み合わせたら、抜群に美味しいんじゃないかなあ?」
「ぶおおお~ん!? なっ、何でもしまぁす! 作って!! 作ってくださぁ~い!!!!」
おねだりする際の淫猥で物凄いポーズを取り始めたチャーミーの圧力に耐えきれず、まぁ、そんなに大変な料理でもないので、とりあえず食料庫に行き、材料を探す。
目についたモッツァレラチーズとオリーブオイル、レモンやバジルなどを調達し、適当に切ったりかけたり、爪楊枝で一食分を固定しまくって、はい出来上がり。
ずいぶん雑な料理じゃない? これ本当に美味しいのぉ? という顔で口に放り込むヌガー様の表情が一変する。確か、組み合わせて使うチーズによって味わいが大分変わってくるのだが、これでも十分おいしい筈だ。
「な、な、なによこれ、本当に美味し……」
皆が口に入れ始め、それぞれ感想を口にし始める。
「おっ? 旨え! なんだこれ、食ったことねえ味なのに旨えよ!」
「ん~! 昨日の夕食もでちたが、マスターはチーズを使うのが上手でちね~?」
「美味……だね。こんなのを食べたら、豚の頭が壊れてしまう…… はいっ!」
「ぶびょおおおおお~~~~っ!? うびょっ、ぶびょおおおおお~んっ!?」
「マスターの故郷には色々な味があるのですね。これにも驚きました」
「うっ… うっ… 私、これを食べたエネルギーで頑張りますね……!」
「うっ♡ うっ♡ 私、これを食べたエネルギーで頑張りまぁす♡♡♡」
「おお、これは良いな。トマトじゃなくスイカでも美味いんじゃな!」
俺も食べてみたが、やはり美味しい。簡単な料理とはいえ、試食せずに出すのは正直どうかと思ってはいたのだが、失敗せずに出来ていたようだ。
『えーっ……観客の皆様に申し上げまぁす。七回戦ですが、まだ嘘の上級神ウッソさんのチームが闘技場に上がってきませぇん。ウッソさん、トイレを早く済ませて、早く登場してくださぁい!』
豚アナの困惑した声が聞こえる。神様を自称しているのに、トイレに籠もってるのか……。
「まぁ、嘘野郎は信じられないくらいの嘘つきですからね。どうせトイレで漫画でも読んでいます。この試合、開始までにどのくらい時間がかかるのでしょう?」
「嘘野郎と贋作屋の対決とか、まともに始まるわけがないとは思ったんだけど、まさか当たっちゃうとは思わなかった」
レム姉さんとヌガー様がスイカを口にしながら、厄介そうな事を言いだした。レム姉さんへの無能呼ばわりもアレだが、嘘野郎や贋作屋なんて呼ばれている奴まで居るとか、神界ってところは……。
『ひぃん! ウッソさん、早くしてくださぁい! 皆さん、お待ちしているんでぇす!』
「嘘野郎なだけでなく、臆病者だったのかァ? 早く闘技場に上がってこォい! 俺の戦士たちは既に覚悟を決め、準備運動も万端だぞォ!」
「我々ガンガン戦士はっ! この闘いの為に! 身体をガンガン鍛え抜きましたぁーっ!」
「ガンガンやるぞっ~! ガンガンやるぞっ~!」
偽の上級神ガンガンチームの面々が大声で煽っている。しかし、ウッソは一向に姿を表さなかった。暫くして、お立ち台の上の豚アナの挙動が怪しくなり、何やら狼狽し始めた。
『えっ? ……嘘でしょう? えっ……』
生演奏の音楽が停止し、闘技場を彩っていた花火や風船などの装飾が一気に引っ込み、ただ事では無い感じだ。
『み、皆様、ご静粛に! 只今、判明した事をお伝え致しまぁす!』
ざわめきは残っているものの、静まり返る観客席。
『闘技場で嘘の上級神ウッソさんの排便終了を待っている、偽の上級神ガンガンさんチームですが……。全員が偽者である事が判明しました。これは、無条件で失格となりまぁす! こ、こんな事が起こってしまって良いのでしょうか!?』
次の瞬間、大きな笑い声を上げて喜びはじめる、偽の上級神ガンガンチーム……を名乗る偽者の皆さん達。
「アハハ! 闘技場のシステムですら、ガンガン様の素晴らしき虚偽技術を見破れなかったようだなァ! 誰がどう見破ったかは知らないが、そう、俺たちはガンガン様の下で働く、神でも何でもない、ごく普通の小間使いだァ~ッ!」
「今頃、本物のガンガン様は、下界のビーチでバカンスしていらっしゃる!」
「ガンガン様万歳~! ガンガン様万歳~!」
係員たちに闘技場から引きずり降ろされていく偽者達の表情は、とても明るい。
「これは、一種の宣伝ですね。この闘技場に偽者を送り込めるだなんて、何気に物凄い贋作技術ですし。ですが……」
「なんだろうなあ、これ……」
目の前の闘技場の上には、誰もいなくなってしまった。
困惑しきった豚アナの顔が拡大表示される。
『あ~っ…… え~…… そうなると、勝者は、嘘の上級神ウッソさん達になるんですがぁ……』




