01 オークでした。
ハッピーハロウィイイイイイイイン!!!
毎年お馴染み、ハロウィイイイイイイインテンションのべにですよ!
10月はハロウィンの月です(`・ω・´)
人外ものを書きたい所存でございます。
20181003
「突然ですが、あなたは亡くなりました」
真っ暗闇の中で告げられて、私はポッカーンとした。
悪い夢だろうか。
「悪い夢ではありません。現実です」
女性らしき人の声は、柔和に告げる。
そうか。現実なのか。
私は人生を振り返ってみた。
極端に不幸ってわけではなく、かといって極端に幸福ってわけでもなかった人生。けれども平々凡々な人生ではなかった。不幸を味わって、同じくらい幸福を味わって、誇れるのは趣味の漫画や小説を読み漁ったくらい。それを思うと、まぁまぁいい人生だったんじゃないかって評価になる。
暗闇の中、自分の姿も捉えられない。
「……ちょっと待ってください。死因はなんですか?」
しみじみしたけれど、不意に最期が気になった。
まだ二十代の私の死因ってなんだ?
「……」
間が出来る。
「まぁいいじゃないですか。亡くなってしまったのですから」
なんで教えてくれないの!?
超気になってしまうのだけれど!?
「えっと、失礼ですが、あなたは天使ですか? それとも女神様ですか?」
「それもまた知らなくてもいいことではないですか。亡くなってしまったのですから」
またもや柔和な声で女性は告げる。
え、いいのか?
「この会話はいつか思い出すかもしれませんし、思い出さないかもしれません。転生する皆さんにこうしてお声をかけているだけです」
なるほど。謎の声さんのお仕事なのね。
これから転生するけれど、思い出すかどうかはまた別。
確かに知らなくてもいいことのように思えてきた。
「では、また会いましょう。次の人生では幸福な長生きできますように」
それは何度も聞いた覚えがあるような台詞。祈るように優しく言われたかと思えば、ふっと光が差し込むように現れては包み込まれる。
そうして私はーーーー生まれ変わったのだ。
「こんな状況で思い出したくはなかった」
猛獣の飢えた咆哮を聞いた私は、木の枝の間にはまった身体を縮こませた。
私は今、狙われてしまっている。命の危機である。
足元で吠えているのは、動物ではない。魔獣と呼ばれる生き物だ。
不細工な顔の犬型の魔獣は、あちらこちらから牙が生えていて、もふもふしたら痛い目に遭うこと間違いなし。何より、もふもふなんて許しそうにない牙が剥き出しにされている。私の肉を喰らうことを待っている鋭利な口からは、唾液が垂れ落ちていた。
ガウガウと吠えられる度に、ビクッてしまうのはしょうがない。
生々しい最期を想像してしまうのだから。引き千切られたりするのかな。ああ怖い。
「どうしようか……」
魔獣は合計四匹いる。この場をどう切り抜けようか。
諦めるまで、じっと我慢するかな。
いやでも、かれこれ一時間くらいはここにいる気がする。
魔獣は飢えているのだ。私という食事を諦めない。
そんな魔獣を、文字通り一蹴してくれた者が現れた。
「あっ……」
四匹が吹っ飛んだあと、キャンキャンと喚いて尻尾を巻いて逃げていく。それを見送った。
下を見てみれば、額に一つの角が生えた男性が立っている。
覚えがあった。ちょっと待って。前世なんてものを思い出したから記憶が混乱している。
あ、そうだ、彼は幼馴染だ。
風に靡く白銀髪が、キラキラしている。鋭利な眼差しは、黒いアーモンド型の瞳。体型は上から見下ろしていても長身。そして引き締まった筋肉質な上半身を惜しみなく晒していた。履いているのは、黒いズボン。そして爪が尖った素足で立っていた。
顔立ちからして、まだ若い。二十前後ってところだろう。もっと若いかも。
うん、イケメンである。イケメンマッチョだ。
ポッカーンと見下ろしていれば、そのイケメンマッチョが腕を伸ばした。
「降りてこい」
一言、放つ。
そうね。いつまでも木の上にいては間抜けよね。うん。
腕を伸ばしたということは受け止めてくれるということだと判断して、思い切って飛び降りた。がっしりした胸と腕に抱き留められる。
あ、すごい力持ち。前世の頃に受け止められたことのない私は、漫画みたいなシュチュエーションに、ときめきを覚えた。
そんな甘い雰囲気も、一蹴されることになる。
「こんのっっっ弱虫が!!!」
「ひぃ!?」
この距離で怒鳴られた。
いやそう言えば、こういう幼馴染なのだ。彼は。
このまま投げ飛ばされるんじゃないかと身構えたけれど、そこはストンッと下ろしてくれた。
「何魔獣にビビって木の上に縮こまってやがるんだ!? あん!? それでもてめぇーーーー“オーク”かよ!?」
幼馴染の彼は、毎回これを言ってくるのだと思い出す。
そう私はーーーーオークに転生したのだ。
とは言え、一般的に知られているオークとはちょっと違う。悪の手下で豚顔の汚らしい姿ではなく、人間に角と牙ととんがり耳と筋肉質な身体を足したような姿。私としては、鬼と呼ばれた方がしっくりとくる感じだ。
そんなオークは、戦闘民族である。
強さこそ誇り。強さこそ正義。強さこそ最強。
そんな種族なのである。
私はオークの村の村長の娘なのだけれど、オークとしては珍しいビビり。おかげで魔獣に追い回されて、木の上に登って縮こまっていたというわけだ。
「オーク、です」
認めたくないけれど、オークに生まれてしまったのだからそう答えるしかなかった。あわよくば、可憐なエルフの女の子になりたかったのだけれど。
ん? ちょっと待ってよ。私ってどんな性格だったっけ? どんな口調で彼と話していたっけ?
