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06 ファッションショー。



「ガウウ!!」

「っ!」


 私は抱えていたカゴを地面に置くと同時に、一回転して飛び付いた魔獣をひと蹴りする。


「キャン!」

「四日前の私とは一味違うんだなぁー、これが!」


 着地をして、ニッと笑みを浮かべた。

 でもギンほどのキック力ではなかったので、頭を振った魔獣は再び構える。


「魔獣の肉は美味しくないんだよねー。帰ってくれない?」


 逃げるなら今のうちだよー、と言ってみるけれど通じるわけなかった。

 魔獣の肉は食べればないから、無駄な殺生はしたくない。

 でもあっちは私を食べたいのだから、仕方ないっか。


「よし、一発で決めてやる」


 右手をプラプラして、それから駆け出した。

 魔獣もこっちに向かってくる。


「レモート!」


 魔獣の牙が届く前に唱えれば、翳した右手から小さな竜巻が起きた。

 それが爆発するように、魔獣を吹っ飛ばす。

 木の幹にぶつかって「ギャ」と魔獣は動かなくなった。


「ごめんねー」


 謝りつつも、魔獣の方が悪いと思う。


「んー」


 私は立ち尽くして、顎に手をやる。

 それから両腕を広げて、ぐるりんと側転をした。


「おお!」


 すんなり出来る。鍛えた身体のおかげだ。

 よし次は……と深呼吸をしてから、ジャンプして宙返り。

 スタンと着地をして、両腕を上げてポーズ。


「ふっ」


 身軽でなんでも出来る身体。素晴らしい。

 筋肉がしっかりついているけど、贅肉はなし。

 身長もあるし、くびれてもいる。

 自分の身体を見下ろしてから、服を両手で摘む。

 今日はタンクトップ一枚。あと短パンである。

 胸はだいたい大きめなオレンジサイズ。

 料理をしたら、服装を見直そう。

 カゴを再び持ち上げた私は、軽い足取りで村に戻った。


「まぁ! 良い匂いじゃない!」

「でしょでしょ?」


 ソースを作っている最中、台所をそわそわしていた母親はまともな料理になると予想がつき満足気な笑みとなる。


「でもこんな料理どこで教わったの?」

「えっとー」


 前世の知識を引っ張り出しましたなんて言えない。

 転生者なんて普通いないもの。こんな世界でもそうだ。

 前世を信じていたり、信じていなかったり。

 ややこしいので言わないでおこう。


「閃いたんだよ! 美味しいかなって!」

「ふーん、あんたにこんな才能があったとは。早くキッチンに立ってもらえばよかったわ」

「お母さんの料理が一番!」

「口が上手いんだから」


 和気あいあいとしながら、肉に味付けた。

 テーブルに並べれば、父親は舌鼓を打つ。


「……おい、ナヒメ。これは天下一品ってやつだ。村中に配ってやれ」

「え」


 神妙な表情になったかと思えば、父親はそう告げる。

 匂いにつられて覗き込んできたご近所さんもいたため、私はまたキッチンに立ってお肉に味付けをして、村中に行き渡るほどの量を焼き上げたのだった。


「ぐへぇー、疲れたぁ」


 流石に村中に配るほどの量を作ると疲れる。

 ベッドにダイブをして、痺れそうな腕を伸ばした。

 ちょっと休憩をしたのちに、私は勢いよく立ち上がる。


「よし! ファションショーと行きますか!」


 クローゼットの中からありったけの服を抱えて、ベッドに広げた。

 のだけれど、抱えるほど多くはない。

 元々、大事な胸や下半身を隠せていればいいんでしょ、的な認識の上で選んでいるようなもの。珍しいかったり大物だったりした獲物の皮で作ったものを、自慢気に着る場合も多い。

