101 怪物少女の闘争:五回戦 死の上級神シデス vs 超特級女神・極聖マルリリッカ その②
確かに、相当に地獄感の強い光景になりつつある。特に地獄感を強めているのはゾンビ女子中学生達だ。
マルリリッカの変身と共に全員がビョンと飛び起きて、体中から謎の粘液を垂れ流し、眼球は左右別方向を向いている様が全自動で拡大表示され、見たくもないものが見えてしまう……。
『な、なんと!? 超特級女神・極聖マルリリッカさまの死んだはずのボトルモンスター達が、次々と蘇りましたでちゅ~っ!? 闘技場では彼女たちによって、歌と踊りが繰り広げられていま~ちゅ!!』
少し前から死神戦士が何度もバッ!と両手を広げているのだが、先程と違って9人のボトルモンスター女子中学生達は倒れたりせずに歌って踊り続けている。理由は簡単で、既に全員、肌の色が緑に近いゾンビ的な存在に変貌してしまっているからだ。
「やだ、みんなゾンビになっちゃってるぅ~!」
「どうしてっ…… 何でこんな事にっ……」
「ひいん…… 中学生でも働けるバイトだって聞いてたのにぃ……」
歌って踊るゾンビ女子中学生の後ろでは、ボトルマスター女子中学生達がひんひん嘆きながら、手に持った楽器でマルリリッカソングを演奏していた。
流石に食欲を感じられず、手元のポップコーンを机に置く。
「突っ込みどころは沢山あるけど、ゾンビが死体顔で立ち上がって、マルリリッ♡ マルリリッ♡ って歌って踊ってる事が一番気になるし、夢に出そうだから拡大映像を止めてほしいなあ……」
「ゾンビは女神スキルの賜物でしょうかね……後ろの子達は、マルリリッカの女神バリアで守られています。ゾンビみたいになったら楽器を扱えなくなるとかいう理由だと思いますが」
「確か、本当は修行の神だったよな? 修行でゾンビ化って、何をどうすれば実現出来るんだよ……?」
「修行の神は全てを修行して実現するのよ。訳が分からないだろうけど、私にも訳が分からないから大丈夫よ!」
まぁ、ゾンビと言っても恐らくは、この大会を支配している巨大な陰謀組織の力で何らかの薬物を投与されて、ゾンビのような見た目になってしまっているだけだろう。
ゾンビ達はマルリリッカの命令を忠実にこなすようで、歌は音を外したり声がおかしかったりしているし、踊りも何処かゾンビっぽい感じで不気味だが、まぁ……問題ないと言えば無い。
「それにしても、ゾンビになった女子中学生達を、生きていた時のままにボトルモンスター扱いするとか、この大会本当に何でもアリなんだな……」
ゾンビが有りだとすると、勝つためには戦士であるボトルマスターやボトルモンスターを完全に消し飛ばさないといけない。
だが、超特級女神・極聖マルリリッカを名乗るあの上級女神は、そんな隙を与えようとはしないようだ。
大会のルールなどお構いなしに、女児向け玩具っぽい見た目なのに、やけに殺傷能力の高そうな鈍器をぶんぶん振り回して、死神戦士を叩き殺そうとしていた。
「上級女神ともあろうお方が、直接戦いに参加だなんて、見苦しいデスよ!」
「正義の戦いは、正義が決めるの! 悪には、正義を止める事なんて出来ないんだからね!」
ぶん! ぶん! 何度も振り下ろされる鈍器だが、短時間の透明化を繰り返し素早く避ける死神戦士には当たらない。
「(呼吸音)(呼吸音) マルリリッ、目で見てもダメ! 心で感じるんだぷぅ~! (呼吸音)」
「わかったわ! いくよ~……! んんんっ! 【超特級女神アイ】~~ッ!!!」
どう見てもレム姉さんが良く使う女神スキルと言う名の手品と同じスキルだ。マルリリッカの瞳が怪しく輝き、赤い光が灯っている。
「ここだよ……っ!」
何もない空間に鈍器を叩きつけるマルリリッカ。
大きな破壊音が鳴り響く。だが、凶悪な鈍器の攻撃を受けていたのは、死神戦士を庇った死の上級神シデスだった。
攻撃を受けた左腕は、奇妙な方向に折れ曲がってしまっている……。
「シ、シデス様! 何故わたくしなぞを庇って、このような無茶をしたのデス!? 腕、痛くないのデスか!?」
「当然、めっちゃ痛いデス……。しかし、戦士であるお前が倒されたら、戦いは終了デス。傷は、戦いが終われば癒えるのデスから……!」
折れ曲がった左腕を掴んで伸ばし、正しい位置に直しながら、目前に何か光の玉を浮かべたシデス。
「さあ、今デス! 手間取りましたが、女神バリアを解除完了の印デスよ!」
「オ、オオッ! 早速ですが、死ぬデス!」
両手を広げ、即死スキルを使う死神戦士。今度こそ、ボトルマスター女子中学生3人は無残に絶命した……ように見えたのだが?
