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サクラヤマのぼれ 02

 同じように目を移すと、ルリコとケンイチの他、あと三人、無表情にそこに立っていた。

 ルリコと同じく中学生らしい男子ひとりと女子ひとり、女子が手を握っているのが、三歳か四歳くらいの男の子だった。

 中学生の男子には何となく見覚えがあった。ケンイチと仲の良かったユウマという子の弟だろう。

 顔が昔のユウマにそっくりで、どこか可愛らしいといってもいい長いまつ毛をしていた。

 ミワがまつ毛に見とれている間にも、ルリコが早口で説明する。

「紹介する、みんな団地の子で同じ学校関係ときょうだい関係」

 めちゃくちゃ大雑把な紹介の後、ルリコは矢継ぎ早にこう訊ねた。

「ミワちゃんちの奥の、滝の上り口からサクラヤマに近い道がある、ってお兄から聞いたんだけど、ホント?」

 以前トモエと登った、細い山道のことだろう。分岐はあまりなかったと記憶しているが、地元の山に詳しいケンイチの方がもっと詳しいかも、と言いかけて彼を見ると、彼の目はうつろだった。

 よく見ると立っているのもやっとのようだった。

「……分かると思う」

 少し間があってから、ケンイチの口がゆっくりとそう動く。

「よかった」

 ルリコがようやく、顔のこわばりを解いた。

「けどケンちゃん、熱は?」

「寝たらだいぶ、よくなったさぁ」

 どこか棒読みでケンイチが答える。

 ルリコが続けた。

「農道入口に、よく分かんないけど大人が集まっていたんだ、車も何台も停まっていて、誰かがちらっ、とサクラヤマで、って言ったのが聴こえてさ。見られたらまずいかも、と思って知らん顔して通り過ぎてきたのよ」

「ルリちゃんとすれ違わなかったら、農道から上ろうと思ったんだ」

 脇の女の子が言った。初めてみる子だったが、ルリコが先に教えてくれた。

「同じ中一のみっちゃん……ミチエちゃんと、弟のツヨシくん、それと同じクラスのスガオくん。団地の入口近くに立ってキョロキョロしていたから、声かけたら……」

「ミワ、ちゃん、だよね」

 まつ毛の長いスガオは、あまり会った記憶もないせいか、名前を呼びにくいようだった。

「ここの少し奥側に住んでる」

 夏休みに、ミワがなかなか団地にいないようだ、と気にしていたのはこの子だったのだろうかもしれない。

「あの、オレも、ヘンなメールを受け取って……ルリコに相談したらさ」

 泣き出しそうなスガオから目をそらし、今度は『みっちゃん』と呼ばれた少女を見る。

 彼女は弟の手をさらにかたく握ると、目を上げた。涙が一杯溜まっているが、その光は強かった。

「ウチは違うんだけど、つよしが外で、しらないおじさんからお手紙もらった、って」

 反対の手の中にくしゃくしゃに握り込んだ紙を差し出す。


 そこにはタイプで打ったようなぎくしゃくとした文字で

「あなたとります サクラヤマノボレ」

 と、あった。


「だからつよしひとりじゃ無理だと思って」

 ルリコが呆れたように脇で言った。

「代わりに連れて行くから、って言ったんだけど、どうしても自分で連れてくってさ」

 でも、雨が降って、それが止むまで帰って来られないんだよね? とミワはつぶやくように言ってケンイチを見た。

 顔がまだらに赤いのが、暗がりになってきた中でもはっきりと判った。

「いこう」

 ケンイチがどこかうわの空でそう宣言して、六人は動き出した。


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