第42話
「本当は……ミョンチー様のパーティーに入りたいです……」
「言えたじゃん。本当の気持ち」
俺はマオに手を差し出した。ぐずぐずしては居られない。早くここから逃げ――
「虹ビーム!」
急に飛んできた光の束がマオの胸を貫いた。
倒れるマオ。
「マオ!」
そんなっ、クソが!
俺はとっさにマオを支えた。胸にこぶし大の穴が開いている。そこから大量に血が流れ出していた。
「マオ! おい! マオ!?」
「……危なかったです。助かりました」
マオが薄目を開けた。
「危うく、ミョンチー様を転生者の敵にするところでした」
「何言ってんだよ! 早く治さないと! 回復手段はっ!?」
「持ってません」
そんなっ!?
俺は傷口を手で覆った。くそ、血が止まらない!
「ですがこれで良かったです。私を逃がしたらミョンチー様の居場所がなくなります。ミョンチー様はこれから自身の転生に協力してくれる人を集めなければなりません」
「そんなのどうでも良いんだよ! 誰かじゃない! マオが良いんだ!」
「その言葉だけで十分です……」
マオの体がどんどん冷たくなっていく。そして手足の先から徐々に光に変わっていった。
転生したらそいつのダンジョンは消滅する。ボスは復活しなくなるはずだ。マオの対象者はこの戦いに参加しているだろう。
それはつまり、マオは生き返れないという事だ。
「畜生! 畜生……!」
「あなたと一緒に冒険出来て……楽しかった……です」
マオの体がどんどん光の粒になっていく。
「馬鹿野郎……これからも一緒に行くんだろ? お前は俺たちのパーティーの一員なんだから」
「――! はい」
最期にマオは、笑ってそう答えた。そして割れるように光に変わり、消えてしまったのだった。
「ごめんミョンチー! ケロンチョ止められんかった!」
ケムシンが駆け込んできた。鎧が解除されている。一度死んで復活してきたのだろう。
「マオちゃんは!?」
首を横に振る。
「そんな……嘘やん……」
「畜生……」
俺は、それしか言えなかった。
「やったぞおおおお!」
「ボスに勝った!」
「ガチャを引けるぞおおおお!」
周囲から歓声が上がった。先ほどまで居た使い魔が消えている。転生者たちが狂喜乱舞していた。
そして俺の後ろでも喜んでる奴が一人。
「やった……、やったやったやった! やった! ついにあのボスを倒した!」
「ケロンチョ……! てめえ!」
「やだなー、そんなに睨まないでくださいよ。ボスを倒せたんですよ? ガチャが引けて嬉しいでしょ? もっと喜んでくださいよ」
「ふざけんな! あいつは生きたがってた! それをお前が殺したんだ!」
わかってる。ケロンチョの言い分は間違ってはいないと。俺たちは転生者。ボスと戦うのは必然だ。
でも、マオには心があった。あいつはNPCなんかじゃない。そんな簡単に殺していい奴じゃない!
「じゃあなんです? あのボスを倒せないまま、転生できないままの人が居てもいいっていうんですか?」
「それは……」
「それに、私があれを倒す事は神が認めているんですよ」
「何を言って……」
その時、不意にケロンチョの体を光が覆い始めた。
「ようやく、ようやくです。ここまで半年もかかっちゃいました」
「なんだ……それ……」
「見るのは初めてですか。これは、まあ簡単に言えば、転生前に流れる特別演出です」
転生前の、ってまさか……
「お前なのか……! お前がマオの対象者なのか!?」
「TSというやつです。あなたと同じですね」
そんな……マオはこんな奴のために死んだっていうのか!?
「さよならです。遠野さんもせいぜい後は頑張ってください」
ケロンチョを包む光が強くなっていく。
そして
「これは何の騒ぎですかな!?」
クソ神父が教会から出て来た。
町を見回すクソ神父。控えめに言ってひどい有様となった町を見て、クソ神父に青筋が浮かんだ。
なぜか皆一斉に黙った。
クソ神父がこちらを見た。光っているケロンチョはさぞ目立っていたことだろう。
クソ神父がこちらに来る。
「ケロンチョ殿、なぜ転生しそうになっているのですかな?」
「ボスを倒しただけですけど?」
「……ミョンチー殿、ケムシン殿、何があったのですかな?」
「ボスが町に来てて、こいつが皆を率いて殺しやがった」
「ボスが町に? ……なるほど、ケロンチョ殿のボスですか」
目を細めるクソ神父。
「無効」
「は?」
「この転生は無効ですぞ。正規の手段ではありませぬゆえ」
「……ふ、ふざけないで! なんで転生できないのよ! ちゃんとボスは倒したでしょ!」
慌てるケロンチョ。それがお前の素の口調か。
「ダンジョンでボスを倒さなければだめですぞ。こんな大人数で倒しては試練とは呼べませぬ。趣旨に反しますゆえ」
試練?
「なんでよ! ボスが町に居るのが悪いんじゃない! あなたたち運営側の責任よ!」
「まったくもってその通り。ですのでスキルの配布は無効としない事でお詫びとしますぞ。それと今後はボスがダンジョン外に出る事が無いようメンテナンスもしますぞ。皆さまそれで文句は無いですな?」
周囲を見回すクソ神父。
「まあ……スキルが貰えるなら」
「そうだな」
「私は一向に構わん」
転生者たちが頷く。
納得できないのはただ一人。
「なんでよ! そんなので納得できるわけないでしょ!」
騒ぎ立てるケロンチョ。こうなっては文句を言うしか出来る事は無い。そんなケロンチョにクソ神父はため息をついた。
「それからケロンチョ殿。あなたには罰を与えますぞ」
「はあ!?」
「システムのバグを利用し不正に転生を計るなど言語道断。ケロンチョ殿は今後半年間、ボスを倒しても転生不可としますぞ」
「な!?」
「あなたはやりすぎたのですぞ。では失敬」
言うだけ言って、クソ神父は帰っていったのだった。
これが春のボス祭りの終幕、その顛末だった。




