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最後の助け 03

 日が高くなったのに、ヤベじいはまだ来なかった。


「うちに帰って、連絡を待つよ」

 ケンイチとルリコは、見た目では距離もあるのだが、どこか寄り添うようにミワの家から団地の道を降りていった。

 スガオもふり返りふり返り、ミチエは文字通り、まだ眠たそうなツヨシを抱くようにして去って行った。

 

 結局、ミワのもとにはサエちゃんひとりだけが残されていた。


 夏休み最後の日だが、とても出かけるどころではない。

 職員は出ているだろうから、サエちゃんの学校に連絡を取ろうかと思ったが、昨夜のメンバーに元白鳥小の教頭も混じっていたのをふと思い出した。

 ではやはり警察に? 

 しかし、これもこわい。スガオが言った通り、昨夜もあの場所でパトカーを見ている。自分たちを助けるためにいたのではなかったのは、百も承知だ。

 それに、菅田吉乃の件で警察がやったことを思い返してみても、どうしても連絡する気にはなれない。


 サエちゃんは始めのうちはテレビを見ていたが、そのうち、充電が済んだのに気づいて、ゲーム機を持ってきた。ミワは、

「ちょっと待って」

 あわてて彼女のゲーム機を取り上げ、すれ違い通信を確認する。

 黒い人影はすっかりと消えて、今までサエが集めたアバターが無邪気な目をして画面の中に並んでいた。


 玄関の鍵をしっかりとかけてから、カーテンも引き直し、もうひと眠りしようか、と思った矢先に、サエちゃんが

「電話がなってるよ」

 と教えてくれた。

 風呂に入った時に脱衣所に置きっ放しになっていたようだ。

 脱衣所で画面を確認する。また、ルリコから電話だった。


 タップする前に、ふと前の小窓に、赤い点滅灯が横切った気がしてはっとなった。


 確かに、自宅前に車が来たようだ。そして、ドアの開け閉めする音が二度ほど聞こえた。

 電話が留守電モードになっていたのを急いでタップする。


 悲鳴にも近いルリコの声が耳を刺した。

「警察が! おじいちゃん逮捕されたの!」

「えっ」ミワが口早に訊き直す。

「逮捕? どうして?」

「子どもたちを誘拐したって、お兄も警官に殴りかかって、捕まっちゃったよ、どうしよう」


 同時に玄関ドアがどんどんと乱暴にノックされた。

 サエちゃんが、ぱっと顔をあげる。「ママだ」

 玄関に駆け寄ろうとするのを、あわてて止めた。

「待って、開けちゃだめ」

 サエちゃんは『だるまさんが転んだ』状態で手を前に出したまま立ち止まった。


 ミワはそっと、玄関に近づいて行く。足の下で、合板の床がぴしりと音を立て、つい、動きを止める。

 嫌な予感しかしない。


「サエちゃん」

 出来るだけささやきに近い声で、ミワは横目でサエを確認する。


 彼女はすでに、玄関に来たのが母親だと信じて疑わないようだった。

 しかし、ミワの声音にただならぬものを嗅ぎつけたのか、ぴたりと動きを止めたままだった。


「お姉ちゃんの言う通りにして」

 うん、とサエちゃんも目だけで返事をする。


 ノックの音は止まらない。ドアノブを動かそうとしている音まで重なっている。

 チャイムを鳴らすという発想はなぜかないようだ。


「テレビの方の、大きな窓のところから、そおっと外を覗いてみて。誰かいるか」


 サエちゃんは、ぬきあしさしあし、の要領で掃き出し窓まで近づくと、カーテンを指で少しだけ押しのけ、顔を押し付けるようにして外を覗いていた。

 すぐに「だれもいないよ」とささやき返す。

 ミワは手で彼女をその場に留めてから、上半身を大きく伸ばして靴を二足分、小さな土間から拾い上げようとした。サエちゃんの小さな運動靴を小脇にかかえ、自分のを取ろうとしたとたん、ドアに何か大きなものがどすん、と当たりいっしゅんドアが内側に膨らんだ。ミワは驚いた弾みにサエの靴を取り落とす。

 ドアの向こうから怒声がひびく。

「開けなさい! いるのは分かってるんだ」

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