【お試し】ジョージ・ヴィンセントと魔女の秘密【いきなり始まりいきなり終わる】
深夜のテンションで書いた小説の一部分です、好評の場合は長編で書こうと思っています。
設定集を見てからの方が楽しめると思います。
黒と茶色を基調とした部屋にリスキーが居る。ごそごそとベッドの下を漁って何かを見つけているようだ。
その背後からシャーリーが近づく
シャーリー:リスキー?何してるの?
驚いたリスキーは頭をベッドの下にぶつけて、涙目で後頭部を押さえる。
シャーリー:大丈夫?ここは私の部屋よ…何かあったの?
立ち上がったリスキーが両手を後ろに隠しているのを見て、シャーリーはリスキーの手を引っ張る。
リスキー:あっ…!?
シャーリー:何だ、タロットカードだわ…バラマーケットで買ったおもちゃだよ。返して、リスキー。
言い合いする二人。そこにアルバータがやってくる。
アルバータ:リスキー、シャーリー!お客様が来ているんだから静かにしなさい!
二人を注意するアルバータだが、タロットカードを見て急に顔面蒼白になる。
アルバータ:二人共…!廊下に出なさい!!
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リスキーとシャーリーが廊下に出る。後ろからアルバータが続く。
身を震わせる二人に構わず、アルバータは強引にシャーリーの手からタロットカードを奪い取り、持っていたライターで燃やす。
アルバータ:リスキー!財布を寄越しなさい!
激怒したアルバータがリスキーに言いつけると、リスキーは震えた手で財布を渡す。
アルバータは財布を奪い取り中の現金を全て取ると、リスキーの財布を床に叩きつけた。
リスキー:アルバータ姉さん…
アルバータ:黙りなさい。お前は私の弟じゃないし、私はお前の姉じゃない!お前の肉親は魔女協会の魔女だった!汚れたお前と一緒にしないで!
リスキーはビクリと肩を震わせて、その場にしゃがみ込む。シャーリーがアルバータを睨む。
シャーリー:言い過ぎよ!血が繋がって居なくたって貴女はお姉ちゃんでしょ!それとタロットは私のよ、リスキーじゃなく私を罰して!
アルバータ:シャーリー!お前って子はーーー
言い争う二人の会話を止めようとする様に、突然窓ガラスが割れる。驚いたアルバータとシャーリーは粉々になって床に落ちた窓ガラスを見る。リスキーはしゃがみ込んだままだ。
アルバータ:何、こんな時に…
アルバータは更に怒って、前屈みになりながら窓から外を覗くと、外に向かって叫ぶ。
アルバータ:こんな悪戯をしたのは誰!!?出てきなさい!逃げたって無駄よ!!
アルバータは叫び続けるが、窓ガラスを壊した犯人を見つける事は出来なかった。
仕方なく前屈みになった身体を戻そうとする。
その時だった。アルバータの足元が宙に浮かぶ。そして前転する様な形でそのまま外に投げ出される。アルバータは断末魔に近い悲鳴を上げる。
骨が折れる鈍い音がして、数秒後。シャーリーは慌てて窓の外を見る。
アルバータは石造りの道路に叩きつけられて死んでいた。ゆっくりと赤い血が広がっていく。道路に居た人々はそれを見て驚き、逃げ惑う。
シャーリー:魔女…
シャーリーはそう呟いてから、ハッとしてリスキーを見る。リスキーはフラフラとした足取りで階段を降りている。
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通りを歩いていたグレイソンが逃げ惑う人々に気付く。そしてアルバータの死体を見つけると、コートのポケットからトランプ数枚とライターを出してゆっくりと死体に近づく。
その死体が魔女に殺された者だと分かると、死体の近くにある家に入る。
家に入ると、すぐに少女の泣き声が聞こえた。二階からだ。
グレイソン:おい、誰か居るのか?
グレイソンは二階へと続く階段を登っていく。手にはまだ、トランプとライターが握られている。
一番手前の部屋にグレイソンが入ると、部屋の隅に体育座りで泣いている少女がいた。シャーリーだ。
グレイソン:どうした?何があった?
