呪われたぞ 02
元気を振り絞ったとは言っても、必要以上にあたりをキョロキョロしているのが、自分でも笑えるくらいだった。
あの家とあまり関わりにならない方がいい、というのはここに住んでいなくても分かる。
表から攻めようか、昨日出て行った裏口からのぞいてみようか、角まで来てからミワは立ち止まって、はっとした。
門口、塀の上にカラスが一羽止まって、こちらを見ていた。
昨日のカラスなのかどうかも分らない。しかし、とっさに
「おはよう」
と口をついて出た。すると
「おはよう」
しわがれた返事に、ミワは思わず飛び上がる。
まさかカラスが? とよくよく見ると、閉ざされた門扉の内側に、昨日の幼女が立っているのが見えた。
相変わらず黒い服の上から草色の割烹着で、彼女は可笑しそうに口元を押さえている。
「そんなに驚くとは思わなんだよ」
「あ、あの……」
幼女はすぐに後を続けた。「ケータイだろ? あるよ」
「あの、それ取りに来ただけなんで。すぐ帰って」
「じうでん、だろ? しといたよ」
「ありが……えっ、できるの?」
「うちだって電気くらい来てるさ」
「いえそういうことじゃなくて」
まあ中に入んな、と彼女は門を開けて、及び腰のミワを招き入れた。
「そんなカオじゃ、朝メシもまだだろ。食べていきな」
「い、いえもう食べてきました」
「カーコが『うそだよ』って言ってるよ」
見るとカラスはまだ塀の上に止まって、二人を見おろしている。
「メシったって、コンビニで買ったパンとむすびだけどね」
それを聞いて、ちょっぴりほっとしてミワは中に入って行く。
「いいんですか?」
テーブルの上には、ミワのスマホとファミマのおむすびがふたつ、並べて置いてあった。
最初から返事を予想していたかのようだった。
ペットボトルのお茶をテーブルに載せた彼女から
「今日はヒマかい?」
いきなり聞かれ、その質問は卑怯だ、と思いながらも
「いいえ」とミワはとっさに答えた。
「じゃあ七日先は」
変な質問だと思ったが、宙をみて真剣に考えていた。
いいえ、と簡単に答えればよかったのだが、つい正直に
「次の日曜なら……特に用事は」
そう答えてしまった。
少しおいて、幼女が言った。
「アンタに頼みたいことがある」
「頼み、ですか?」胸がざわりと鳴る。
「七日後の日曜日の朝、市立病院に行って、様子を見てきてほしい子がいるんだがね」
「えっ?」
「もちろん、タダとは言わないさ」幼女は切りそろえた前髪を透かして上目をつかう。
「アンタ、ケータイをちゃんと確認したかね?」
言われてからあわてて、ミワはスマホを取り出した。
彼女の話を聞く前に電源を入れてみればよかった、と後悔したが、あとの祭りだ。
コード認証でいつもの待ち受けが表示された、だが、何か変だった。
光の加減なのか、白い線画のようなものが見えた、気がした。
あちこち傾けたり斜めから見たり、どうにか見てとれる。稚拙なイラストで、見たことがある、というか、今朝も見かけたもの……あの目玉の絵がうっすらと画面に浮かんでいる。
そしてその下に白い文字が
『呪われたぞ』と。




