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転生したら戦闘民族オークでした。  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


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5/9

05 狩り。




 とんがり耳まで真っ赤にして私は、結局ギンと話すことなく村に戻った。


「お、主役が戻ってきたぞ!!」

「わぁ!?」


 まだ集まっていたオークの村人達は、私を胴上げにする。

 人生初の胴上げに混乱しつつも、喜んだ。

 いつもは同年代の子達には弱いからと仲間外れにされていたけれど、ハイタッチを求めてきた。おめでとう、と笑みで祝福してくれる。

 わ、わーい!!


「あれ? 隣村の娘達は?」

「今なら勝てるかもってギンに再戦しに行ったわよ」


 ボディビルダーさながらの美しい体型の女性、名前は確かキリコ。

「よせばいいのに。絶対機嫌悪いわよ」と三つ編みにした緑の髪を後ろに流した。

 ちょ、ちょっと待った!!

 今ギン、すこぶる弱っているのだけれど!?

 泣いているところまで見られては、流石に嫁立候補達も幻滅しちゃうんじゃない!?

 慌てて戻ろうとしたその時だ。

 森から騒がしさが聞こえてきた。

 それもそのはず。大男さながらの巨漢のオークの娘が転がってきたのだ。

 うん。絶対これ投げたのギンだ。

 森から出てきたギンは、一人の巨漢のオーク娘をねじ伏せた。

 あ、ちょ、その子折れてるんじゃないの。ちょっと。


「いいか!? ナヒメ!」

「うん!?」


 私がさっき見た泣いているギンは、面影もない。

 いつもの怒ったギンの表情である。凄んでいた。

 私をビシッと指して、叫んだ。


「てめぇの魔法ごとねじ伏せてやるから、首洗って待っていやがれ!!!」


 再戦の約束に、内心ドギマギしながらもいつもの調子を心がけて。


「うん、わかった!」


 そう返事をした。

 いやだってほらさ。ここで断ったら、ギンのメンツがさ。うん。


「飽きないね、あんたら」


 キリコがケラケラと笑った。

 ギンは「襲ってくんなブスども!!」と蹴散らしながら、家に帰っていく。


「キリコもギンに求婚してなかったっけ?」


 そう問うてみた。一回だけキリコも挑んだ気がする。


「まぁーぶっちゃけ、ギンが最良物件だからさ。普通は求婚するでしょ」


 最良物件。オークとして、魅力的な男性ということ。

 オークとして、普通はアプローチをかける相手。


「逆に断るために決闘する物好きは、アンタだけだって」

「あはは……」


 あれはギンがあんな言い方をするから、嫌だったのだ。

 普通に恋をしてから始めてほしいもの。

 いきなり結婚は勘弁して。前世から恋愛初心者なの。

 でもギンはめっちゃ私が好きみたいだし。


「どうしたの? 顔真っ赤だよ? 髪とお揃いだね」


 なんてキリコに笑われて、頭を撫でられた。

 その夜は豪華な料理が並んだ。もちろん、肉、肉、肉料理である。

 たまには野菜も食べなければ、とは思うのだけれど、口に合っていたので今は黙って食べておくことにした。

 母親は娘のとんでもない初勝利に喜びつつも、婚期を逃したのではないかと心配している。それと花嫁衣装を寂しげにしまっていた。

 父親はひたすら自慢気だ。同年代の中で最強の相手に勝ったのだから、オークの親として誇れるのだろう。


「いやぁ、いつかはギンと村長の座をかけて勝負する思っていたが、もしかすると村長の座をナヒメに与える日がくるかもしれないな!!」

「気が早いよ、あんた」


 私は頬張ったお肉を吹き出すところだった。

 女村長の座は流石にいらないです、お父さん。

 ともかく、転生を思い出した私は最初の危機(?)を無事乗り越えた。

 これから、どうするか。

 いや本当に女村長の座はいらない。

 ないない。自分の部屋に入って、手を振る。

 けれども、ちょっとした開拓するのはいいかもしれない。

 ほら、前世で読んだ転生もの漫画や小説みたいに。

 世界を変えるなんて大袈裟な知識は持ち合わせていないし、そういう願望もない。ただちょこっと変えるくらいは出来るだろう。

 魔法も習得した。

 戦闘民族オークでも、エンジョイするぞ!!!

 拳を天井に突き上げて、決意を固めた。




 翌朝は、お父さんの狩りについていく。

 同行した右腕のゾルガさんに「おう、最強っ子。昨日はよくやったな」と、ゴリッと頭を撫でられた。おっかないくらい手が大きい。身体も見上げるほど、どっしりとしたガタイ。黒い髪は後ろで三つ編みに束ねていた。下唇から突き出た牙と、頬には三角槍のようなタトゥーが彫ってあるものだから、なおさら厳つい。


