7.山中、反撃に向けて
「ミノタウロスを殺すしかない」
比奈子が疲れた様子で言った。
息が上がっている。
俺と比奈子は、大木の根元に座り込んでいた。
「あんな奴を殺すことなんてできるのか?」
「できるのか、じゃなくてしなくてはならないの。ねえ、変だと思わないの?」
「何が?」
「今、何時?」
俺は腕時計を確認した。
午後五時。
「おかしいな、壊れたかな?」
あの怪物に襲われる少し前に俺は時間を確認した。
その時から時計が進んでいない。
ミノタウロスから逃げ出して、既に二時間は経っているはずだ。
そういえば日が暮れていない。
周囲は薄暗いままだし今は夏だが、午後七時となれば日没が近い。
「この森、いや私たちがいるこの空間の時間が止まっているのよ」
「なんだよそれ」
「きっとミノタウロスのせい。ここはあいつの縄張りなのよ」
だから殺すの。
比奈子が言う。
「ミノタウロスは迷宮にいる。この森が、あいつにとっての迷宮。私たちにはアリアドネの糸がないから無事に出られるかは分からない。でも、このままだと私たちが死ぬのは時間の問題ね」
「ミノタウロスを避けながら森の出口を探すことはできないか?」
「たぶん無理ね。あいつはこちらが四人であることを知っている」
比奈子は顔を伏せた。
俺たちが既に二人になってしまっていることを意識してしまったのだろう。
「あいつは人間というよりも獣に近い存在に見えた。きっと嗅覚も発達しているはず。すぐに見つかるわ」
「……そうだな」
俺も比奈子と同様、奴の事を獣だと感じた。
見つかるのも時間の問題だというのも、きっと事実だ。
そもそも外に出られるまで何日かかるかすら分からないのだ。
ミノタウロスから逃げながらなんて不可能な話だろう。
「ミノタウロスを殺すしか俺たちに生き残る方法がないのは理解した。でもどうやって……」
「私に考えがある」
俺の言葉を比奈子が遮る。
「上手くいくかは分からない。でもチャレンジする価値はある」
かなり命がけだけど。
比奈子は弱く笑った。