さすらい猫、最後の《奇跡》
(さすらい猫は、魔女の魔法で
(可憐で冷たい、少女の姿で
(死ねないからだを引きずって、
(街から街へと、さすらう運命。
大好き、大好き、絶対、大好きッ!
さすらい猫の、うるんだ瞳に、
かつて生きてた、魔女が見え、
さすらい猫の、ちいさな耳に、
魔女のやさしい、声届く。
(猫や、猫?
(悪かったわねぇ、ほんとうにごめんなさい。
(あたくしの持っていた業を、
(すべて貴女に背負わせてしまって。
(あたくしは、貴女に、
(謝っても謝りきれないけど、
(なにもかもあたくしが悪くて、
(貴女にどんな償いも
(してあげられないのだけれど、
(それでも、いまでも、貴女のことが好きで、
(好きで、好きで、好きで、
(貴女の横に、いさせてほしくて、
(お願いに参りました。
(猫?
(あたくしが、見えているよね?
(猫、ねぇ、猫?
(なにか言ってよねぇ、猫?
その、(比喩じゃなく、ほんとうに)
透き通った顔を、
なんとか表情を読みとろうと
睨むように見つめ続ける猫が、いた。
お、お化けなの?
あなた、成仏したんじゃないの?
え、?でも、喋ってる?
まぼろし?ゆめ?なに?
嘘でしょう?
え?どういうこと?
え?
でも、逢えた、の?
また、私たち、逢えたの?
いいよ、お化けでも、幽霊でも、
ゾンビでも、偽物でも。
もう、偽物でも、いいよ。
あなたに逢えるなら、
なんだって、いい!
で、一言だけ大声で言わせて。
こ、この、
ヒトイカシッ!
どんだけ、人をいか、あ、猫だけど、
猫を生かせばいいのよ!この、
クソボケ野郎、あ、おんな、か?
ニンピニン、あ、魔女、か?
まあなんでもいいわよ、
よくも、よくも、よくも、よくも、
よくも、私を1人にして死んだわね、
絶対、許さないから、ね!
ゆ、許さないんだから。
どう、責任とってくれるのよ?
まさか、また、消えたりしないわよね。
そんな…………絶対、絶対、許さない。
え?大丈夫なの?
ほんとうに?
あー、よかった…………エーン、エーン
(って、貴女幾つよ?
(あ、ごめん。
(年は、きかないわ。
(でもね、よかった、
(貴女は、あたくしを恨んでいるから、
(けっして、許してくれないと思ってたわ。
(ああ、よかった、あたくしの猫ちゃん?
(ねぇ、なら、貴女のこと
(抱きしめてもいい?
(ぎゅーって、想いのすべてを込めて、
(ぎゅーって、ぎゅーって、
(抱きしめるね?
(ね?猫?
イタッ!
ア痛ッ!
イタ、タ、タ、タ、タ、タ。
って!
夢?
あーあ、
いつも通りの、夢?
いったい何百回、何千回目かの、
夢なんだよね?
なんど、この嬉し涙が
そうじゃない色にかわったか?
なんど、この、
地獄に堕ちたほうがましだと思わせる
悲しみに心を裂かれるのか?
ああ、ぜんぜん、
どんなすがたでも、ぜんぜんいいし、
恨みごとのひとことも、けっしていいませんし、
もう、見えなくてもいい。
声だけでも、
たったいちどだけでもいい、
声だけでも、
聴かせてくれないだろうか?
もし、神さまがおいでになって、
その願いをきいてくださるのなら、
私は、この命を捧げてもいいの。
でも、それ、
私が死ねるってことだから、
交換条件にならないか?
ままならねえな、『生きる』って。
私が言ったら、深いでしょ?
さすらい猫は、さすらって、
さすらい猫の、道を行く。
さすらい猫は、あらたな愛を
探し求めて、旅をする。
さすらい猫の、心のあの娘は、
いつまで経っても、消えたりしないが、
さすらい猫は、それでも楽しく、
生きるためには、恋さがす。
さすらい猫は、不死なので、
恋の最期を、いつでも看取る。
さすらい猫の、想い出は、
歳降るごとに、積もりゆき、
もはや、溺れる寸前で、
ひとつの奇跡が、起きるだろう。
それこそ、約束された夢。
猫と魔女との、遠い約束。
けっして、破られては、いけない、
この世の、もっとも、至純な、奇跡だ。
さすらい猫が、生きていられる
理由はただただ、これひとつだけ。
この奇跡だけ、信じて、さすらう。
さすらい猫は、さすらい猫は、
貴女の街にも、
あらわれ、
ちゃうかも?
一応この一編をもちまして『さすらい猫』の物語、一巻の終わりでございます。
ただし、『さすらい猫』は、女魔法使いや悪役令嬢の魔女のようにいなくなったわけではないので、またいつの日にか、華々しい復活を遂げる可能性は皆無ではないのですがね。
でも、一応、今夜で終わり。
今まで長々とお付き合いいただきまして(今回は非常に拙い挿絵なんてのも描いたりしたしね?)、誠に有難うございます。
もし万が一、この詩篇の続きで、或いは、全く別のわたくしの詩篇とかででも、またお会いできる日を心から楽しみにしています。
でわ。
一応、今は、サラバ、です。
でわ、でわ。