「ひいィイっ! お助ケ、をぉ~っ!」
「怖イよォーっ!」
「ゾンビやァだーァ!!!」
3人は倒れず、口からは助けを求める言葉が発されていた。
……3人の言葉遣いは、何処か怪しい。よーく見ると、身体の一部が服とこすれあったのか、塗って隠していた下の色が見えてしまっていた。
なるほど、そういう事か……。
「何故デス!? 確かに命を散らした筈なのデスが……」
「おかしいデスね? まさか、既に……?」
大きく目を見開き、驚愕を隠せない死神戦士と、薄っすら仕掛けに気が付いたっぽい死の上級神シデス。
双眼鏡を覗き込みながら、アオリがポンと手を叩いた。
「最初から怪しかった……けど、なるほど、あの3人は、最初からゾンビ……だね。特殊メイクで判らなくしてた……みたい」
「げぇ……ちょっと待てよ、ゾンビでもなれるのか? ボトルマスターってやつは……」
「楽器の演奏は実際にはしていなくて、録音テープか何かで流していたのかも?」
「もぐもぐ? 無駄な攻撃をさせる為の罠でぇす? むしゃむしゃっ!」
「なるほど……。仕掛けが判ってしまえば何という事は無い術ですが、何気に色々と応用が利きますね」
キリコが何故か深く感心しているが、頼むから仲間をゾンビ化して戦おうなんて思わないでほしい。彼女の忍術には近い技がありそうで恐ろしくなってしまう。
ぐちゃぐちゃの粘液を垂れ流しつつ、演奏し歌って踊る12人のゾンビ女子中学生の前に、超特級女神・極聖マルリリッカが立ちふさがり、死神達に鈍器を突きつける。
「見ての通り、みんなの魂は元通りだよ! 邪悪な力は、極聖の力でキャンセルさせてもらったんだからねっ!」
どう見ても魂は元通りではないし、キャンセルされてもいないと思うのだが、彼女の中の物語的にはそうなっているのだろうか……?
ヴァアアーッ!!! マ・ル・リリィ~~ッ!!!
今だ撃て~~っ! 撃てば勝てるぞ~~っ!
俺を撃ってくれ!! 苛め蔑んでくれぇ~っ!!
マルリリィ~~ンッ!!! マルリリィ~~ンッ!!!
相変わらず、観客席のマルリリッカファンおじさん神達が大騒ぎしている。
闘技場の上に再び花びらが舞い散りはじめ、ゾンビ達の演奏が別の曲に切り替わったので、恐らく何か必殺技を出したりするタイミングなのだろう。何故こんなに日本の女児向けアニメっぽい展開なのかさっぱりわからないが、マルリリッカファン達の心にしっかりと届いているのだから恐らくこれで正解なのだ。
「シデス様、マルリリッカからとんでもないパワーを感じるデス……! どんどん大きくなっているデスよ!」
「くっ、こうなれば、死神必殺技を使うデス。間に合うかどうか分かりませんデスが……!」
曲に合わせて歌い始めたマルリリッカは、レム姉さんが最強のスキルを放つ際のポーズに酷似した体勢を取り始めていた。あの危険すぎる必殺技、他の女神でも使える奴が居るのか……!