シャーリー:リ、リスキーが…
身を震わせながらも必死に喋ろうとするが、恐怖の所為で舌が回らない。グレイソンがしゃがみ込み、シャーリーに近づく。
グレイソン:リスキー?誰の事だ?
シャーリー:友達の…、!
そこまで話してから、シャーリーは口を手で覆い、壁を指差す。グレイソンはシャーリーが指を指す方向を見つめる。
数秒後、壁がガラガラと崩れ落ち、少年が現れる。
シャーリー:リスキー…
シャーリーが呼びかけるが、リスキーには聞こえていない。
グレイソン:君は……魔女か?
リスキー:…違う…
グレイソン:いいや、この感じは間違いない。
シャーリー:リスキー、やめて…
次の瞬間、強力な風が吹き荒れる。風というより念力に近いそれは、リスキーを取り囲む。あっという間に彼の身体を風へと変貌させる。
その風は真っ直ぐグレイソンに向かってくる。グレイソンはシャーリーを庇うと、燃えているトランプに火を付けて囁く。
グレイソン:護れ。
グレイソンがそう呟くと、火は見る見るうちに大きくなりグレイソンとシャーリーを囲む。まるで壁だ。
炎が風と激闘する。そして数秒後、風は進路を変え、激しい勢いで窓ガラスが割れている窓から飛び出していく。
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街中を破壊していく台風の様な風を、ジョージ達はビルの最上階から眺めている。
アステリア:ジョージ、風になっているけどあれが魔女よ。変幻自在だなんて…あんなに強力な力を見るのは初めてだわ。
トム:ヤバイな。世界の終わりか?
トムはそう言いながら水の入ったペットボトルをボストンバッグに詰めている。
ジョージはトムの行動を不思議そうに見たが、理由は聞かずにアステリアに話しかける。
ジョージ:ねえアース、魔女が誰なのか分かる?
アステリア:私は元魔法使いだから、魔法は強くないけど…やってみるわ。
ジョージ:ありがとう。リュックサックは君に預ける。魔女の家を見つけたら僕の所に来て。魔女と交渉して見ようと思ってるんだ。
ジョージのリュックサックを受け取り、頷くアステリア。
アステリア:わかったわ、それじゃ。
トム:待てって!
解散し出す二人をトムが止める。
トム:俺も一緒に行くよ、ジョージ。
ジョージ:え?
アステリア: トム…治安局の魔法使いが勝手にそんな事したら、イギリス支部どころか全支部に受け入れて貰えなくなるわよ。
トム:わかってるよ。でも忘れたのか?クビを通り越して死刑になったんだ。もう魔法使い協会なんてどうでも良くなったぜ。
トムがジョージの目を見る。信頼してくれと言わんばかりの目だ。
ジョージ:…わかった。君がそれで良いなら、付いて来てくれ。
トムは笑顔を見せて頷く。そして、三人がそれぞれの場所へと向かう。
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街ではビルが崩れ、火災が起き、人々が逃げ惑う。道路には何台もの車が転がっている。
その中をグレイソンは歩いている。逃げる人々など彼の眼中には無い。頭の中はリスキーの事だけだ。
グレイソン:リスキー!!止めろ!君の親は魔女じゃない、魔法使いだ!!魔法使い協会に来ればもう苦しまなくて済むぞ!
勿論これは嘘だ。リスキーを止め、魔法使い協会へと連行し死刑にする為の。
だが風ーーーリスキーはグレイソンに近づく。力が弱まっている。
グレイソン:良い子だ、リスキー!さあ、早く戻れ!魔法使い協会に来い!
トム:局長!!!
