第55話 和解
レンガを焼き始めて3時間。日が暮れて夜。
「暇っスね」
「まあ、確かに」
俺たちは早くも待ち時間という苦痛に悩まされていた。薪の投入は数分に1本。3人でやるような仕事ではない。
ジョン君は火の番をしているが、時間を持て余している俺たちには気を紛らわす様な作業は無く、ただただジョン君ばかりに働かせているという後ろめたさだけが募っていた。
「これが4日も続くのは時間がもったいないっスね」
「まあでも仕方ないですよ。俺たちが受けたクエストですし」
「ずっと3人で居る必要なくないスか? 交代で手伝えば残りはダンジョン行けるっスよ」
交代制を提案するシリルさん。時間を効率よく使いたいのだろう。素早さを貴ぶシリルさんにはこの停滞は耐えがたいのかもしれない。
「いや、あかんやろ」
だがケムシンがそれを真っ向から否定した。今までずっと静かだったケムシンの突然の否定にシリルさんが面食らう。
「え、駄目なんスか」
「このレンガ作りの趣旨って転生者が壊した石畳の修復やろ? 転生者が責任とって修復すべきなのを、転生者だけじゃ直せないからプロにお願いしとる形や。俺らが手伝っとるんやなくて、ジョルデさんとジョン君にお願いして手伝って頂いとる訳や」
そういえばそうだったな。言われるがまま働いてたから、いつの間にか自分たちが手伝ってる気になってた。
「レンガ作りを手伝ってほしいとお願いしとる俺らがサボっていい訳ないやん? どんなに手持無沙汰でもここに居らなあかん。それが礼儀や」
なるほど。確かにその通りだ。
「……ケムシンさんの言う通りっス!」
シリルさんが突如ダッシュした。ジョン君の目の前に行き頭を深々と下げる。
「ジョンさんすみませんっス! 聞いてて気を悪くしたと思うっス! 反省してるっス!」
「え、いいよ別に。気にしてないから」
「気にしてないと言うって事は、つまり気にしてたって事っスね! 申し訳ないっス!」
「え? あ、はい。じゃあ許すからもう頭上げて」
「あざっす!」
シリルさんいつの時代の体育会系?
「なんで転生者のくせにそんなに真面目なの?」
偏見ひでえな!
「別に転生者が全員ダメ人間なんて事は無いと思うぞ?」
「人それぞれっスよ」
「ふーん。確かに3人は普通のお兄さんお姉さんって感じだよね」
おい、なぜお姉さんっていう時俺の方を見た。
「俺は男だぞ?」
「そうなの?」
「中身はな」
「ああ、“せーどーいつせーしょーがい”って奴ね」
なんでこの世界にそんな言葉あるんだよ!
違うと言いたいが、心と体の性別が一致しないという意味では合ってるのか? 詳しくないのでわからん。
「まあ、俺はレアケースということで」
「ふーん……転生者って色々あるんだね」
ジョン君がソワソワしはじめた。火加減を見るため窯の中を覗き、しかしこちらもチラチラと見てくる。どうしたのだろうか?
「……じゃあついでにもう一つ聞くけど、なんであの時助けてくれたの?」
あの時というと、石投げられて転生者がキレた時の事か。
「あの時は助けなきゃって思って」
「当然の事をしたまでっスよ」
あの時の行動に特別感というものは特に無い。危ない目に遭っているのを見てとっさに助けだだけだ。至って普通の事だと思うが。
「……まともな転生者も居るんだ」
「見直したっスか?」
「うん。だから、その……」
そう言ってこちらに向き直るジョン君。
「あの時は助けてくれてありがとうございました。それと、石を投げてごめんなさい」
そういってジョン君は俺たちに頭を下げた。なんだ、すげーいい子じゃん。
「全然いいっスよ」
「転生者は頑丈やからな」
「俺たちこそ町で暴れてすいませんでした」
こうして俺たちは互いに謝り合い、大して無かった今までの遺恨をしかし、全て水に流したのだった。
なんかすっきりした気分だ。
「ところで知らないみたいだから教えておくけどさ」
そして話題が変わってジョン君。
「なんだ?」
「転生者って、俺たちに攻撃したら神罰下るんだよね」
「「「えっ!?」」」
「じゃああの時俺たちが助けなかったら……」
「ナイフが俺に触れた瞬間に転生者の方が死んで俺は無事だった。町の人なら全員知ってる事だけど、転生者は知らないの?」
俺たちがそんなルールを知らない理由は一つ。教えられてないから。
つまり、
「「「あんのクソ神父があああぁぁぁぁ!」」」
結論、クソ神父がクソ。
「俺が知ってる範囲で教えてあげようか?」
「「「お願いします!」」」
こうしてジョン君による転生者講座がスタートした。




