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お祭りとヤキソバ 02

 このところ平和な日が続いてまた、油断し切っていたのだろう。

 ずっと目の前に麺の固まりとポテチやら裂けるチーズやら雑に刻まれたキャベツやらがぐるぐると回っている中、ミワはなぜかまた、あの道をチャリで通っていた……目玉ババアの家の前を。

 がこん、と大きな音に我にかえった。

 目の前、自転車の前かごにカーコががんばって止まっていた。

「そろそろ通る頃かと思ってたよ」

 門のすぐ内側から、しわがれた声が響く。

「おや、いいモン持ってるじゃないか、だから来てくれたのかい?」

「いえ、別に」

「お茶も持ってるじゃないか、良かった、とりあえず上がんな」

 全然聞いていないフリをして、おかっぱ頭をふわりとなびかせた目玉ババア、さっさと家の中に入っていく。と同時に門扉がきしみながらゆっくりと開いた。

 この家の前にチャリを止めておきたくはない、とっさにそう判断し、ミワは自転車の前を担ぎあげるように段差をあがり、目玉ババアの屋敷に入っていった。カーコは横着にもそのまま前かごに掴まったまま、バランスを取りながら一緒に屋敷に入っていった。

 門扉がまた、ゆっくりと自然に閉じていった。


 特に惜しいと思っていたわけでもないので、せがまれるままミワはヤキソバのパックをひとつ、手渡した。炭酸は『シュワシュワしして』嫌いだというので、一本だけあった緑茶を渡す。

 急にのどが渇いているのに気づき、ミワはカルピスソーダの栓を捻り開けた。

「おや、それは甘いのだね」

 白目を青く光らせて、童女の顔が興味津津といったふうにミワをみる。

「これ、炭酸ですよ」

「なーんだ。シュワシュワか」

 目玉ババアは、ヤキソバのパックを乱暴に開けたせいで、輪ゴムをぱちんとどこかに飛ばしてしまった。「ちっ」舌打ちしながらもすぐに気を取り直し、短い割り箸を勢いよく裂いて、いただきますもなく、一気にかきこんでいった。

 半分くらいまでいって、「うまいね、うまいよこれは」口の中に麺が詰まった状態で感心したようにそう言った。

 ミワも、用心深く箸をつけた。確かに、入っているものの割には、美味しい気もする。

 朝からずっと、働きづめだったというのに今更気づいた。

 半分くらい食べてから、耳元にわさわさと風の鳴る音がした。

 目をあげると、窓枠にカーコが止まって、足踏みをしている。視線はしっかりと、ミワの手元に注がれていた。

 目玉ババアは、とみるとすでに食べ終わっている。目玉ババアがにかりと笑うと、前歯に青のりがひとつ、くっついていた。

「アタシのはもうないよ、アンタ、カーコに何か分けておやりよ」

「何を食べるんですか」

「何でも食べるさ」

 ちょうど大きな、裂けるチーズがのぞいていたので、それを箸で持ち上げて、窓枠に載せてやった。カーコはチーズが枠に触れるやいなや、大きなくちばしでひったくった。

 箸を持って行かれそうになって、ミワは眉をしかめる。だが、目玉ババアは楽しげに笑っているだけだった。

 カラスは器用に足先でチーズの端をはさみ、反対の端を引っ張っている。しかし、遊んだのも束の間で、残りはあっという間に飲みこんでしまった。

 まだないのか? と問いかけるようにカーコが首をかしげ、またミワをみている。

 あまりのずうずうしさに、ミワは声を尖らせた。

「もうあげません、あっちで遊んできなさい!」

 きょとんと眼を丸くしたカラスは、一泊おいて大人しく窓枠から飛び立っていった。

目玉ババアも大喜びしている。

「あの子が素直に言うこときくなんて、アンタなかなかだね」

 ばさん、と羽をふるう様子からは、とても遠くまで飛べないようには見えない。

 そこで、ようやくミワは目玉ババアに向き直った。首から下げているお守りを、いつの間にか左手の中に握りしめていた。

「ねえ……」

 見た目がおばあちゃんでもないし、目玉ババアという呼称も失礼だし、しかし何と読んだらいいのか分からず、ミワはとりあえず、呼びかけをなしにして、単刀直入に訊ねた。

「この前、どうして菅田吉乃さんを見て来い、って言ったの?」

「ああ……」にやにやして誤魔化すかも、と思っていたが意外にも目玉ババアは笑いもせずことばを探しているようだった。

「実際、見て来てくれたようだね。ヤベのジジイから聞いたよ」

「じゃあ……」

 ことばを選ぶが、ここでちゃんと対決せねば、とミワは姿勢を正す。

「あの子が飛びおりたのも、知ってるよね? それで死んでしまって」

「あれは、間に合わなんだね」

 何が間に合わなかったのかは、分からない。

「犯人が捕まったのも、知ってるの?」

「でっち上げだがね」

 ミワはまじまじと彼女を見る。やっぱり、目玉ババアは事実を知っているのだろうか。

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