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ナンセンスェカイ軽体小説『ポポポポ』  作者: λμ
『外のスェカイ』
14/26

 黄泉寺透と三頭絖瀬が出会ってから、早二週間――。

 学校や仕事や約束があるならともかく、いまや世界で時間を区切る意味を持つのはアポカリプサーだけとなり、何回寝たかくらいの意味しかもたない単位が過ぎ去った頃。


 絖瀬が古い映画から命名したという『理由ある反抗』計画は、着々と進行していた。

 もっとも、計画のゴール地点は立案者である絖瀬にとっても、


「さぁ? どこッスかね?」


 であったが。

 理由ある反抗計画でなすべき二人の役割とは、すなわち『何もしないこと』だった。

 サボタージュ、あるいはサボり。抜け、エスケープ、逃避逃亡逃走、落伍、ドロップアウト、脱落、放棄、その行為には様々な名称がつけられているが、ようするに、


 遊んでいた。


 二人はこの二週間、ただ遊んでいたのである。

 無論、最低限の仕事として、指示通りにポポポメカ二号に二人で乗り込んだ。任務地に着けば指示通りに兵装スーツを着込んで外にでた。そこから先は、時間いっぱいまでふざけていただけである。


 ある日は廃墟で見つけた大量のエロフィギュア及びアニメDVDを故人の名誉のために地中深く埋め(穴はポポポメカ二号で掘った)、ある日は奇跡的に中身ともども原型を留めていた量販店で好みに合う服を漁ってみたり(人間不思議なもので払う対価がないと気づいたら持ち帰れなくなった)、またある日は学校に侵入してノスタルジーに浸ってみたりもした(絖瀬が冗談のつもりでアポカリプサーにセーラー服を注文したら、なぜか安いAVで使っていそうなペラペラのテカテカ素材の物が配給され、二人して爆笑した)。


 そして、今日は。

 昼下がり、いくぶんか気温が落ち着き始めた廃墟の狭間で、ポポポ星人型兵装スーツを身に纏う黄泉寺はマネキン相手に歌舞伎じみた大見得を切っていた。


 四本指の右の手の平をボロボロのマネキンに向けてまっすぐ伸ばし、『使用に細心の注意を払うこと』とアポカリプサーに警告された、コラプサー弾頭射出口を構えているのだ。


 マネキンは付近の(物理的に)潰れたファッションセ○ターから持ち出したもので、その数は、一、二、三、四、五体。みな崩れかけて更新されない最新の服――いわばポストアポカリプスファッションを身につけて、思い思いのポーズを取らされている。


 黄泉寺は足を前後に開いて、やや重心を落とした。ポポポ星人型兵装スーツのモニターには、円形のレティクルで銃口の向きが表示されている。ついでに、レティクルに二重に被さるように、文化的資源としての損失判定『D』という表示も。


 すぐ近くには、ポポポ星人型兵装スーツに身を包んだ絖瀬が、膝を抱えるようにして座っていた。事情を知らない者が目にすれば、なかなかにシュールな光景に映るだろう。


 しかし本人たちは至ってマトモ……のつもりである。

 黄泉寺はレティクルがマネキンの腹に重なるよう慎重に銃口を滑らせた。レテイクルに表示されている対象との距離は、小中学校のプールよりやや長い、二十七メートル。


 その空白を埋める、崩れたコンクリート壁やら、赤錆びた剥き出しの鉄筋やら、屋号が書かれていたであろう焼け焦げた看板などなど、様々な瓦礫で構成された荒れ野を、乾いた風が撫でていった。巻き上げられた砂塵が、ノイズのようにモニターに映った。


 レティクルのブレが止まった。

 同時。

 黄泉寺はスーツ内の引き金に人差し指をかけ、引ききった。刹那、スーツの各部が硬化し、腕一本が丸ごと銃身と化した。射撃により発生する常人なら躰が吹き飛ぶような反動をスーツがすべて引き受ける。足元の大地が一拍揺らぎ、間を置かず陥没した。


