01 五人の少女
気が付けば、浴槽に張られた妙に鮮やかな赤色の暖かな粘液に全身を浸けられていた。ぬとぬとしていて気持ちが悪い……。
浴槽から出ると、粘液は全て浴槽に戻っていき、俺の身体は全く濡れていない。何だこれ? 手品か?
周囲には、俺が知っている物の何とも符合しない、これまで見た事も無い謎の奇妙な装置が多数置かれ、浴槽と光を放つケーブル状の線で接続されて、ピカピカと輝いている。
何らかの機械なのだろうか? 単なるオブジェなのだろうか? 不思議な光を眺めていると、その人の存在に気が付いた。
物の中に紛れて置かれた普通の椅子の上に、これまた見た事も無いデザインの、それでいてなんとなく女王様っぽい格好をしたお姉さんが立っていた。
ニコニコ笑顔で俺を見下ろしているが、顔つきは女王様っぽくなく、勉強が大好きな委員長という感じである。
「おはようございます! 詳しい説明は省きますが、あなたは死んでしまいました。そういう訳で、別世界に今すぐ転生しましょう!」
転生。ネットにそういう小説が大量に溢れている事は知っている。だが、まさか自分の身に起こる事だとは思っていなかった。
というか、これは大変にうさん臭い。
転生とか、現実にあるわけが無い。何かの悪徳商法か、マルチ商法か……?
もしや、おかしな宗教団体の犯罪に巻き込まれているのでは……?
「……転生?すると、俺に何か良い事があるんでしょうか? 転生先で何をすればいいのかもわかりませんし、今回の話は無かった事に……」
「前世の記憶を持ったまま、お好きに第二の人生を歩めるんですよお! さらに、今なら豪華な特典付き! それに、私の評価が上がって、お賃金も上がるはず! 何故なのか判らないんですが、ずっと断られ続けてて、今回断られると、わ、わ、私の立場が危ういんです!!!」
話を途中で遮られた上に、俺のメリットが少ない気がするぞ……。
前世の記憶って言ったって、俺の人生はロクなもんじゃなかった。そんな記憶を持ったまま転生して、何が良いのか。
そういえば、死んだときの記憶が無い。もしや、過労で死んでしまったのだろうか?
俺、本当に死んだの?
「……一応聞きますけど、豪華な特典って何でしょう?」
「新世界の旅道具一式に加えて、この『モンスターボトル』が支給されます! このボトルに契約を交わした好きなモンスターを入れて、転生先に持っていって活用する事が出来るんですよ! ああっ、これはすごいいいぃ!! 出血大サービスなんですよおおっ!!」
お姉さんが取り出したのはペットボトルのような大きさの容器だった。と、いうか、どう見ても自販機で売ってるペットボトルだ。手触りも、重さも、素材感も完全にコンビニで買えるペットボトル。ラベルには、日本語でモンスターボトルと書いてある……。
「まぁ、他のボトルマスターとのバトルに負け続けると、罰則もあるんですが…」
「罰則って何ですか?」
「あっ、モンスターは、この中からご自由にお選びになって、ご契約をどうぞ!」
お姉さんが俺の質問を無視してパチンと指を鳴らすと、背後の照明が灯り、地下からにょきにょきと上がってきた複数の細長い檻の中で、5人の少女達が鎖や縄に繋がれて、ハイライトの消えた瞳を床に向け、絶望した顔でうなだれているのが見えた。