「最強っ子ってなんですか?」

「昨日盛り上がってついたあだ名みたいなもんだ。似合うだろ? 最強っ子」

「はぁ……」


 子ってついちゃうあたり、まだまだ弱い子と認識されているんじゃないかな。

 頭撫でられるし。私頭撫でやすい身長してたっけ? いやこれでも平均身長超えている。百七十センチはある。細身のせいかな。


「今日はなんでまた狩りについてきたんだ?」


 ゾルガさんが質問してきたので、胸を張って答えた。


「今日は私が朝ご飯を作ろうと思いまして!」

「はっはっは! 頼もしくなったな、最強っ子!」


 バシンとおっかないほど大きな手に背を叩かれてよろめく。

 痛いです。ゾルガさん。


「狩りも魔法でやるのか? それは感心しないなぁ」

「魔法も実力のうちですよ!」

「そうかぁ?」

「たべってないで行くぞ」

「へい」

「はい」


 村を出発。私を含めて七人のグループで、狩りに出掛けた。

 森を抜けた原っぱには、ちらほら生き物が見える。羊のようにモコモコな毛にくるまった生き物が、葉っぱをムシャムシャと食べていた。

 それにマンモスのような立派な牙と身体をした生き物も、ドシンドシンと歩いている。あれが主食の肉だ。


「マゾンを狩るぞ。ナヒメ、行くか?」


 そうだ。マゾンって生き物だ。


「うん! 行く!」


 父親の問いに返事をして、狙いを定めたマゾンの元に向かう。

 マゾンも気が付き、「ウモオオ!!」と声を上げた。

 狩られるものかと、突進してくる。

 私は右腕を斜め上に掲げて、ハリケーンのイメージを浮かべて唱えた。


「ティフォー!」


 ハリケーンが巻き起こり、マゾンの大きな身体はグルグルと回る。

 吹き荒れるそれが弱まれば、ドン! と原っぱに落ちた。

 ハリケーンも消える。


「ふぅ」


 吹き飛ばされないように踏み留まっていた私も力を抜く。

 ハリケーンはそのまま台風を生み出したような魔法。かまいたちのような切り口もところどころ見えた。

 魔法道具、例えば杖とかあればもう少し加減や微調節が出来ると思う。

 まぁ狩りに使う分は必要ないか。

 決闘には昨日のレモートを唱えれば、相手をぶっ飛ばせる。


「おりゃああっ!!」

「ん?」


 腰に携えたナイフでトドメをさそうとしたけれど、その前に父親達の狩りが目に入る。六人がかりで私の獲物よりも一回り大きなマゾンを殴っていた。

 ボコボコである。

 ……オークだな。

 しみじみ思った。


「ごめんね。君の命をいただくよ」


 私はそう呟いて、倒れたマゾンの首を掻く。


「命には感謝だな」


 振り返れば、ゾルガさん。

 もうあっちのマゾンは倒したようだ。


「運ぶの手伝ってやるよ。流石に運ぶ魔法は持ってないだろう?」

「あ、はい。お願いします」


 ニヤッと笑いかけられた。

 確かに今の私では、魔法では運べない。

 なので、ゾルガさんと足を持って引きずっていく。

 森に入ろうとした時に、バッタリとギンと鉢合わせた。

 ギンは三匹の豚を背負っている。狩ってきたみたいだ。

 そんなギンが、私が引きずるマゾンに注目をする。


「……」

「……」

「……ちぃっ!!」


 盛大に舌打ちされた。

 あ、今獲物を比べたのね。


「いや大きさより数だよ、ギンの圧勝」

「うるせぇ!! 慰めなんていらねぇんだよ!!」


 ギンはプンスカ怒りながら、先に村に帰ってしまった。


「はははっ」


 それを笑って見送るゾルガさん。


「お前達仲良いのになんで結婚しないんだ?」


 ギクリとしてしまう質問がきた。


「仲、良いですかね?」


 私は質問を質問で返す。

 恋愛初心者だから結婚に踏み出せないなんて、ちょっと恥ずかしくて言えない。


「昔から一緒にいるじゃねーか。弱いナヒメを強いギンが守っている。むしろギンはオレのものに触るんじゃねーって睨みを利かせてたしな。まぁ……あれだ。初夜さえ越えればなんとかなるって」

「ななななにイケボで言ってるんですか!?」


 なんか見抜かれてる!?


「なんだ? いけぼって……」

「ああ、ほら! 村に着きましたよ!」


 からかいつつも首を傾げるゾルガさんとしていた会話は切り上げた。

 狩った獲物は母親達が捌いて、近所に振る舞う。特にもう狩りに行けない老人など。

 私は捌くことも母親に頼んで、一人、森に戻った。

 クンクン。

 土地勘と鼻を頼りに探し出したのは。


「あったー!!」


 果物だ。カゴにたくさん溢れてしまうほど収穫した。

 見た目は、マンゴスチン。でもマンクットンと呼んでいる。

 球体で丸いヘタがついた赤紫の果物。匂いを嗅げば甘い。

 これはデザート用で好まれて食べられているけれど、今日はお肉の味付けに使おうと思っている。甘いソースで味付けてお肉を頬張るのだ。

 うん。美味しいに決まっている!

 近所へお裾分けする分も収穫したら、抱えて村に帰ろうとした。

 そこで聞こえてくる唸り声。

 まさかと思い振り返ると、よだれを垂らした犬型の魔獣がいた。

 ここであったが百年目! って感じだ。

 間違いなく四日前にギンに一蹴された魔獣だと直感した。


「ガウ!!」

「ひぃ!」


 一匹でも捕食者の咆哮に、びくりと震え上がる。

 魔獣は飛びかかってきた。



 

20181005

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