 女の子達がきゃあきゃあするのは、拾った石で作ったアクセサリーくらいんものだった。それも欲しければ力ずくで奪うオーク流だから、私は極力光り物はつけてこなかった。

 そんな私の服は、時折村に色んなものを売り込む商人から、買ったものが多い。

 胸だけを隠すインナーが三着。ヘソ出しオフショルダーが二着。タンクトップが六着。短パンが三着。以上である。

 あとは寒ければ着込む毛皮のベストやジャケット。それに冬用ブーツくらいなものだった。

 色はくすんだベージュや灰色ばかり。

 二日三日、同じ服を着続けるのもざらにある。

 年頃の女の子なのに、嘆かわしい。


「商人が来たら……ああでも貯金は使ったんだった」


 あちゃーと額に手をやると、角にチクっと当たってしまった。


「……働き口がない」


 嘆かわしい。

 今朝、狩ったものをお裾分けした通り、この村はほぼ自給自足の生活をしている。たまにくる商人や他に、獲物の牙や尻尾に毛皮を売って金をもらうが、ほとんど金を使わないのだ。

 村長という最強の父がいたから、かろうじて貯金が貯められたけれども。あ、ちなみに貯金は取られたくないからとギンにも内緒にしていた。


「こうなったら、ブルーノに行って売りに行こう!」


 それしか方法はない。人間の街ブルーノに行って、牙や毛皮を売り付ける。


「イン店長さんにも報告したいし……あ、サンドイッチのお礼をしなくちゃだな、うん」


 結婚は阻止出来たし、イン店長さんの言う通りギンが私を好きだったとも話したい。


「それまで着る服をアレンジしようっと」


 タンクトップの重ね着を試してみる。

 鏡はちょっと曇っているし汚れていて全身は映らないけれども、確認するには十分だった。鏡も欲しいけれど、高そうだな。


「オフショルダーとタンクトップの重ね着……うん、いい感じ」


 短パンも合わせてみて確認。

 もっと明るい色が欲しいな。

 真っ赤な髪に似合うような暖色系の服が欲しい。

 赤いタンクトップとか。

 花を摘んで染めてしまおうか。それの方がお得な気がする。


「試すか」


 携えたナイフを抜き取って、くすんだベージュのタンクトップの端をざっくりと切った。

 布を染めるって知識があまりないけれど、花とかだよね。

 んーと唇の下に指を食い込ませて、唸って考えを巡らせる。

 そうだ。彼岸花みたいに真っ赤な花畑のあるところが、森にあった。

 私はすぐさま飛び出して、そこに向かう。


「あったあった」


 真っ赤な花畑を発見。よく見たらツツジの大きいバージョンって感じだ。

 それが細長い茎で立って咲き誇っていた。


「実験だけれど、いただきます」


 両手を合わせて告げてから、摘ませてもらう。


「これぐらいでいいかな」


 しっかり抱えた私は、次に川に向かった。

 誰もいないことを確認して、たぶん自由に使っていいであろうカゴを借りる。この川は、主に洗濯に使われるのだ。

 それからまた森に戻って、落ちていたココナッツみたいな殻を拾い戻った。

 花びらを摘まみ取って、その殻の中に入れては、太い棒でこねくり潰す。水を徐々に入れつつ、様子見。

 川のせせらぎの音に時々、意識が囚われつつも、作業をした。

 十分かな、と思った頃に切り取った布を投入。浸しては見つめてみた。

 一時間以上、ポケーとしていたけれど、やがてカゴごと花びらと赤い色水を洗い流す。

 布はというと、うっすらピンクに染まっていた。

 んー、こんなものか。

 もっと時間をかければ、濃く染まるだろうか。

 洗えば洗うほど、落ちそうだ。

 とにかく今日の染料実験はおしまい。部屋で乾かしておこう。


「おりゃああ!!」


 帰り道にギンの声が耳に届いて、ビクッと身体を震わせた。

 でも今のは私に向けた怒声ではない。

 キョロキョロと辺りを見回して、ギンの姿を捜してみれば、いた。

 何人かの若者がいて、ギンもいる。

 何やら稽古みたいなことをしていた。


「もうやめようぜ、ギン……何時間もやってるぜ」

「無駄口叩いてねぇで挑んでこい!!」


 ギンが付き合わせているみたいだ。

 やれやれといった様子の若者達が、一斉にギンへ飛びかかるも殴り飛ばしたり蹴り飛ばしてはねじ伏せた。


「……」


 見なかったことにしよう。

 隠れて鍛えているなんて、私に知られたくないだろうから。

 私は陽が傾いた森を歩いて帰った。



 

20181009

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