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駅前での夏02

 あと数日は、トモエは海外に出かけているため、ミワは留守番ついでに彼女のアパートに泊まらせてもらっていた。


忙しくとび回っているわりに、トモエは部屋の中をきちんと片付けていた。

今夜も、風呂から上がって髪が乾くまでリビングでほんやりしよう、とそこの壁いっぱいに設えてある本棚の前に立ち止まった。

すぐ目の前に、大判の写真集がある。

マイナーな出版社だったが、それは叔母・トモエの初めての公の出版物だった。

『水鳥とともに』

 日本全国の海岸沿いに、カモメ、シギ、ウミネコ、チドリなどの海辺に集う鳥たちをごく間近に捕えた写真集だ。

 評判は、そこそこだった。

売れ行きもそこそこで、二版までは出たものの、そこから廃版となった。


「でもうれしかったなあ」

 トモエの声が耳をよぎる。

「だってさ、全然知らないどこかの誰かが見てくれて、手にとってくれて、しかも、買ってくれたんだよ! それって奇跡以外のナニモノでもないよね!」


 ミワは当時の、トモエの様子を思い出しながら、本を手に取った。

 ぱらばらと拡げてみる。漁船を覆い尽くす勢いのカモメ、堤防にたった一羽で佇むコアジサシ。

 どの鳥も生きているいっしゅんを見事に切り取られ、そこに映る人も景色も含めて、どの画面の中にも何かの物語がみえる気がした。


「いつかね、世界中の沢山……いやそんな贅沢は言わない、何人かのひとに、写真を見てもらってね、いつまでも心に焼きつけてほしいな、ってね」


 一枚いちまいの写真に、熱のこもったコメントをしてくれたトモエに、今は無性に会いたくなって、ミワは写真集をぎゅっと抱きしめていた。


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