第4話 闇魔法、かっこいい響きだ
「では私は昼寝の業務に戻りますゆえ、後はご自由にどうそですぞ」
そう言って聖書をしまうクソ神父。昼寝の業務ってなんだよ!
てかまずい。まだ分からないことが多すぎる。引き止めろ俺!
「あ、あの……」
去っていくクソ神父に向かって、俺は何とか声を絞り出した。
「なんですかな?」
「えっと、その……よかったら説明全部聞かせてほしい、です」
「ミョンチー殿、僭越ながら人生経験豊かで博学な私がアドバイスをして進ぜよう」
「え? えっと、その……」
「習うより慣れろ、ですぞ」
「は、はあ」
「では失敬」
そういってクソ神父は教会の奥へと消えていった。どうしよう……。
「たしか隣に転生者の集会所があるんだったよな。そこで情報収集するか?」
人見知りな俺にそんな陽キャムーブが出来るだろうか。一人きりならペラペラ喋れる自信があるが。
とりあえず覗くだけ覗いてみるか。話しかけやすそうな人が居ればまた考えよう。そうしよう。
教会を出るとそこは閑静な田舎町だった。ポツポツと立っている家はレンガとか木でできていて、道は砂利とか踏み鳴らされた土。遠くには畑もあって、そこで数人が仕事をしているのが見える。
あの人たちやクソ神父は転生者なのだろうか? それともNPC的なやつなのか? この世界って説明だとゲームみたいな印象があったけど、実際どういう世界なんだろう。
わからん。
教会の隣には酒場みたいな建物があった。これが集会所か。
開きっぱなしの入口から覗き込んでみる。丸テーブルが沢山あって中は広い。結構人数いるな。20人くらい?
「何してるんだ?」
「ひっ!?」
突然後ろから声がかけられた。とっさに振り返るとそこには金髪の青年。転生者か?
「うおっ、かわいいな。ひょっとして新人の子?」
あわわわわ……! どうしよう……!
「まあそんな所に居ないで中に来いよ。その様子だとこの世界に来てすぐか? いろいろ教えてやるからさ」
ぐいぐい来るなこいつ。俺のせいか? 俺が見た目美少女だからか?
と、とりあえず何か返事しないと。
「……(こくり)」
結局頷くしか出来なかった。対人性能が低いんだ。勘弁しろ。
「オッケーオッケー。そんなビビんなくていいぞ。とりあえず座るか。付いて来なよ」
俺はアヒルの雛のように金髪に付いていった。出来るだけ目立たないように歩いているつもりだが周囲の視線が集まっている気がする。金髪が座ったテーブルには先客が居た。
だ、騙したな! 連れが居るなんて聞いてないぞ!
「お帰り。誰? その子」
先客が金髪に向かってそう言った。緑髪といういかにもファンタジーな髪の女の人だ。
「新人。さっき拾った」
「うわ、めっちゃ可愛い! いいなー。私なんてすっごいブスなのに」
あんまりまじまじと見ないで欲しい。恥ずかしい。
「自己紹介しとこうか。俺はテロテロだ」
「私はスイカ」
名前ひどいな! ひょっとして皆そうなのか?
「ミョンチー……です」
「ミョンチーちゃんね。さっき来たばかり?」
「え、はい……」
「じゃあこの世界のことほとんど知らないのね。あのクソ神父いい加減だから」
どうやらクソ神父は他の転生者からもクソ呼ばわりされているようだ。
「まあ俺たちも最近来たばかりだからよく知らないけどな」
「そうなの。それで新人同士でパーティー組もうってなった訳」
パーティー? パーティー組めるのか?
「とりあえずミョンチーにも情報収集して分かった事を共有するか。まず、ダンジョンは2種類存在するらしい」
種類?
「転生者はこれをノーマルダンジョンとボスダンジョンと呼び分けている」
「ボスダンジョンはあなたも最初に行ったでしょ?」
あぁ……あのコロシアムか。
「ボスダンジョンは転生者の数だけ存在する。他人のボスにも挑むことが可能だ。クソ神父の言っていた、スキルガチャを引けるダンジョンはこのボスダンジョンの事らしい。まあボスに挑むのはかなり先になるだろうな」
え、ボス倒さないとガチャ引けないの? 無理じゃね?
「それよりまず攻略するべきなのはノーマルダンジョンだ。こっちをクリアするとステータスガチャが引ける」
「セットするとステータスが上がるらしいわ」
スキルと同じシステムって事か?
「マップと唱えてみろ」
「マ、マップ……?」
俺がそう口にすると、目の前に地図が浮かび上がった。現在地の他にあちこちに点が打ってある。
「青色の点がノーマル、赤がボスだ。一つだけ大きい赤色の点がミョンチーのボスが居るダンジョンだな」
テロテロ達の話を要約すると、転生までの流れはこうだった。
1:ノーマルダンジョンをクリアしてステータスを上げていく。
2:自分のボスを倒す。
3:自分のボスに勝てない場合は他人のボスを倒して強いスキルを得る。
なお他人のボスは倒しても復活するらしい。
ふーん。
正直言うと、俺は転生にはもうあまり興味がなかったりする。今一番興味があるのはこれだ。
「へえ、ミョンチーちゃん斧と闇魔法が使えるのね。バランスのいいアタッカーになれるじゃない」
「丁度いい。俺たちは二人とも後衛型のスキルしか持ってなくてな。前衛できる奴が欲しかったんだ」
そう。魔法を使ってみたい。
闇魔法、かっこいい響きだ。俺の厨二心が刺激される
「じゃあ早速ダンジョンに行くぞ!」
俺たち三人は近場のダンジョンへと向かったのだった。