村長の娘だから、ちょっと高飛車な感じだっけ!?
「これでもオークでごめんなさいね?」
オーホホッて高笑いが似合いそうな口調で言い放ってみた。
「……」
「……」
間が出来る。
そのあと、拳骨が頭の上に落とされた。
あ、覚えのある感覚。痛い。これ毎回やられているパターンだ。
「何開き直ってやがる。おら、帰るぞ」
「はい……」
しょんぼりと頭を押さえながら、踵を返す彼についていく。
高飛車な口調はハズレのようだ。
というか、彼の名前はなんだっけ。思い出しかけていたのに、拳骨のせいですっかり忘れてしまった。あ、ごめん。本当は全然思い出せていなかったです。はい。
「……あの、えっと、ごめんなさい」
話しながらなんとか彼の名前を思い出そうとしたけれど、まず先に口調を思い出さなくちゃいけなかった。
ギロリと眼光を向けてきた彼に、頭を鷲掴みにされて握り締められる。
「いたたたっ!?」
「さっきから変な話し方しやがって! なんなんだ!? 弱虫!!」
「ごめんっ!! ごめんって!!」
そういえば彼とは幼馴染だった。普通に砕けた感じで話せばよかったのだ。
謝れば、パッと手を離してもらえた。……頭割られるかと思ったわ。
「謝るなら最初からすんじゃねーよ」
「うん、ギン。助けてくれてありがとうね」
すんなりと出てきた彼の名前。そうだ。ギンって名前だった。
白銀の彼にはぴったりの名前じゃないか。
「うるせーよ、ナヒメ」
私の名前はナヒメ。ヒメって名前に入っているとムズムズする。
まぁ姫のようにか弱いってことなら合っているけれども。
自分の容姿も思い出せた。角は三つあって、一つは額の真ん中、左右のこめかみ近くに二つ。それを避けるように赤い髪が伸びて、ちょうどボブカット風の短い髪型。
肌は健康的なちょっと焼けた色。筋肉しかない身体は細い。オフショルダーのような服はヘソ出し。腹筋は割れている。短パンのような服とどの動物のものかわからない獣の皮のブーツ。
瞳の色は、確か明るい赤だったっけ。大きくて丸い形。
八重歯がチャームポイントかな。
「オレの妻になるっていうのに、魔獣の餌にさせるかよ」
「あはは」
私は乾いた笑いを漏らす。
「……」
……ん?
私は丘を降りた森の中で、足を止めてしまった。
「何足を止めてんだよ? 帰るっつってんだろ」
「……誰が、誰の妻になるの?」
「はぁ?」
顔だけ振り返ったギンは、不機嫌な顔をしている。
「お前がオレの妻になるんだよ、ナヒメ。てめぇ……頭でも打ったのか?」
「な……なんで、なんで!? なんで!? え、私弱虫で嫌いじゃないの!?」
「あぁん? だから昨日言っただろうーが。てめぇ以外の女の求婚がうぜーから、唯一求婚してこなくてうるさくねぇお前と結婚してやるって」
めんどくさそうに白銀の髪を掻き乱すギン。イケメンな仕草にみとれていられなかった。
思い出したのだ。ギンは村一番の人気者。何故なら若者の中で一番強いときた。強いはかっこいい。隣の村からも、求婚しにくるオークの娘が後を絶たないのだ。
戦闘民族だけあってオークの求婚は、ぶっちゃけ決闘である。
私が勝ったら決闘してハート。なのである。
伴侶も戦いで勝ち取る。
時には大男と見間違えるほどのたくましい娘が決闘しにきたが、村一番の強い男であるギンは負けない。ギンへの求婚もとい決闘は、すでに村の名物化している。
「……や、やだ……」
「はっ?」
「やだ!!」
昨日の私がなんて答えたかは知らないが、今の私の気持ちははっきりしていた。
恋することなく、他の求婚者が嫌だからって理由で、結婚したくない。
何より人気者のギンと結婚なんてしてみろ。
あの子やこの子にどんな嫌がらせされるか。
ただでさえ弱い私は、この前の巨漢な娘に一捻りされる。
私のメリットがないじゃないか! デメリットしか浮かばない!
「やだっ!!!」
全力で叫んだのだった。