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08 なんちゃって巫女服。




 立ち話もなんだからと、カウンター奥に椅子を二つ並べて座って話す。

 私は魔法を習得して決闘に勝ったことを、イン店長さんに嬉々として報告をした。


「ふーん、それはよかったね」

「はい! 初めて決闘で勝ったんですよ! しかも同年代で村一番の最強に勝ったんです!」

「よかったね」


 微笑んでイン店長さんが私の頭をポンポンするので、破顔してしまう。

 でもすぐにその顔を曇らせた。


「あ、あと……イン店長さんの言う通りでした……」

「言う通りって?」

「その……」


 じゅわり。頬に熱が集まっていくのを感じた。


「彼……私のこと、好きみたいです」

「ああー……」


 納得。そう頷いたイン店長さんを、視界の端で見た。

 膝の上にいる小さな幻獣を撫でる。幻獣は大人しくしていた。

 もふもふである。

 シン、と静まり返る店内。


「決闘に勝ったあとに知っちゃったんですけどねっ!」


 照れ照れしながらも、そう言う。

 こんなこと聞いても反応に困るよね。


「ナヒメちゃんの方はどうなの?」


 イン店長さんは、口を開いた。


「え?」

「ナヒメちゃんはその彼のこと、どう思っているんだい? 虫除けのために結婚すると誤解していたんだよね? でも今は想われているって知った。どう思ってる?」

「……」


 静かに問われて、私は考えた。


「……私を想ってくれている幼馴染?」

「それだけ?」

「んー……はい」


 コックン、と頷く。


「幼馴染だったんだね。彼とは。村一番の最強って聞いたけれど、そんな彼に惹かれないのかい? オークは強さに惹かれる種族だし、それを間近で見ていて惹かれなかったの?」

「間近で見て……」


 人差し指を唇の下に押し付けて、真剣に考えてみる。

 確かに惚れてもおかしくないんじゃないかとは思う。

 勝ち続けたらオレと結婚しろ、と幼い頃に約束をして、それから勝ち続けて若者の中で最強とまで上り詰めた。

 それに弱い私を守り続けてくれたのだ。

 あんな性格だけれども、惹かれてもおかしくない。

 そう言えば……私ってなんて答えたのだろうか。

 ぶっきらぼうに結婚を申し込んだギンに、私は何を思ってどんな言葉を返したのだっけ。思い出せない。

 前世の記憶を思い出したショックで忘れてしまった。

 私は唸って考え込んだ。

 そもそも私はギンのことをどう思って、一緒にいたのだろうか。


「惹かれていないか」

「んー……」


 私は苦笑を返すだけ。


「これからどうするんだい? 魔法を使えるオークになったわけだけれど、現時点では君が最強の座についちゃったってことだよね」

「え? ええ……なんか最強っ子ってあだ名がついちゃいました。……とりあえず、好きな人が出来るまでは独身をエンジョイしようかと思いまして。今日は毛皮などを売ってお金を稼いで服や布を買いに来たんですよ」


 村一番の最強の若者は私ってことになっているけれど、最強っ子って呼ばれているだけである。

 話題がそれになって私は、笑顔でお金が入った袋をジャリジャリと鳴らした。


「へー。布を買うってことは自分で服とか作れるってことかい?」

「はい。オークの女性は皆、出来ますよ」


 まぁ、毛皮とかを服にすることならお手の物だけれど。

 私の場合、前世で少しかじった程度には服を作れる。漫画などに興味があると、コスプレにも興味が湧くのは必然。

 え? 私だけ?

 ちょっと手作りコスプレにチャレンジしたことがある。なんちゃって巫女服。それをヒントにして作ってみようと思う。


「あ、そうそう。これこの前のサンドイッチのお礼にどうぞ! 私が狩ったマゾンの肉で作った燻製肉です!」

「ああ、別に礼なんてよかったのに。もらうね」


 快くイン店長さんは受け取ってくれた。


「そんな律儀なナヒメちゃんに……僕からプレゼント」

「え?」


 イン店長さんが真後ろの棚に手を伸ばしたかと思えば、薄い本が差し出される。ページが数十しかなさそうな本。これなんだろう。

 首を傾げながら、表紙と裏表紙を見てみた。


「初心者向けの魔法を書いた魔導書だよ」

「えっ? これも魔導書なんですかっ?」


 驚いて素っ頓狂な声を出してしまう。


「うん。君のために作った」


 そう優しく微笑むイン店長さん。


「え!? イン店長さんが作った魔導書なんですか!?」

「あれ? 言わなかったかな。この店の魔導書は全部僕が作ったものだよ」

「な、なんですと!?」


 魔導書は確か、魔力と呪文を込めて作成される。

 他にも何か細かい儀式が必要だって聞いたことあるけれど。

 ちょっと待って。イン店長さん自ら魔導書を作っているってことは、このイン店長さんはとんでもない魔法の使い手なのでは……?