 マネキンの胸を目掛けて飛翔したコラプサー弾頭は、

 衝突と同時に半径三十センチの空間を噛みちぎり、文字通り点になるまで圧縮した。球形に躰を食い取られたマネキンの、頭が、腕が、バラバラと地に落ちた。


 ふむ、と黄泉寺は鼻で息をつく。

 マネキンだから支えを失った部位が落ちるだけで済んだのだ。

 もし、対象が生身の人間だったのなら――。


 黄泉寺は横目で絖瀬の様子を窺った。体育座りのまま微動だにしていない。改良が加えられたスーツには遊びができたため、細かな震えまでは再現しない。


「――えっと、どう? ダメそう?」

「…………」


 反応がない。嫌な予感が当たったかと思う。まだ早かったのだろうか。

 不安に駆られながら黄泉寺は訊ねた。


「ちょ、絖瀬さん? 絖瀬さん!?」

「…………」


 本格的にマズいかと焦り始めたとき、マイクを通して幽かに聞こえる音に気づいた。

 規則的で穏やかな、なにやら幸せそうでもある、のんびりとした呼吸音だ。トラウマに苦しんでいるとは思えないくらい一定のリズムを刻み続ける呼吸音である。


 その正体は、


「……寝息、か?」

「……んむにゃんにゃ」


 何かを食むような寝言とも鳴き声とも取れる声。確定である。

 夢の中で何か食ってやがんのか。

 黄泉寺は絖瀬の肩を揺すって、大声で怒鳴った。


「起きろ絖瀬ぇぇぇぇ!」

「ふゃぁぁぁああああッスゥァ!!」


 絖瀬はアポカリプサーが音量調整して耳を守ろうとするほどの悲鳴をあげながら飛び起きた。何かを警戒するかのように両腕を不自然に広げ、首を左右に振り、


「ふはぁぁぁ……」と黄泉寺に気づいて肩を落とす。

「びっくりしたじゃないッスかぁ!」


 絖瀬は握りしめた両拳をポカポカと振リ回した。生身だったらカワイイという感想もでてきそうなものだが、ポポポ星人型スーツを着ているせいで、どこまでもシュールだ。


 それでも少し前なら不健全な高校生たる黄泉寺は、エビだかカニだか昆虫なんだかわからない二足歩行の生命体な見た目に、赤い髪の元・女子高生を重ねられたが――。


 一週間を共に過ごして出会った当初の緊張感は失われ、言葉遣いも馴れたものに刷新され、合わせてスーツの下を幻視できなくなった。それが望ましい変化かはわからない。


 黄泉寺はため息混じりに言った。


「そもそも絖瀬さんのトラウマ克服のためやってんだけど、なんで寝てんの?」

「……や……やははははは……」絖瀬は乾いた笑い声をあげながら正座になって、

「面目ないッスぅぅぅ!」


 と、両手を揃えて頭を下げた。

 ――そう、傍目にはポポポ星人がマネキン相手に遊んでいるようにしか見えないが、二人は至ってマジメだったのである。


 黄泉寺はいざというときに備えてコラプサー弾の使用に慣れるため、

 絖瀬はコラプサー弾の使用で負ったトラウマを克服するため、

 苦労して二人がかりで瓦礫の山を漁り、マネキンを探し出したのだ。


 だというのに……。

 黄泉寺は並べ立てようとした説教を飲み込んだ。よく見れば、絖瀬は右手首を震えるほど強く握りしめていた。どうやらトラウマが残っているのは本当らしい。


「……まぁ、起きたんだし、別にいい。いいことにしよう。うん」


 黄泉寺がそう答えるやいなや、先ほどまでの叱られモードはどこへやら、絖瀬は全身から光を溢れさせて地を蹴った。


「ありがとうございます! だから黄泉寺さん好きッスよぉ!」


 叫ぶと同時に黄泉寺に抱きつく。抱きしめる。もし、もう数パーセントほど気分が高揚していればキスの雨も降りそうな勢いである。


 絖瀬が放った対黄泉寺限定の必殺コンボ『ハグからのキラーフレーズ』は黄泉寺を一瞬にして骨抜きにし、またスーツ内温度を三度も上昇させた。


 落ち着け、絖瀬さんはテキトーに言ってるだけだ、と胸裏で自分に言い聞かせ、黄泉寺は咳払いした。


「ととと、シツレーしたッスよぉ」


 気づいた絖瀬がパッと飛び退く。すかさず黄泉寺はマネキンを指さした。


「じゃあ、とりあえず、アレ、撃ってみましょうか」

「…………」


 押し黙った絖瀬はマネキンと黄泉寺を交互に見やり、肩を落とした。


「……了解ッス。自分、あんまり自信ないッスけど、トラウマ克服しないとッスもんね」

「まぁ、あんまり気負わないで、リラックスしてやってみましょうよ」

「うぅぅ……が、頑張るッス」


 言葉とは裏腹に悄気げていそうな足取りで、絖瀬は射撃位置へと歩きだした。おっかなびっくりと形容したくなるようなギクシャクした所作で、絖瀬が右腕を伸ばした。足が前後に少し開かれて、腰が下がる。そして――、


 そして――、


 そして――、


 ――――。


 右腕を降ろした。


「撃たんのかい!!」

「ひゃあぁわぁああ!?」


 黄泉寺は反射的にツッコミ、絖瀬はその大声に悲鳴をあげた。

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