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ケンちゃん 01

 駅前に降り立ってから元白鳥行きのバス停まで行ったは良かったが、ミワはそこから動けずにずっとベンチに座り込んでいた。


 やっぱりトモエに相談しよう、今からアパートに行っていいか電話してみよう。


 細かい震えはまだ収まらなかったが、ようやく自分のスマホを開けてみる。


 目玉は消えていた。

 そして、『呪われました』の文字も。


 信じられない思いで、人差し指でそっと画面を撫でてみる。

 メールが何件か入っていた。

 画面が反応し、メールの受信ボックスが開く。

 トモエからもメールが来ていた。

 昨夜遅くのようだ。一番に開いてみた。


『北海道での仕事が長引いて、今週末まで帰れません。緊急の用事があればママに連絡してね。返事は遅くなるけど質問だけなら答えられるから、またメールしてね』


 つい肩が下がってしまう。

 呆然としたまま、次のメールを開く。母からだ。


『元気? 生活費を振り込んだから確認して』


 それだけだ。


 まさか娘がとんでもない事に巻き込まれかけているなどとは想像もしていないだろう。


 メールはスマホの販売店からあと二通、もう一通は知らない番号からだった。

 さんざんためらってから、やはり相談を先に、と思ってまずトモエに電話をかけてみる。


『おかけになった電話は、電波の届かないところか、電源が……』

 爽やかな女声が、淡々とそう告げていた。


 涙がこぼれそうになって、ミワは目頭を押さえる。

 呪われた、の文字は消えていたから、もう大丈夫なのかとも思ったが、ミワの目の前で自分の顔を突いたあの子はなぜ、「かわりがきた」と言ったのだろう。


 第一、あの子は無事だったのかも確認できていない。

 気になって気になってしかたないのに、どうしても病院に戻る気にはなれない。

 このまま帰っても、目玉ババアに何と報告すればいいのか。

 正直に伝えていいのか。彼女はどんな反応をするのか恐ろしかった。

 怒りだすのか、それとも、嗤うのか。

 それに、更に『おつかい』を命じられたらどうすればいいのか……どこにも相談することができない。


 ミワは呆然としたまま、つい習慣で残ったショートメールを開いた。


 文面を見たとたん、どくんと心臓が跳ね上がる。


『先日、神社で会ったの、ミワだよね? 研一です。こっちにいるって聞いたけど?』


 ケンイチ、という名には覚えがあった。

 あの時、どこかで見た顔だとお互い思ったわけだ。


 幼い時に元白鳥に来るたびに、一緒に遊んだ子だった。

 おじいちゃんちのすぐ近くに住んでいた、ヤベケンイチ、ケンちゃん、同い年で、身体のちっちゃい泣き虫で、それでもなぜか気が合って、ミワは大好きだった。

 ミワが中学卒業の春に、おじいちゃん宅に家族揃って一度遊びに行ったことがあった。

 その時、たまたま寄ったケンイチが、あまりにも背が伸びてしまって何も声をかけることができなかったのだった。


 帰り際に、また、ケンイチがやってきて、そっぽを向きながら小さな紙を手渡してくれた。

『オレ、ケータイ持ったから』


 その番号に一回だけ、ショートメールを入れたことがあった。

 しかし彼からは返事がなく、ミワも、電話帳登録すら忘れて、それっきりになっていたのだ。


 神社で会った時には、更に背が伸びていた。それに、ずいぶん恰好よくなっていた気がする。

 それでも、あの、口をあんぐり開けた表情ですぐ思い出せばよかったのだ。

 ケンイチは泣き出しそうになる時、よくあんな顔になっていた。

 その度にミワは「ケンちゃん、しっかりしなよー!」と肩をどん、と叩いたものだった。


 でも今度は……もしかしたら、彼が。


 ミワは番号を選んで、通話ボタンをタップした。

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