100 怪物少女の闘争:五回戦 死の上級神シデス vs 超特級女神・極聖マルリリッカ その①
翌日の朝を迎えた。簡単に体操をしてから、朝食を作り始める。
だが、何しろ材料が無限にある上に、どれもこれも質が良さそうな品ばかりなので、あれこれ目移りしてしまう。
結果としては、なぜかジャンクフード感丸出しの朝食が出来上がってしまった。
「んー? 美味けりゃ何でもドンと来いだぜ?」
鯖バーガーを頬張るファフニル。他のメニューはオニオンリングにりんごジュースとトマトサラダ、フルーツの盛り合わせだ。
まぁ、実際、鯖バーガーは美味い。起きてきた皆も喜んで食べている。
保存袋からチャーミーとフィレ用に一週間分くらいを保存していた豚人間専用特濃朝食ドリンクを取り出す。これを飲むとか冗談のような特濃すぎる見た目だが、彼女たちはこの一杯を十秒でチャージするのだ。
「今朝もっ!? 今朝も頂けるんですか!? ああっ、雌豚はどんな事でも致しまぁす~っ♡♡♡」
「これを飲むと、一日調子が良いのでぇす!」
バケツのようなコップに口をつけ、ずぞおおおおっ!!!っと一気に飲み干す二人。もう慣れてしまったが、時々その見た目の強烈さに正気を取り戻し、止めなくてはならないのでは?と感じてしまう。
今日は俺たちは見ているだけの筈なのだが、大会進行上の都合で急遽試合を繰り上げたりすることもあるらしいので、食後は念の為に出場準備。それが終わったら、とりあえず自由時間だ。
自宅がある暮らしというのはこんな感じになるのかなあ……等と思いながら各々適当に過ごしていると、五回戦開始の時間となり、全員で観覧席まで移動した。
『みなさん、おはようございまちゅ! 今日の司会進行は私が担当させてもらいま~ちゅ!』
今日の司会進行はネズミ少女だ。人間の女児くらいの大きさだが、どうやらあれで大人のようだ。あれでも神……なんだろうか?
『本日最初の対戦は、まずは毎日ものすごい量の魂を扱っていてメチャクチャ大変そうな、大きな鎌と死神衣装がお似合いの、死の上級神シデスさま! 戦士はシデスさまによく似た感じの方が1人でちゅね。単騎で参加とは、実力者なのでしょうか!?』
二人の姿は、様々な作品によく出てくる、よくある死神そのものだ。だが、反対側から出てきたチームの見た目のせいで、そのインパクトが薄れてしまった。会場内のざわめきが一層大きくなる。
『対するは……一部のお兄ちゃん達に大人気らしいんでちゅけど……超特級女神・極聖マルリリッカさまと、沢山のやけに初々しい女戦士ちゃんやボトルモンスター達で~ちゅ!』
「ま、マルリリッカ……!? 今日も早速、ヤバいのが出てきたわね……!」
レム姉さんが女神を見つめながら呆然とした顔で呟く。確かに、ヤバい感じがする。
「上級女神のやけに前世紀女児チックな恰好も気になるんだが、あの戦士の子達って…… とびっきりの女子中学生達、だよな?」
総勢十二名の女子中学生達が、怯えた顔で様々な装備を身に着けて闘技場の上に立っていた。
「戦えるのか? 見た感じ、何の備えもしてない普通の女子中学生だぞ、あの子達」
「どう見ても勝ち目があるようには思えねえけどなあ……?」
背後に居る三名のボトルマスターと思われる若干薄着の子達も、おそらくは女子中学生だ。薄着と言っても流石に全裸ではないが、公衆の面前に晒すにはかなり危険なラインを攻めている。
それにしても、負けたボトルマスターが变化して人畜無害なとびっきりの女子中学生になった筈が、その体で再びボトルマスターになるだなんて、ひどい話だ。
「そもそも、ボトルマスターって女子中学生でもなれるものなの?」
「今では何故か変態の巣窟になっていますが、元々、ボトルマスターは戦争の道具として作られました。モンスターボトルさえあれば誰だってボトルマスターになって戦場で戦うことが出来たのです。そう、子供でさえも例外ではなく……」
レム姉さんが急に重い設定を語り始めた。以前に少しだけ耳にしてはいたが、本当に戦争の道具だったのか。
「シデスは強力な上級神だけど、マルリリッカはありとあらゆる全てがおかしい子です。あれと戦うのを想像したくないですし、何でもしますよ、あの子は」
「ふむむ……ところで、超特級女神とか極聖とかって何だ? 上級神の上とか細かい役職みたいなのがあるの?」
「ありません。先程のあれは、何と言ったらいいのか……彼女の自称ですかね? 彼女の本当の名は、修行の上級女神マリカですし……」
闘技場上の音声が流れ始めたらしいのだが、何かアニメの主題歌っぽい音楽が聞こえる。
拡大映像を観ると、ボトルマスター女子中学生が鼓笛隊のように音楽を鳴らし、女子中学生たちがハーモニーする中、マルリリッカ本人がマイクを持って歌っていた。
みててね♪ みて!みて~♪
「「「 マルリリッ♡ マルリリッ♡ 」」」
すごーい魅力♪ 魅せてあげるね~♪
「「「 マルリリッ♡ マルリリッ♡ 」」」
マルリリッ♪ マルリリ~ッ♪ 今日も貴方のマルリリッカ~♪
そのタイミングで、観客席の一部が大騒ぎを始めた。旗を振ったりしているのはまだ良い方で、何か光るものを両手に持って、動きの大きい珍妙な踊りを踊っている珍集団までいる。
僕だ~っ!! お兄ちゃんだよぉ~っ!!
