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朝を迎えて 01

 白いものが視界に入る。そっと動かしてみて気づいた。

 自分の指だ。

 もうろうとした意識の中、ミワはやっとのことで起き上がる。

 体中がこわばって、動かす関節ごと痛みが走った。


 彼女の下には、数人が固まってしゃがみ込むような姿勢のまま固まっていた。雨の中少しでも体温を下げないよう、みなで固まって抱き合っていよう、と誰かが提案し、誰も反対せずにひとつの大きな山になっていたのを、徐々に思い出していた。

 ミワは一番外側にいたのだが、それでも少しは他人のぬくもりで助かったようだ。ヘンな生ぬるい夢の理由にようやく思い至った。

 びしゃ、と大きな水滴が頬を直撃する。

 まだ雨が! 身をすくめて頭上を見上げると、大きく張り出した枝えだの隙間から、ほんのりと白んできた空と、星がふたつみえた。


 すっかり雨は上がっていた。


「……たすかった」

 大きく伸びをすると、やっとまともに息をつける気がした。

 いつの間にか、他の子たちは眠気に負けてそれぞれうつぶせになっていたようで、おしくらまんじゅうの小山は上下の層となっていた。

 ミワが見守るうちに、上になった方から、次から次へともぞもぞと動き出す。


 一番下になっていたのは、ケンイチだった。身体の下に敷かれた草はすっかり水浸しになっていたが、それでも彼はどこか幸せそうな顔で横たわっていた。

 ケンイチの胸元あたりから黒い甲虫が二匹ほどはい出していったが、幸いなことにムカデはいなくなっていたようだ。

 しかし、彼はまだ目を開けない。

 もしかして……ぞくっとしてミワはまた、彼の胸に今度はちゃんと前から手を押し当てる。

 力強い鼓動に、ミワは大きく息をついて立ち上がる。

 体温はずいぶん下がってしまったようだが、それでも、ケンイチは大丈夫のようだ。


 小鳥のさえずりの中、周りの山あいから次々と白いもやが立ちあがって行く。ミワのじいちゃんがよく言っていた『ナゴ』というやつだろう。ナゴは、雨上がりの山の合間から立ち上る、切れ切れの霧のことだと教わったことがある。ナゴが上がりきれば、あたりはすっかり晴れるのだと聞いていた。確かに、ナゴが晴れた順に、山の木々の彩りが少しずつ戻ってきているようだった。

 そしてようやく、待ちに待った黄ばんだ光が、真横から柔らかにさし込んだ。


 朝が来たのだ。

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