表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/69

噂と真実 01

 いったん東京の実家に帰ったはいいが、なぜか、落ちつかない。

 圭吾からしつこくあちらの様子を聞かれ、カンダヨシノの件については全く知らぬ存ぜぬで通して適当に答えてみたものの、

「で、結局ネコムスメとかに会ったんだろ? どうだったんだよー」

 と突っ込まれ

「だったらアンタが行けば?」

 と冷たく答えてやったものの、やはり、落ちつかないのには変わりがない。


 どちらにせよ、一週間もしたらあちらに戻らねばならない。

入学が決まっているからには、また、準備に戻らなければならないのだ。


 それに、どうにも気になることがひとつ。


 自室で机に向かっている時、ベッドでスマホをいじっている時、ふと、窓から、ドアの方から、何かが覗いているような気配を感じることがしばしばあった。


 菅田吉乃が病院で飛び降りをした件はニュースにもなっていない。

ネットも色々と検索したが、事件事故の記事でも、単なる噂でも、まるで該当する話に行きあたらないのだ。


 そのくせ、『覗かれている』という気配は日に日に濃く、粘り気をおびてきた。



 一週間もしないうちに、また、団地に戻る日が来た。

「もう、ひとりで行けるよね」

 最初からあまり気乗りのしていない母からそうあっさりと言われ、別について来られてもどう対処していいのか分からないミワは、別に、と口の中で答え、またひとり、元白鳥へと向かった。


 不思議なことに、家を出ると間もなく、イヤな『気配』は薄紙を剥いだようにすっきりと消えていた。

 しかし……ミワの胸のつかえはそれほど減ってはいなかった。

 また、あの『場所(ところ)』と向きあわねばならないのだ、真正面から。


 菅田吉乃の話はあっという間に団地内に広がったようだ。

 しかし、やって来たケンイチがもたらした内容は、ミワにとってまったく理解できないものだった。

「菅田、元カレがおしかけて来て、病室で言い争いになったって」

「いつ?」

 ミワは無理やり押し込めていた病室の情景を思い出す。

 ミワが訪れる前に、元カレが来ていたのだろうか?

 でも、顔を合わせたりすれ違ったりという覚えはまったくない。

「飛び降りるすぐ前に、で、ソイツが菅田を刺して、菅田は助けを呼ぼうとして外に飛び出して、間違って窓やぶって」

「誰から聞いたのそれ」

「団地に、病院に勤めてる看護師がいて。階は違うけど六階の同僚から聞いたって」

「うそだ」

 ミワは思わず大声を出した。

「何それ、全然おかしいんだけど。あの子、自分で自分を……」

 この話はとりあえず、俺とオマエと、じいさんだけの話にしておこう。あと、知っているのは目玉ババアだけなんだけど……そう言いかけたケンイチに、ミワは食い下がる。

「でも棟のナースとかも見てたはずだよ、それに元カレって何? どっから湧いてきたの」

「非常階段の途中に座っていたのを逮捕されたんだって」


 ぞくり、と背筋が凍る。

 それならば、ミワだって遭遇していたかも知れないのだ。


「代わりがきた」って言うのは、元カレの犠牲者の代わり、ということだったのだろうか?

 それでも変だ。

 彼女は、恐怖におびえながらも、確かに自分の手で、自分を刺したのだ。


「どうして、そんな話に? 私、本当にアレを見たのかな、でも実際にあの子」

「うん」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