たかまる♪ たかまる♪ あたしのちから~♪
「「「 3・2・1♡ マルリリッ♡ 」」」
極太パワー♪ 届いてほしいの~♪
「「「 3・2・1♡ マルリリッ♡ どびゅ~ッ♡ 」」」
マルリリッ♪ マルリリ~ッ♪ 届いてっ! 貴方のマルリリッカ~♪
「貴方の心を狙い撃ちするんだからね! 3・2・1・【超特級女神ビ――――ム】ぅ~~ッ!!!」
まるっきりレム姉さんの女神ビームと同じような特殊効果が発動する。突き出した指から全方向に射出された光が、死神チームの二人に向かって1本に収束した直後、極太の破壊光線に変化し、死神達をあっさり飲み込んでいった。
「見た目は似ているが、レム姉さんの女神ビームのほうが強烈な感じがするな」
「こんな、なんちゃって女神ビームと比べられちゃ困ります! 何を隠そう、私の女神ビームは神界でも相当レベルが高いスペシャルな女神ビームで……」
そうは言っても女神ビームである。強烈な破壊力で、死神二人は影も形も残っていなかった。特設ステージ上のアナウンサー、ネズミ少女が興奮した声を上げる。
『何という事でしょう、死の上級神シデスさまチームが消滅しまちた~~! よって、五回戦は超特級女神・極聖マルリリッカさまのチームの勝利でちゅ~~!』
「みんなの力の勝利! お兄ちゃん、超特級女神・極聖マルリリッカ、勝利のポーズをキメるね!!!」
背後に粘液を垂れ流す12人のゾンビを従えながら、とびきり可愛げなポーズを決めるマルリリッカの姿を見て、会場のファンのおじさん神達が大興奮の渦に巻き込まれ、大盛り上がりだ。
その時、ポーズをキメたマルリリッカの背後で、ゾンビマスター女子中学生が1体と、ゾンビモンスター女子中学生が4体、突然同時に粉粒となって崩れ、消え去った。
『おおっと!? 死の上級神シデスさまの最後の攻撃が通じていたのでしょうか!? 超特級女神・極聖マルリリッカさまの戦士及びボトルモンスター数体が、完全に消滅しまちた! これは有効となり、状況は次の試合に引き継がれまちゅ!』
しかし、マルリリッカは特に何も反応せず、その笑顔や勝利のポーズを崩していない……。
「みんな、ありがとう~~っ!! 次の試合も、マルリリッカを応援してね!」
う゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛~~~~んっ!!!!
俺が兄だっ!!! 本物の兄だぞ~っ!!! 兄で~~っす!!!
そのポーズは駄目だっ、教えただろう、マルリリィ?
マルリリィ~~ッ!!! しゃぶりつきたいよぉ~~ッ!!!
ふふっ、俺の為にポーズを決めているのか。ご褒美だな…!
マルリリの為に、弁当を用意したんだ! 一緒に食べよう!
関係者っぽいセリフを虚空に放つ病気の度合いが強い自称お兄ちゃんなおじさん神たちも大勢いるようで、これが八百万の神様達の現実なのか……という不安な気持ちが強まってくる。
「くう~…っ!! カミカミチューブの閲覧数では負けてないと思うんだけど、残念ながら人気は圧倒的に負けてる気がする……! くううっ、私もああやって、キャラやストーリー、テーマソングなんかをゴリゴリに作り込まないとダメかなあ?」
ヌガー様がなんだか良くわからない基準で悔しがっている。
しかし、そうか、なるほど、マルリリッカも配信者なのか……。
「これは、確かに地獄かもしれないな……。最終的には誰一人として幸せになれない気がする……」
「でしょう? 完全に地獄なのです……!」




