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サクラヤマ、ふたたび 01
とんとんとんとんとん
懐かしい響きだった。
ずっと昔、まだ幼稚園の頃だったろうか。これをよく耳にしたのは。
ミワは、かすかに目を開ける。
いや、まだ目をつぶっていよう。幸せでいたいから。
この響きは、軽トラックの音、よく聞いたのは、荷台に乗った時だ。
おじいちゃんはいつも、ミワと圭吾と、従兄姉たちを載せて、ミカン山まで連れて行ってくれた。
ほうら、今年は出来がいいぞ。見てごらん。まん丸な実を。
ヒヨも避けたし、ハクビシンも退治した。
ヒヨは網で避けられるが、ハクビシンはそうは行かん。
じゃあどうやるか、って?
ハクビシンはな、アンパンのまん中に毒を仕込んどくのさ。
やつら、ミカンよりかはアンパンの方が好きだからな。
それは、やっぱり、コロス、ってことなのかな。
ごとごと揺られながら、ミワは全身のけだるさと闘う。
ねえおじいちゃん、もうコロスのはやめて。
キリがないから、ねえ。




