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UNO大会 03

 ルリコはぽっちゃり体型からすらりとした背丈の中学生に変身していた。

 そして、ますます美少女度に磨きがかかっていた。

「コーラ二リットル、途中で落としちゃった。ふた、すぐ開けないで」

 つり上がり気味の大きな眼でミワを一目見て、あいさつも無しにそう言ってコーラを差し出した。

「あ、わかった」

 いっしゅんこちらを見据えただけだったとは言え、相変わらずでメヂカラが強い。


 ルリコは昔から、人を見透かすようにじっと眼の中をのぞき込んでくるような子だった。

 幼い頃はおかっぱに近い髪で色が白く、あまり口数も多くなかったせいで、どうにもとっつきにくい印象があった。

 こちらが何か尋ねても返事は一言ふたことだし、自分から話す時も口調がきつく、いつも怒っているようにも聞こえたし、何よりあまり笑ったところも見たことなかった。

 兄の圭吾も『あのネコムスメ』とよく言っていた。


 相変わらず表情に乏しいながらもこうしてやって来たルリコを、ミワは目をぱちくりさせながら中に迎え入れていた。

「おじゃましまーす」

 後から似たような背格好の少女が二人、もうひとり

「……っす」

 いかにも体育会系といった少年が、顔を赤らめながら玄関をくぐった。

「あれ、タイチじゃねーか」

 ケンイチが意外そうに目を見開く。

「ケンさん、おひさしぶりっす」

「タイチが学校の近くでヒマしてたから、ボディーガードに来てもらった。どうせ夕方までUNOやるんでしょ? 暗い夜道じゃ、お兄ちゃんだと不安だし、弱っちいし」

「弱っちいとは何だ、力こぶ見ろよ」

「ばーかヘンタイ。シャツめくらなくていいって」

 ルリコは容赦ない。

 だって団地だから、何かと危ないじゃん! と少女たちは無邪気に言い合っている。

 急にまた、菅田のことを思い出し、ミワは顔をこわばらせた。が、

「はいはい、じゃあ、まず飯にしよう、腹ごしらえからね」

 ケンイチがぱんぱん、と手を叩くとかしましい少女たちもいそいそと支度にとりかかった。

 子どもあしらいが上手いのは、祖父の血筋のようだった。


 キャンプか何かのように、誰もがてきぱきと動く中、ミワはそっとケンイチを脇に呼んで小声で訊ねた。

「いいのかな……病院の方に、連絡しなくても」

「ミワちゃんのせいでも何でもないんだし、後は大人たちに任せるしかないよ」

「うん……」

 それに電話で問い合わせたとしても、不審者だと思われるだろう。


 レトルトカレーと聞いたせいか、ルリコはコンビニでサトウのご飯を人数分買って来ていた。

 ロクに話を聞いていなかったようにみえて、なかなかそつがない。

 カレーとご飯とをみんなで温めて、皆で輪になって食べていると、ようやくミワも、落ちついた気持ちになってきた。

 胃が痛むのは、あまりにも空腹だったからだ、と気づいた。


 UNO大会は大盛り上がりだった。

「ドロー2の次にまたドロー2は反則だってば!」

「ばっ、おめえモトシラルール知らねえな?」

「だっせぇケン兄ぃ、何その田舎くさいネーミング!」

「ですよ先輩、公式ルールじゃ、それダメなんですって!」

「……判ったよ、じゃあ大人しくひっこめる、と見せかけてのドロー4!」

「鬼畜めぇ!」


 すっかり暗くなった頃、ヤベじいが

「すまんすまん」

 と戻ってきた。

「なんだルリコもいたのか」

「なんだ、じゃないでしょ」

 ルリコはすでに手早く片付けをして、連れを促して外に出た。

「じゃあ俺、コイツらを送るよ」

 ケンイチがミワにそう言って靴を履きかけると、ルリコが鋭い目をしてケンイチを止めた。

「お兄なんかいなくても大丈夫だよ、そのためにタイチ連れて来たんだから。それよかお兄はミワちゃんのボディーガードでしょ? はい、車乗った」

 ルリコはクールな物言いで、どん、とケンイチを前に押し出す。

 ミワがありがと、と言う間もなく中学生軍団は賑やかに団地を下っていった。

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