9.山中、ミノタウロスとの戦い
石の弾丸はミノタウロスの眼球、その少し上に着弾した。
失敗した!
全身からどっと汗が噴き出した。
ミノタウロスは頭を抱えるようにして呻く。
ここからはよく分からないが、全くダメージが無いというわけではないらしい。
しかし当然の事ながら致命傷には程遠く、かえって奴を刺激してしまったように思えた。
ミノタウロスはこちらに気が付いたようだった。
木の上にいる俺は姿の隠しようが無かった。
とはいえミノタウロスは木に登ることができない。
俺の木の根元までは来ることができるだろうが、それ以上のことはできないはずだ。
用意した弾丸がわりの小石はたくさんある。
まだチャンスはあるはずだ。
そんなことを考えた直後、俺はバランスを崩してしまう。
足元が揺れたような感覚。
俺は慌てて態勢を整えようとするが遅かった。
世界が反転する。
落下する俺の視界にミノタウロスの姿が映った。
木に身体を押し付けるような体制の奴を見て、俺はこいつが木に体当たりをしてきたのだと理解した。
背中に衝撃と激痛。
息が詰まる。
肺から無理やり空気が吐き出されていくような感覚に俺は意識を失いそうになる。
それでも頭から落ちて、首の骨を折らずに済んだのは不幸中の幸いと言うべきだろう。
それとも頭から落ちて、首の骨を折って即死した方が楽だっただろうか。
俺に影が覆いかぶさって来た時に、俺は少しだけそんなことを考える。
ミノタウロス。
異形の怪物が、俺に馬乗りになっている。
その腕には巨大なこん棒が握られていた。
俺はここで死ぬのか。
死ぬことについて、俺は何も覚悟はできていない。
そもそも死ぬ覚悟ができる人間などそうそういないだろうが。
ミノタウロスがこん棒を振り上げる。
俺は思わず目をつぶってしまう。
恐怖に俺はもはや何もすることができない。
脳に強烈な衝撃。
頭の中に鈍い音が響き渡った。