「そ、そんな、魔導書をタダでもらうなんて出来ませんよ」

「いいんだよ。君にあげたいと思ったから」

「あ……ありがとう、ございます」


 返そうとしたけれど、押し返されてしまった。

 なんでそう思って魔導書を作ってくれたのだろうか。

 疑問に思いつつも、私は受け取ることにした。


「どういたしまして」

「じゃあ、私はこれで失礼しますね」

「うん。気を付けて帰ってね。よかったら、また来て」

「あ、はい! また来ますね!」

「その際は新しく作った服を見せてほしいな」


 ポンポン、とまた頭をされる。

 照れながら、はい、と頷いて、幻獣と魔導書を抱えて店をあとにした。

 再び市場に足を運び、今度は買い物をする。

 鮮やかな赤色の布を真っ先に手にしては買った。あとオフホワイトやベージュ色の安い布を購入。それからオレンジ色に染められた布。

 練り歩いて、出来上がったブラウスを二着買った。

 お腹も空いてきたので、良い香りがする屋台を覗いては、二つ分買って幻獣と食べる。

 もう十分だと思って、街を出て帰ることにした。

 門を出れば、ブルブルと幻獣が震えたかと思えば、次第にその姿は大きくなって、元の姿に戻る。大きな大きな狼だ。

 これでお別れかな、なんて思っていれば幻獣は伏せをした。


「え? もしかして……乗れって意味?」


 ブン、と尻尾が振られる。肯定のようだ。


「ありがとう! 乗るね!」


 背に跨らせてもらう。


「大丈夫? こう見えても重いと思うけど……おおっ?」


 体重計に乗ったことがないので今の体重はわからないけれど、筋肉質な身体は結構重いに違いない。でもそれは杞憂に終わった。

 あっさりと起き上がった幻獣は、颯爽と駆け出す。私は振り落とされまいと首にしがみ付いた。身体に、顔に当たる風が気持ちが良い。

 ふふっと笑みが溢れた。

 私の案内で、アーチ村に帰る。

 大きな狼に乗って帰ってきた私を見た村の人達は、びっくりした顔をした。


「お母さん、お父さん。幻獣を家に入れてもいい?」


 手を合わせて上目遣い。お願いと猫撫で声で頼んだら、幻獣だと知って二人とも仰天な顔をしていた。

 でもやがて父が吹き出して、大笑いする。


「幻獣を手懐けたのか! 流石はオレの娘だ!!」


 豪快に笑って、幻獣が家の中に入ることを許可してくれた。

 部屋にまた小さくなった幻獣を入れて、私は早速服作りに取りかかる。

 ミシンがないので手縫い。慣れた手つきでも時間がかかる。

 夕飯もサクッと食べて、作業に戻り一夜を過ごした。

 うたた寝をすると幻獣が甘噛みして起こしてくれる。

 それを繰り返して、二日後に完成した。

 なんちゃって巫女服。ただし袴はミニ。

 鮮やかな真っ赤なミニ袴と、オフホワイトの着物。赤い布を縫い付けてそれっぽくしている。こうして着てみれば、なんちゃって妖みたいだ。角あるし。

 恥ずかしいかも。こういうファッションだと自信持って着ないとだ。

 コスプレじゃない。コスプレじゃない。ファッションである。


「あれ? なにそれ、ナヒメ」


 試しにそのまま出掛けてみたら、キリコが声をかけてきてビクリ。


「かっわいー! 作ったの?」

「え? あ、うん! そうなの。作ってみたの」


 可愛いと褒めてもらえた私は、長い袖で口元を隠してそっと照れた。

 キリコの他にも女の子達が集まってきて、見てきては褒めてくれる。好評だ。


「この赤いズボン可愛い」

「あ、このヒダ作るの大変だったんだ」

「襟のところも可愛いー」

「えへへ、ありがとう」


 照れ照れしてしまう。努力したところを褒められるとこんなにも照れるものか。

 ふと視線に気付く。

 少し離れたところにギンが立って、こっちを見ていた。

 じっと見てきたけれどやがて、離れていく。

 んん? まーいっか。

 好評を受けた私は調子に乗って、またもや服を作った。

 今度はベージュ色とオレンジ色の布を使って、タンクトップを二着作って、重ねて着。これまた好評でガッツポーズ。

 こういう明るい色の服を着ないオークの女性陣には新鮮に映るみたいだ。

 タンクトップの重ね着なら真似出来ると、同年代の女の子達が思い思いの重ね着をする。茶色の毛皮の下にベージュ色や灰色のタンクトップだらけ。

 でも村に商人が、やってくると明るい色の布は完売。次の日には、色取り取りのタンクトップ重ね着が見られた。

 明るくなったなぁ、としみじみ。

 私はまたなんちゃって巫女服を着て、ジャガイモを探しに森を歩いた。

 キリコの話だと隣村の子達まで、真似をしているそうだ。

 なんだか自分が誇らしいなぁ。前世の知識を使っているだけだけど。

 そんな私は今度はジャガイモを見付けて、ポテトフライを作ろうとしている。この世界ではポタタと呼ばれているらしい。たまにジャガイモの丸焼きが出されるから、母はジャガイモ畑を知っていた。正しくはポタタ畑か。

 幻獣と一緒に森の中に来た。

 そうそう幻獣のことは、ウルフから名前を取って、ウルと勝手に呼ばせてもらっている。ウルくんだ。


「これかな?」


 教えてもらった場所の植物を確認しようと思ったけれど、その前に後ろで足音が聞こえてきたので手を止める。振り返ると、ギンが立っていた。



 

20181015

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