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5.山中、背後の気配

 最初に異変に気が付いたのは涼太郎だった。

「ねえ、なんだかおかしくない?」

「何が?」

 俺は涼太郎に聞く。

「なんかさっきから、同じところを何度も歩いているような気がするんだけど……」

「涼太郎もそう思う?」

 里菜が言う。

 その顔は不安そうだった。

 先頭を行く比奈子も薄々感じていたのか、立ち止まるとこちらを振り返り顔をしかめる。

「でも、道は一本しかないよ」

 そうだ。

 俺たちは目の前にある道をただ歩いてきただけだ。

 他に枝分かれしているような道もなかったはずだった。

 しかし道自体はそれほどハッキリとしているようなものではない。

 背は低いとはいえ雑草が生い茂っているし、俺たちは山歩きには慣れていない。

 見落とした可能性も十分考えられる。

「もう引き返した方が良いんじゃないのかな」

 涼太郎が言う。

 言葉に少しトゲが感じられた。

「でも涼太郎は同じところを何度も歩いている気がしているんでしょ? だったら引き返したって無駄じゃん。どうせまたここに来るよ」

 比奈子の言葉に涼太郎はムッとして黙り込む。

「ほら、じゃあいったん引き返してみてさ、森から出るための道を探してみよう。きっと気付かなかったんだよ」

 にらみ合ったまま動かない二人に、里菜が無理に明るい声で語りかけた。

 俺は小さくため息を吐く。

 ちらりと腕時計を確認してみると、午後五時。

 夏なので日没にはもう少し時間があるとはいえ、既に周囲は薄暗くなってきていた。

 早く森から出た方が良いのは間違いないだろう。

 結局、涼太郎を先頭に歩いてきた道を引き返すことになった。

 誰一人喋ることもなく、俺たちの間には重たい空気が流れていた。

 ただのハイキングで高校生が険悪な雰囲気になろうとは、さすがに想定していなかった。

 それなりに楽しめそうかも、などと考えた昨日の俺を、今の俺は少し恨んだ。

 俺は一番後ろを歩いていた。

 少し先を比奈子が歩いている。

 先頭は涼太郎、そしてそのすぐ後ろは里菜だ。

 草が茂っているから、歩いていると音がした。

 四人が草を蹴飛ばしながら歩く時のガサガサという音をぼんやりと聞きながら俺は歩き続けた。

 ふと、俺は違和感を覚えた。

 上手く言葉にできないが、とても良くないことが俺たちの身に降りかかろうとしているのが感じられた。

 ほどなくして俺は、違和感の正体に気が付いた。

 そして気が付くと同時に俺の心臓が跳ねあがった。

 背後から草をかき分けるような音がしていた。

 俺の後ろに何かがいる。

 背中を冷たいものが流れるのが分かった。

 いつからだ?

 いつから音はしていた?

 俺は今にも叫び出しそうだった。

 気取られてはいけない。

 もしこちらが気が付いたということが向こうに伝わったら、一体どうなってしまうのだろうか。

 そもそも俺たちの後ろに何がいる?

 まさか本当にミノタウロスなどが存在していて、俺たちの後をついてきている?

 そんな馬鹿な。

 ありえない。

 俺の中にある理性が囁く。

 では、俺の背後にいるのは一体……。

 俺は背後に意識を集中させる。

 背後から聞こえる音は、人間の立てる音よりも大きいような気がした。

 もし背後のそれが人間であるのならば、身長は二メートルを超えているかもしれない。

 このままではいけない。

 しかしどうすればいい?

 とてもではないが、振り返って確かめる勇気など俺にはなかった。

「ねえ、いい加減何かしゃべろうよ」

 俺の前を歩いていた比奈子が振り返り、俺に言った。

 比奈子の視線が俺の後ろ、その何者かに向けられたのが分かった。

 少しの沈黙の後、比奈子の叫び声が響いた。

 声に驚き涼太郎と里菜がこちらを見る。

 二人の顔が恐怖に歪んだ。

 もう耐えられなかった。

 俺は後ろを振り返った。

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