ハイキング 03
コンクリートの農道から左に折れた神社までの百メートルほどの道は未舗装だったが、草丈もあまりなく、車でも難なく行けそうな感じだった。
神社が見えてきて、ミワは少し拍子抜けした。
思ったよりも新しい建物のようだ。
しかも神社入口の左脇には、ごく普通の建物もついている。
合板にサッシ窓、屋根はスレートで、入口には『神社会館』とある。
「地元の人たちが、お祭りとか初詣の時にここで一杯ひっかけるのよー」
トモエが右脇の小さな手水舎で、丁寧に手を洗いながら言った。
山から細い竹管を伝って水はいくらでも手水鉢に流れ込んでいるようで、ここの水も清らかに澄んでいた。
水があふれ落ちる石の前面は、美しい緑の苔にふんわりと覆われていた。
「さ、お参りしよう!」
「まだ階段もあるんだ!」
「二十段くらいしかないよ、ガンバ!」
さて行こうか、とふたりで神社前の石段から、社を見上げた時、
「あれ」
ミワは、社の前に黒い影を見つけて指さした。
「先客だね」
トモエは元気よく、
「こんにちは」
と声をかける。
ふり向いたのは、かなり背の高い青年だった。
少年と言ってもよさそうな若さに見えた。
髪は肩にかからない程度の長さで、あちこちにはね飛んでいる。しかし、それが逆に端正な顔立ちを際立たせていた。
切れ長の目がミワに向いて、それだけでなぜか鼓動が跳ね上がる。
しかしどこか、その顔には見おぼえがあった。
彼はずいぶん驚いたように口を丸く開けていたが、ミワの顔をみてやはり、何か思い出すかのように少し目線を外した。
あの、と声をかけようとしたとたん、彼は身をひるがえして前の木立の中に飛び込んだ。
ミワが駆け寄ってみると、草に覆われた木立は斜面に沿って急に下っており、薮の中には細くけもの道が続き、すぐ先は丈の高い草に覆われていて何も見渡すことができなかった。
彼は確かにこの中に消えたのだが、すでに姿も音もなく、人がいたという形跡は何も残されていなかった。
「誰だろ」
トモエはのんきそうにそうつぶやいただけだった。