サクラヤマ、ふたたび 03
「ルリコ!」
ケンイチも叫んでいる。「何でオマエまで来たんだよ!」
自宅で見張られていたはずのルリコが、涼しい顔で立っていた。
「ひとりくらい増えてもいいんでしょ? 行こう、ミワちゃん、サエちゃん」
そう、先に立って歩き出した。
「ちょ、」
待って、とミワはルリコの腕をつかむ。「本気?」
「そうだけど」
「また昨夜みたいなことになるかもなんだよ、どうしてわざわざここに」
「ツヨシに帽子返さないとだし」
そう言ってまた前を見る、そのせつなミワだけに聴こえる声でつけ足した。
「今夜の降水確率、七十パーだって」
「えっ、今何て」
「籠城戦にはもってこいじゃん?」
すぐさま、ミワにはカラスの命じた意味が分かった。
難を逃れるには、あの中にとどまるしかないのだ……雨が止むまで。
「サエちゃん、行こう」
サエは素直を手を差し伸べてきた。
「現場検証を先にやるから、ってパトカーに乗せられて、神社に行くかと思ったらこっちだった」
奴らに脅されたんだ、とケンイチが吐き捨てた。
「ここに入らなければ、ルリコを殺すと言いやがった」
「でも、結局来ちゃったけどね」
ルリコは涼しい顔をしている。
「カラスがめっちゃ飛んできてさ、急にパトカーを襲ってね、警察がドタバタしてるスキにチャリで逃げたんだ」
「そんでまたここかよ」
ケンイチはどこか呆れている。
「オレっち、オマエを盾に取られたからここに来たのにさ」
「でもね」
ミワは桜の間から、こちらを見上げている連中をうかがう。
自治会長、梅宮ツクネジマ町内会長、西取、東取の町内会長もいる。もうふたりほど、顔は知らなかったが多分自治役員らしき人物、管轄地区の巡査長らしき案外若そうな警官、総勢七名がずらりと控えていた。
「コトある時にはサクラヤマ上れ、って……今がまさにオオゴトじゃない?」
「しかし、結局打つ手がないなぁ」
ヤベじいは腕組みをしたままだった。
「ねえ」
ルリコが急に目線を上げる。耳をそばだてているようだ。
つられてみな、顔を上げた。
下の連中の間に、何か騒ぎが起こっているようだ。
「約束が違うじゃないか!」
はっきりとこう、怒鳴っているのが耳に飛び込む。
ほぼ同時に
「離して!」女の子の声が叫んでいる。「手を離して!」
幹と幹との間から下をのぞくと、篠原教頭らしき男がその子の腕を引っ張っていた。
少女は両手首をテープか何かで縛られているらしく、片腕をひっぱられ、引きずられるようにサクラヤマの方へ連れて来られていた。
なぜか梅宮が自治会長につかみかからんばかりに迫っていた。
「あれって……」
ミワも見おぼえがあった。
「梅宮会長のうちの」
あいさつに行った時、ちょうどあの家に帰ってきた少女のようだ。
「カオリだ」
ケンイチも呆然としている。「なんでアイツが」
カオリはおかっぱの頭をぶんぶんと振り回し、手を振りほどこうとしている。
「やめてよ! 何であんな所に行かなきゃならないの!」
「メールを受け取ったんだろう? 昨日の夕方」
篠原が言ったひとことに、聞いていたミワたちはぎょっとして身をこわばらせた。
自分たち以外にも、まだ呪いを受け取った子どもがいたのだ。




