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第58話 クエストの終わり

「遂にこの日が来たんだな」

「長かったっスね」

「ようやくやな」


 教会前の広場へとやって来た俺たち。


 引いてきた荷車には約1000個のレンガ。俺たちが採ってきた土で作った、そしてジョルデさんとジョン君に助けられてようやく完成した、大事な大事な成果だ。



「じゃまずは土をどけないとな」


 あちこちに穴が開いた石畳。破壊されたレンガを引き抜いてできたその穴は、平坦になるよう土で埋められていた。


 誰かが段差に躓かないようにとジョルデさんが埋めたのである。俺もこんな気遣いが出来る人間になりたいな。


「よっしゃ、任せとき」


 クワを召喚しレンガ分の深さの穴を掘るケムシン。搔き出された土は荷車の空きスペースへ。レンガの厚みは10cm程なので時間は大してかからなかった。そして底の方を押し固めて平らにしておく。


「こっちも準備できたっスよ」


 シリルさんがバケツを地面に置いた。中には白っぽい泥。粘土と石灰を混ぜて水でドロっとさせたお手製の接着剤である。


「乾くと縮むから多めにつけてね」

「分かった」


 ジョン君から渡されたコテという道具で接着剤をすくい上げ、そして石畳の穴の側面に塗りたくる。塗り終えたらその穴にレンガをはめ込み、そしてぐっと押し込んだ。さらに上に乗って体重をかけ、しっかり奥まで入れる。段差が無いように入念に。行き場を無くしてはみ出た接着剤はコテで均す。


 そうしてようやく1つ嵌め終わった。


「よし、どんどん行こう!」

「「了解!」」


 俺たちは順番に、そして丁寧に石畳を修復していった。


 作業が進むにつれ、虫食い状態だった石畳が元の姿を取り戻していく。


 なんの変哲もない、今まで気にも留まらなかったただの石畳のはずだった。でも今、その石畳はとても色鮮やかに見えた。


 隣り合うレンガの僅かな色の違いが、表面のざらつき具合が、レンガの並びのちょっとした不均一さが、莫大な量の情報となって俺の目に飛び込んでくる。


 レンガが1つ1つ違って見える。どれもが豊かな個性を持っている。1つとして同じレンガが存在しない。


 俺はそんな光景に酔いしれ、同時に楽しんでいた。



 そして作業は進み、ついに俺は最後の穴をふさいだ。これで完成。



「俺たち、やり遂げたんだな」

「そうやで」

「終わったっスね」


 静かにそう確認する俺たち。11日もかかった修復は、しかしあっけなく完了していた。


 そして一息遅れて押し寄せる、処理しきれないほどの圧倒的な達成感。


「やばい、涙出て来た……」

「皆よー頑張ったで……!」

「やったっスよ私たち!」


 思えばここまで大掛かりな何かを達成したのは、前世を含めて初めてな気がする。


 引きこもっていては絶対に感じる事が出来ない強烈な昂ぶり。そして誇らしさ。それが俺たちの心の中を駆け巡っていた。



「お疲れ様。おめでとう」

「ジョン君……」

「よくやったな」

「ジョルデさんも……」


 職人の2人は俺たちほど感極まってはいなかった。でも、確かに祝ってくれていた。そのことが嬉しくて、ようやく止まりかけた涙がまた止まらなくなった。


「こちらこそ、本当にお世話になりました……!」







 その後、教会にて。


「では報酬をお渡しいたしますぞ」


 クエストの達成報告を受け、クソ神父は満足そうな様子だった。


 報酬は1人当たり剣10本。俺の分と合わせてケムシンは20本の剣を手に入れる事になる。今後の攻略が一気にはかどるな。


「ではこちらへどうぞですぞ」


 そう言って壁の方へと歩いて行くクソ神父。


「どこにあるんだ?」

「さすがに数が多いので手渡しは面倒なのですぞ。なのであらかじめロッカー……ゴホン、金庫に入れておいたのですぞ」


 こいつ今金庫の事ロッカーって言ったぞおい。


 金庫というのは転生者向けに教会が貸している縦長のロッカーみたいなやつだ。木製なので、並んでなかったらロッカーというより掃除用具入れに見えるかもしれない。


 ちなみに鍵はついてない。金庫に見えないのはそのせいもあると思う。他人の荷物を盗もうとしたら神罰が下るから必要ない、というのがクソ神父の主張だ。



「ではご確認くださいなのですぞ」


 クソ神父が金庫を3つ開ける。


「左からケムシン殿、ミョンチー殿、シリル殿の報酬ですぞ」


 俺とケムシンの金庫の中には、大量の剣が詰め込まれるように立て掛けられていた。早速数を確認、と行きたいが、その前に1つ気になる事が。


「シリルさんの報酬、俺らと違うんだけど?」


 シリルさんの金庫の中には、大量の短剣が入れられていた。どう見ても10本以上ある。


「報酬は基本的に長剣ですが、本人の希望があれば短剣に変更可能ですぞ」

「重い武器は速度にマイナス補正がかかるんで私は基本的に短剣を使ってるんス」

「長剣1本を短剣2本と交換可能ですぞ」


 へー知らなかった―。こういうところなんだよなあ、クソ神父。もう諦めたけど。


「短剣以外の武器には変更できるのか?」

「そこまではサポートしておりませんぞ。他の武器が欲しくばボスを倒してガチャを引くのですぞ」


 うん、なんとなくそんな気はしていた。基本シンプルだよな、この世界のルールって。転生者に最低限の選択肢しか用意されてないあたりが特に。


 って話が横にそれたな。報酬の確認っと。


「ちゃんと10本あるな」

「こっちも10本やったわ」

「私も問題ないっス」


 一応適当な1本を取り出して刃の部分を爪に当ててみる。うん、ちゃんと切れ味もあるな。


「では報酬も受け取り完了という事で、お疲れ様なのですぞ、私」

「いやそこは俺らを労うとこだろ」


 ほんと、そういうとこだよな。





 教会を出て。


 俺たちは直ったばかりの石畳の上を歩いていた。足裏の感触が心地よい。


「シリルさんはこれからどうするんですか?」

「私は自分のパーティーに合流するっスよ」


 シリルさんは飄々とそう言った。彼女には彼女の本来の仲間がいる。名残惜しいがこればかりは仕方ない。


「じゃあもうお別れやな」

「シリルさんと一緒にクエスト出来て良かったです」

「あはは、また機会があったら一緒にクエストやるっスか」

「はい。ぜひ」


 俺たちは最後に握手をし、そのまま解散した。



 俺たちのクエストは、こうして幕を閉じたのだった。


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