サクラヤマ、ふたたび 02
どうもまた、サクラヤマのすぐ近くに来ているようだ。
ミワは農道に寝かされているようだった。
誰かが遠くで叫んでいる。
「断る」
すぐ頭の上で、聴き慣れない声がサクラヤマに向かっていた。
「オオタルさまがご所望だ、一体損ねたのだから、代わりに三体は欲しい」
「勝手なことをほざくな」
サクラヤマの中からは、聴き慣れた声。
ケンイチだ! ミワの意識は急にぱっと晴れる。
「俺とじいさんと、ここに入ったんだ、ふたりいればいいだろう、もう止めるんだ」
「駄目だ、オオタルさまのお告げだから」
「おまえら」
ヤベじいの声もする。どこかさびしげな響きだ。
「目を覚ませ、どうして分からんのだ」
「うるさい」
うっすら目を開けてみると、サエがミワのすぐ頭のあたりに座っていた。
ふたりの周りには数人分の足が見えた。
サエも含め、誰もサクラヤマとのやりとりに夢中で、ミワの意識が戻ったのに気づいていないようだ。
「アンタの可愛い孫娘は助けてやろうって言うのに、何をゴチャゴチャ言ってるんだ」
おい、コイツ目を覚ましたぞ。誰かに背中を軽く蹴られ、ミワは息を止める。
「どっちでもいいから、早くコイツらをそこに運べ」
蹴った足を見上げてみると、制服姿の警官だった。
「なぜオマエらは」ヤベじいが更に対話を続けようとしている。
「なぜ石を持ち帰ってしまったんだ、あそこにわざわざ集めて隠したのは、オマエらにくれてやるためじゃ、なかったのに」
ミワも気づいた。
ここに立っているのは、神社での新年会に集まった連中、新年会で、豆腐石を持ち帰ってしまった連中なのだ。
「ヤベさん、アンタがひとり占めするつもりだったんだろう?」
嘲りの声を発したのは、自治会長の桑原だ。
「あれはね、持ち帰って正しく祀れば、子子孫孫まで栄えるんだぞ、だからアンタは」
「違う」
ヤベじいの声は低かったが、それはミワにもはっきりと聞き取れた。
「ケンイチに見張らせていたのも、自分が欲しかったわけではない。隠しておいただけだ。出来心で持ち帰る人間が出ないように……ヒロシゲみたいに」
急に自分の祖父の名が出て、ミワはつい起き上がりそうになる。と、ふと頭の先に黒い影を認め、そっとそちらを伺った。
カラスがいた。
羽が少し曲がっている。
「……カーコ」
サエも気づいて、声をあげようとしたのをミワは目で止め、カラスを見た。
声に出るか出ないかくらいで、ミワはカラスに問いかける。
「目玉ババアは、大丈夫?」
「それよか」
カラスがそうしゃべった。確かに。
そしてそれは、ミワとサエ以外近くにいる誰も気づいていないようだ。カラスは続けた。
「いまがオオゴト、サクラヤマのぼれ」
カラスが飛び立つと同時に、ミワは跳ねるように起き上がった。
「待ってください、ワタシ……」
体が震えている。昨夜の恐怖はすっかり身体の芯まで沁みついているようだ、しかし、今は、
信じるしかない。
「ワタシたち、自分で上ります」
「ああ、私も」
草かげから加わった声に、立っていた連中はぎょっとしたようにふり向く。
「ルリちゃん!」