俺だっ! 俺だ~っ!!
うおおお~んっ! マルリリッカァァァーンッ!!
マ゛ル゛リ゛リ゛ィッ!! マ゛ル゛リ゛リ゛ィ~ッ!!
その歌を聞き、その姿を見て、俺は気が付いてしまった。ああ、これはダメなやつだ、と。
戦士死神が前に出て、女子中学生達に向かって両手を広げ、語りかけた。
「とても可愛らしい子供たちデスね。心苦しいのですが、早速死ぬデス」
両手の間から何かが飛び出したりしたわけでもないのに、先頭にいた女子中学生5名が顔色をものすごい色に変えてバタバタと倒れ始め、後続の4名も胸を抑えて苦しんでいる。
最後尾のボトルマスター達やマルリリッカ本人は無事のようだが、女神バリアにでも守られているのだろうか?
『おおっと!? マルリリッカさまのボトルモンスター5名が、いきなり絶命しまちた~っ! 残り4名も、胸を抑えて苦しそうでちゅ~!』
「なっ、何をしたの!? みんな! 返事をしてぇ~っ!!」
当然のように返事は無い。倒れた5人はどう見ても絶命しているし、残った4名もそのうち死にそうだ。
マイクに向かってセリフっぽい言葉を喋るマルリリッカの後ろから、太ったヒヨコのような謎生物がブルルンッ!と脂肪を揺らしながら顔を出す。
いわゆる日朝淫獣の類なのだろうが、見た瞬間に心配になるレベルで太っていて汗だくだ。
「(呼吸音) マルリリッ、見ての通り邪悪な死神でぷぅ! あいつの死のエネルギーが、みんなの命を奪いかけてるんでぷぅ! (呼吸音)」
「ゆ、許せない!! みんなの命は、絶対に私が取り戻してみせるんだから!!」
大きく手を振りかぶり、死神戦士に指を突きつけるマルリリッカ。死神戦士は、そんな事を言われてもなあという感じの困った顔をしており、見かねた上級神シデスがフォローし始めた。
「マルリリッカの言葉をまともに受け取ってはなりませんデス。今から私が何とかしてあのバリアを消すデス。あなたは、残りの戦士や怪物をデスしてくださいデス!」
「わ、わかりました。有難うございますデス!」
頭を下げる死神戦士。物腰が丁寧な二人は上司と部下という感じで、死神という感じは全くしない。しかし、敵を即死させる謎の力を持っている事は驚異的だ。メス爆弾の驚異的な殺傷能力も恐ろしかったが、この即死能力だってとんでもない。
「勝てるのかな……? 俺たち……?」
ポップコーンを頬張りながら、皆が突っ込みを入れはじめた。
「みんなの命を奪いかけてるとか言ってるけどよ、あいつらどう見ても死んでるよな?」
「なんか、盛大に漏らしてるでちね……完全に死んでまちゅよ」
何気に地獄のような光景の中で、胸に装着していたバッチが巨大なブーケのように変貌し、その上に飛び乗ったマルリリッカ。
ボトルマスター達が演奏する曲の中で照明に照らされ、過剰にキラキラ輝いている。
背後から肥満淫獣が顔を出し、息を荒くしながらも、あの手の陰獣がよく喋るような事を言いだした。
「(呼吸音)(呼吸音) マルリリッ、変身でぷぅ~!」
「みんな、お願い! 力を貸して!! 手をパーにして、万歳して欲しいの!!」
うわあああああーっ!!!
吸って~っ! 吸って吸って~っ!
出すよっ!! 出る出る出る出る~っ!!
マル・リリ!! マル・リリ!!
うひぃ~っ!! ぎひぃぃ~~~っ!!
客席の一部、マルリリッカファンのおじさん達が、大興奮の渦に包まれている。おじさん達というか八百万の神様達なのだろうけど、見た目は完全におじさんとしか言いようがない方達が、満面の笑顔を浮かべながら両手をパーにして万歳していた。
「えっ? あれって観客のエネルギーを吸ったりしてるの? それってアリなの?」
「ミライくん、マルリリッカの言うことは、殆どがただの演技ですから……」
キラキラキラッ!! マルリリッカの周囲を光と花吹雪が包み込み、闘技場を満たしていく。
みててね♪ みて!みて~♪
「「「 マルリリッ♡ マルリリッ♡ 」」」
すごーい魅力♪ 魅せてあげるね~♪
「「「 マルリリッ♡ マルリリッ♡ 」」」
マルリリッ♪ マルリリ~ッ♪ 今日も貴方のマルリリッカ~♪
最初の曲が流れる中、光の中から、衣装を着替えたのか、より一層リボンたっぷりのワケがわからない装備になったマルリリッカが、ピョ~ンと飛び出し、闘技場の上に降り立った。
「愛! 努力! 根性! そして正義の為に! 超特級女神・極聖マルリリッカ、ここに降臨したんだからねっ!!」
うおおおおおお~~~~っ!!!!
降臨っ!!! 降臨んん~っ!!!
マルリリィ~~ッ!!! マルリリィ~~ッ!!!
大騒ぎを見ていたレム姉さんが、長いチュロスを齧りながら、ボツリと呟いた。
「はぁ。地獄の始まりですよ……」




