第1話 神を名乗る奴にロクな奴はいない
気が付くと、俺は白い空間にいた。
どこだここは? そう思って周囲を見回しても何も見当たらない。ただ何もない世界が広がっていた。
上を見上げても、天井どころか青空すら見えない。もはや地球上の場所なのかも疑わしかった。
ひょっとして、ここは天国なのか?
そう思ってしまったのには理由がある。なぜなら俺は死んだはずだからだ。
【よくぞ来た。遠野正平よ】
だ、だれだ!? どこにいる?
頭の中に声が聞こえてきたぞ!?
【私は神だ】
か、神!?
本当にいるのかそんなの? いや、でもよく考えればさっきから喋ってないのに会話が成立してるし、ひょっとするのか?
まさかこれって……
【いかにも。遠野正平、お前はこれから転生する。お前の大好きな剣と魔法の中世ヨーロッパ風ファンタジーだ】
マジか! 遂に来たのか! 俺の時代が!
いや、冷静になれ俺。
はしゃぐのはまだ早い。この手の小説だとチートが貰えなかったりハードモードだったりすることも多かった。
神様、チートは、チートはもらえるんですか?
【もちろんだ。どんな力でもくれてやる。望む力を言うがよい】
何か代償とかは? 寿命が縮むとか、何かを失うとか、能力に欠陥があるとか。実は何かあるんでしょう?
【無い】
無いのかよ!
【しいて言うなら、与えられる能力の合計に上限がある。全知全能を望んでも、せいぜい万能な能力になるといった具合にな】
万能ってもうそれで十分じゃん!
【一つか二つの能力に絞ればその分野においては万能型を凌駕できる。他の転生者はそちらを選択する事が多い】
え、居るの? 他にも転生者が?
【居るぞ。せいぜい他の転生者に負けない能力を考えるがいい】
マジか。与えられたチートでイキる転生者とか居そうだな。そうじゃなくても中世風なら日本より治安悪いだろうし、転生するなら戦闘力は必須か。
よし! きっと生産チートとか知識チートで日本の文化を広めてる奴がもう居るだろうし、俺は戦闘力特化にするか!
【時間はいくらでもある。じっくり考える事だ】
そうして悩む事数時間(体感)、俺はついにチートの編成をまとめ終え神様に注文し終わった。
これが俺のチートだ!
・最高クラスの身体能力
・達人レベルの剣術
・壊れない剣を初期装備
・残りのスペックは雷魔法に全振り
コンセプトは近距離も遠距離も、物理も魔法もこなせるオールラウンダーだ。万能型は能力値が分散する問題は、魔法の属性を雷に限定することで回避した。
さらに魔法の使い道も限定した。全身を雷に変えることで敵の攻撃をすり抜け、さらに雷の速度で移動が可能。あとは単純な電撃の発射だ。
これはつよい(確信)! なあ、これ強いよな!?
【ああ、強いぞ。喜べ】
おっしゃ! 神様からのお墨付きだ!
【ならもういいな? 異世界に送るぞ】
え! まだ転生の理由とか目的とか聞いてないぞ! その世界の事も全然知らないし!
【行けば分かる。もうこちらの用事は済んだ。さっさと転生しろ】
突如として俺の足元が光りだした。なんかすごい複雑な模様の魔法陣だ。
【憐れな魂に我が祝福を授けん】
光が急激に強まった。俺は思わず手で光を遮り、そして目をつぶったのだった。
再び目を開けると、そこはコロシアムのような場所だった。俺はその中心に立っていた。
え? これで転生したのか? 転生って言うからてっきり赤ん坊スタートかと思ってたんだが。
ん? 向こうに誰かいる! 第一村人発見か?
やべ……どうしよう。声をかけるか? ここがどこかも分からないし……。でもコミュ障の俺にそんな高度な事が出来るのか?
思えば神様との会話は考えた事が勝手に向こうに伝わってたから楽だったな。
よし! ……とりあえず声かけて迷惑じゃないか観察する事にしよう。いい人とは限らないし。つーかよく見たらあれ剣持ってないか? やべっ、めっちゃこっち見てる。
第一村人(仮)は黒目黒髪の男だった。身長はふつう。多分やせ型。
黒コートにロングソード。動きやすさを重視した鎧で要所が守られている。まるで俺が妄想で思い描いていた装備を見ているみたいだ。というかそのまんまだ。
その姿は何というか……オタクがコスプレしてるみたいでダサかった。
そいつの顔を、俺は見た事があった。よく知っている顔だ。電源を切ったパソコンのモニターによく映ってたからな。
「なんで……俺が居るんだ……?」
自分で思ってる以上に困惑してたのか、俺の口からは妙に高い声が出た。だがそれどころじゃない。俺が雷をまとった剣を俺に向けている。
次の瞬間、俺は奴の放った雷を受けて即死したのだった。
「ようこそ、新たな転生者よ。チュートリアルはこれで終了ですぞ」
気が付くと、神父っぽい恰好の老人が俺を見下ろしていた。
俺は、教会みたいな建物の中で尻もちをついていたのだった。