第12話 牧場の悪魔
牧場に罪なきヤギたちの断末魔が響き渡る。青々と茂っていた牧草は、悪魔二人の手によって真っ赤に染められていった。
「難易度☆2、意外と簡単ですね」
「二人掛かりだからちゃう? 挟み撃ちもできるし」
「確かに……」
ヤギの突進は冷静に対処すれば簡単に避けられた。直進しかして来ないと分かったからだ。
それまでに俺が一度かすり傷を負ったが、それ以降は二人ともノーダメージで済んでいる。
「結構倒したけど、これどうすればクリアになるんや?」
「……ヤギを全滅させれば、ですかね?」
牧場の中心には小屋があり中に祭壇があった。それに俺は見覚えがあった。最初のダンジョンの奥にもあったやつだ。あの時は祭壇にたどり着いたらステータスを手に入れられたんだが……
祭壇はうんともすんとも言わなかった。牧場を見渡せば数匹ヤギが残っている。
「じゃあとりあえず全部倒すか!」
「はい」
こうして生き残ったヤギの処刑が決定。ヤギからすれば悪夢だな。
ケムシンがまた一匹ヤギの首を刎ねた。スプラッタだな。もう慣れたけど。
そんなこんなでついに最後の一匹。他と比べて明らかに小さい子ヤギを俺たちは柵まで追いつめていた。
「ぐへへ……」
ケムシンは今にも血に染まった剣を舐め回しそうな勢いだ。やるなよ? 血でも多分神罰下るぞ?
「これでラストや!」
ケムシンが剣を振り上げる。そして無慈悲な刃が子ヤギに振り降ろされようというまさにその時、
子ヤギが巨大化した。
いや、なんでだよ。
俺たちは子ヤギだったものを見上げる。2メートル越えは確実か?
子ヤギはケムシンの振りかぶった剣を指(!)でつまんだ。握力に耐え切れず剣がひん曲がる。
それはもう子ヤギではなかった。全身が真っ黒に変わっていき、筋骨隆々になり、そして二足歩行をしていた。頭はヤギのまま。
その姿はまさに
「あ……悪魔や……」
「ケムシン!」
ケムシンが爪で斬り上げられ宙を舞った。光の粒となり消えるケムシン。棺桶が発動する暇も無く即死した。
「この!? ダークバレット!」
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命中!
恐怖:失敗
低速:失敗
暗闇:失敗
拘束:失敗
封印:失敗
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マジかよ!
「ぐへっ!?」
悪魔の爪を受け吹っ飛ばされる。なんとか斧で受けれたがすごい衝撃だ。
「メ゛エ゛エ゛エ゛!」
ドスドスと足音を立てて突進してくる悪魔。頭を下げ角で突き刺す体勢。
今までの経験から俺は横に跳んだ。先ほどまで俺がいた場所を通過する悪魔。
よしっ! 突進パターンは変わってない!
「てりゃあ!」
斧スイング!
俺の斧は悪魔の太ももにがっつり食い込んだ。効いてる! 血が出た! 紫色!
「メ゛エ゛エ゛エ゛!」
「ぬっ、抜けな――!?」
俺は爪で首チョンパされて死んだ。
ケムシンと教会で合流。
「なんやあのヤギ! 強すぎやろ!」
「妙に簡単だと思ったら、裏がありましたね」
「ごめんなミョンチーちゃん。せっかく手に入れた剣、片方駄目にして」
「大丈夫です。道具なんて何度でも調達すれば問題ないですよ」
というわけで作戦会議。
「その……多分ですけどあのヤギ、力以外はそれほどでも無いです。突進も避けれたし、斧も通りました」
「なるほど? こっちが一方的に攻撃当て続ければ倒せるって事やな」
「はい」
問題はそこだ。相手の攻撃を喰らわずにこっちの攻撃を当て続けるなど至難もいいとこだ。そして俺たちにそんな技術はない。
「ダークバレットの効果が入るまでリセマラしてみる?」
「さっきは一つも状態異常にならなかったんで、多分期待できないと思いますけど……」
「そうか」
うーむ……諦めて難易度☆1のダンジョンを狙うか? ケムシンのステータスを上げてからでも良いかもな。
RTAじゃないんだ。時間はある。
「あっ……」
「どうかしましたか?」
「……なあミョンチーちゃん。試してみたい事あるんやけど、ええかな?」
「ほ、本当にやるんですか!?」
「やる! 奴の攻撃を防ぐにはこれしかない!」
「冷静になった方が……!」
「冷静になったらこんな頭のおかしい事できんやろ!」
頭おかしい自覚はあるのか。
「俺はもう、足手まといにはならん!」
すでにヤギは残り一匹まで減らした。後は悪魔戦だけ。最後の一匹を追いかける前に、ケムシンは正座をしていた。
いやいやいや、人間がしていい事じゃないだろ!
正気の沙汰じゃないぞ!
確かに俺も一度経験したけどさあ! 自殺!
ケムシンは、剣を自分の腹に突き立てた。切腹!
この瞬間、俺たちの悪魔討伐RTAがスタートした。




