第8話 仲間が要る!
ダンジョンに突撃して分かった事がある。教会で復活するとダメージや魔力だけじゃなくて、飢えや睡魔もリセットされるらしい。
どうやら神は、どうしても俺達を転生に向かわせたいようだ。その結果がこのクソ仕様。もしこんなゲームが市販されていたら批判レビューが殺到するだろう。
しかたない。不本意だが思い通りに動いてやる。いくら死んで体がリセットされると言っても、三大欲求への思いは募っていく一方だ。
俺は、転生を目指す事にした。
だが問題がある。ソロ攻略、きっつい。
敵の攻撃を一発まともに受けただけで大ダメージなのだ。くらった場所によっては即死。いくら無限コンティニューできるといっても難易度が高すぎる。
さらに俺のスキルも問題があった。
俺の斧、威力は十分だがそれ以外の性能が軒並み低い。リーチは短いし、戦闘向きの道具じゃないし、投げたら戻ってくるまでの間何も出来なくなる。
そのブーメラン機能も致命的な問題があった。壁などの障害物に当たるとそのまま落ちたり刃が食い込んだりして戻って来なくなる。魔法的な力で戻って来る訳じゃないのだ。
ダークバレット? 一発で弾切れだし、動き回る敵に当てるのも実は難しかったりする。器用が☆2になって少しマシになったが、この先もっと素早い敵が出てきたら命中させるのは困難だろう。
要するにだ、俺が攻撃に集中するために防御寄りの前衛が欲しいのだ。そうすればもっと安定して戦えるようになるはずだ。
というわけで戻って来ました。集会所(の入り口)!
コミュ障の俺に仲間集めなんて出来るのかだけがネックだ!
きっつい!
ともあれ中に入らない事には仲間集めどころじゃない。俺は意を決して集会所に足を踏み入れた。
途端に集まる視線。集会所がシンと静まり返る。もう辛い。帰りたい。
あぁ……これあれだ、俺が教室に入った時のクラスメイト達の反応に似てるんだ。
「美少女キタコレ!」
「まじでかわいいぞ!?」
「だから言ったろ? すごい美少女の新人が来たって」
「俺たちとパーティー組みませんか!?」
えっ……、え?
ドッと沸き立つ転生者たち。俺は一瞬で男たちに囲まれた。
何という事だ。見た目が良いだけでこんなにも反応が変わるというのか。勝ち組じゃないか。
「俺らと冒険しようぜ」
「昨日はすぐに出て行ったから誘えなかったけどな」
「今はフリーなのか?」
「ぐへへ」
ヤバい。こいつらの視線が違うベクトルで怖くなって来た。全身を舐め回すように見られているのがわかる。
ちなみに俺の格好はダボダボの長ズボンに白シャツだ。決してエロい服ではないはずだがエロい視線が止まない。
それが顔や胸や尻に集中しているのを感じ、俺のキャパシティーが一気に限界に近づいていた。
こ、怖い!
「お前ら騙されるな。そいつ中身は男だぞ」
テロテロ!? なぜここに!?
いや、転生者が集会所に居て当然なんだけどさ、どんだけ根に持ってんだよ!
まあいい。おかげでこいつらも俺に興味を無くしてくれるはず。感謝しとくぜ、テロテロ。
「男……だと……!?」
「男の娘か?」
「いやTSだ!」
「TS……」
「TSか……」
「……(ごくり)」
おい、待て。なんだこの嫌な流れは。やめろ。
「「「……ありだな」」」
恐怖い!!
その時だった。
「ひぅっ!!?」
誰かに、尻を触られた。
とっさに背が反り返り鳥肌が立つ。
真後ろの奴に雷が落ちた。今のが犯人か。
どよめく転生者たち。
「―――――ッ!」
俺は
声にならない悲鳴を上げて逃げ出していた。
「おええええええええええっ」
行く当てもなく走った俺は最終的にどこかの森に逃げ込み、そのまま胃の中の物を撒き散らした。
何も食べてないから胃液だけが出た。酸っぱい臭いが鼻腔をくすぐる。
人間恐い。
やはり無理だったのだ。人々の中に入っていくなどコミュ障の俺には。
引きこもりだった俺には。
「うぐっ……ひぐっ……」
生前の記憶が芋づる式に浮かんでくる。生きていていい事なんて一つもなかった。
転生すると決めたのに、転生するのが怖い。
生まれ変わっても中身が同じじゃ、また同じ人生を歩むだけなんじゃないのか。
頑張ってボスを倒しても、その先にあるのが辛いだけの人生なら、転生する事に何の意味があるんだ。飯食ってオナって寝るだけか?
なんで、神は俺をこんな世界に落としたんだ。
森の静寂が俺のすすり泣く声を吸い込んでいく。ここには俺一人だけ。今この瞬間だけは、この森が俺をやさしく包み込む揺りかごだった。
……
沢山泣いたら、ようやく落ち着いて来た。
俺は目尻を拭い立ち上がった。気持ちを切り替えよう。切り替えて、これからの事を考えよう。時間だけはたっぷりある。
「落ち着いたんか? もうええの?」
「――!!?」
だ、誰だ!? 居たのか! いつから!?
「そんな驚くなって。そもそもここに居たのは俺が先やからな?」
声がした方を見ると、木の後ろに誰かが居た。
「誰……ですか? 俺に何か、用ですか?」
「そりゃ森ん中で人が泣いてたら心配くらいするやろ。もう大丈夫なんか?」
そう言って木陰から出てきたその男は
全身腐り果てたゾンビだった。
森に美少女の悲鳴が響き渡った。