UNO大会 02
とりあえず、今夜はうちに泊まればいい、とケンイチがさらりと言う。
「ルリコの部屋に一緒に寝ればいいさ」
ミワは、ケンイチの四つ下の妹・ルリコを思い出す。
コロコロした体躯で顔立ちは可愛い部類に入るかとは思ったが、あまり笑わない子で、クールな口調であんがい的確なところを突いてくる。
目つきもきつく、たまにしか会わないミワともあまり打ち解けていなかった。
「うん……でもルリコちゃんが嫌かも」
「それはまずいだろう」
腕組みをしていたヤベじいが口をはさむ。
「伸介さんとこに何て説明すればいいか。いつまでいればいいか、はっきりせんし、向うだって実の姪が、すぐ近所の男の子の家に寝泊まりしてる、って知ったらあまり良い顔はしないだろう。しかしな、伸介さんちに泊まればいいか、と言っても」
ヤベじいとケンイチの声がそろう。
「……あの家じゃ、頼りにならないし」
柏田家の本家は、そこまで元白鳥の中でも頼りがいなさげという印象を与えているらしい。
「やっぱり、家にいったん戻った方がいいのかな……」
ヤベじいもうなずく。
「あてがあるならいいが……よかったら駅まで送ろうか」
本当ならばすぐにトモエを呼んで駅まで送ってもらえればいいが、彼女は不在だし、ひとりでバスに乗って駅まで行くのも怖い。
伸介の家にも、とうてい頼めない。
「いいんですか?」
ああ、とヤベじいは笑顔で何度もうなずいてくれた。
「だがすまん、午後は用事があってな、夕方には終わるからここに迎えに来る、それまで鍵をしっかりかけて、誰が来ても知らんふりをして外に出ないようにな」
そう言い残し、ヤベじいは丸めた靴下を握りしめて帰っていった。
軽乗用車の音が去っていくと、ケンイチが、急にそわそわし始めた。
「お、俺も帰って大丈夫かな」
ミワはきっとなってケンイチの袖をつかむ。
「だめに決まってんじゃん!」
ひとりになると、また菅田の姿が目の前にまざまざと蘇ってくる。
「えええ、腹も減ったしさぁ」
それでミワも時計を見る。正午をすっかり回っていた。
ミワは胃のあたりを押さえる。
先週、目玉ババアに脅されてからずっと食欲がなかったのだ。
今朝も何も食べておらず、マックでアイスコーヒーを飲んだ以外に何も口にしていない。
それでも食欲は全く湧かない。
ミワが暗い顔をして胃のあたりを押さえているのを、ケンイチは横目でみていたが、
「そうだ」
スマホを取り出して、どこかに電話している。
「あ、部活もう終わった? 帰り道?」
電話の向こうから高い声が響いている。
「ちょっと頼みがあるんだけどさ、途中でカップめんか何か昼飯買ってきて、ツクネジマまで来てくんない? 金は後から払うから。うん、オマエの分も。午後ヒマだろ?」
電話の向こうの声が鋭く飛んでいる。
「……じゃないんだからね」と聴こえて、ミワも気づいた。
妹のルリコに電話をしているのだろう。
「……後からちゃんと説明するからさぁ、こないだ言ったろ? ミワちゃん、柏田さんちの、覚えてるだろ?」
向こうの返事は短くそっけない感じだった。ケンイチはおかまいなしに続ける。
「そうそう、ミワちゃん今、団地に引越して来てるんだけどさぁ、ちょっと変なヤツにからまれて、俺がボディーガードを、え? 悪かったな頼りなくて。まあ、そんで今日夕方いったん東京に帰るんだけど、夕方じいさんが駅まで送るって言うから、それまで付き合わねえ? 団地まで来てくんないかな。シノブっち少し上あたりだけどさ……団地の入口で連絡くれれば場所また説明すっから」
あっ、とミワはあわてて手を振った。
「私の分はいいよ、レトルトカレーもあるし、」
それにルリコちゃんがちょっと苦手だし、無理に来なくても……そう言いかけたのにケンイチは気づかず
「カレーあるって、え? 着替え? そのまんまで……そうか、じゃあ、家に帰るならUNO持ってきて。あとコーラ二リットルも。午後からUNO大会しよ」
電話の返答に顔をしかめて
「え?」
と問いかけてしばらく聞いていたが、「……わかった」
そう言って肩をすくめ、電話を切った。
やっぱり、来たくはないのだろう、自分も、どんな顔をして会えばいいのか。
「気をつかってもらってごめん」
そう言ったとたん、ケンイチがにやりと笑った。
「友だち二人連れていくって。UNO、めっちゃ喰い気味なんだアイツ」