突如叫び声がして、グレイソンは振り向く。風がグレイソンから離れ、何処かへ去って行く。叫び声の主はトムだ。肩からボストンバッグを下げている。
グレイソン:はぁ…君って奴はいつも邪魔をする。
トム:何時もなら頭を下げて立ち去ります。でも今回は無理です。
グレイソン:全く、困った部下だな。君に魔法使い協会での死刑は軽過ぎる。
トム:…そこを退いてください。
グレイソン:断る。骨も残さず、灰になれ。
吐き捨てる様にそう言うと、グレイソンはライターを取り出し近くの車へ放り投げる。オイルが漏れ出した車は最も簡単に燃え、近くの車にも引火し、爆発する。
グレイソン:彼奴を燃やせ。
グレイソンが呟くと、炎が塊となってトムに向かっていく。トムはボストンバッグを逆さまにしてペットボトルを床にばら撒いて、叫ぶ。
トム:噴射!
トムの声に反応し、ペットボトルの水が噴き出す。ロケットの様に勢いよく噴き出した水が、炎と激闘する。
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ジョージは風ーーーリスキーを追っていた。炎で燃えた道をSDSで消火しながら。
ジョージ:お願いだ!待ってくれ!頼むから!
リスキーはジョージの声に反応しない。そのままスピードを上げ、近くの駅に停車している電車へと突っ込んでいく。
ジョージ:そんな…
ジョージは立ち止まり、電車をグシャグシャに壊していく風を呆然と見つめている。が、スマホが鳴っている事に気付き慌てて応答する。
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グレイソンとトムはほぼ同じタイミングで攻撃を止めた。両者息が上がっていたが、トムの方が疲れている様だ。
グレイソン:そこまでだ。所詮、君は中級者魔法使いだ。エリートに敵うわけがない。
トム:くそっ…
苦戦するトム。が、背後のビルを風が崩壊させた事により、グレイソンに隙が出来た。
トム:くらえ!
トムは水を操り車を持ち上げると、グレイソンに叩きつける。
グレイソン:剣と成れ!
慌ててグレイソンが叫ぶ。上空で渦を巻いていた炎は刃の様な形になり、車を真っ二つに切り裂く。だが、車の所為でグレイソンの周りに煙が舞う。
トム:エリート魔法使いは何でもアリかよ、どんな脳みそしてんだ…!
トムはグレイソンの高度な魔法の操り方に驚きながらも煙によって隙ができた為、その場から全速力で逃げ出し、風を追う。
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ジョージは駅の線路内に居た。線路でうずくまっているリスキーを説得しようと必死だ。
ジョージ:ねえ、君はリスキーって名前なんだって?僕はジョージ。ジョージ・ヴィンセント。
微笑みながらゆっくりと、一歩ずつリスキーへ近づいていく。
ジョージ:僕の祖母は魔女なんだ。君の親もそうらしいって聞いたよ。…僕は君の味方だ。君は悪い子なんかじゃないさ。とっても良い子で、優しい子だよ。
リスキーは顔を上げてジョージを見る。まだ青ざめて不安げな顔だったが、微笑むジョージを見て少し落ち着いた様だった。
ジョージ:リスキー、君の友達が心配してるって。帰ろう。
グレイソン:まだだ。
ジョージそう言った瞬間、背後から声がかかる。ジョージはゆっくりと振り返り、グレイソンを見据える。グレイソンは相変わらずトランプとライターを手に持って居て、休戦する気は無さそうだった。
ジョージ:グレイソン・クレイ…
グレイソン:ジョージ・ヴィンセント。君をこのまま日本へ帰す訳にはいかない。君とは、ここで決着を付けよう。
ジョージ:…逃げられそうにないし、受けて立つよ。
グレイソンがトランプに火を付けたのを見て、ジョージはSDSを構える。
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アステリアはシャーリーとアパートの中に居た。ラジオからは異常気象だと言うアナウンサーの声が聞こえてくる。
アステリア:どうやら、今度は駅の方が危ない状況みたいね…シャーリー、一緒に来て!
ラジオを聴いていたシャーリーがアステリアと共に外へ出る。二人は駅へと歩を進める。
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グレイソンとジョージは一対一の戦闘を繰り広げている。今度は接近戦なので、ジョージの方が一枚上手だ。
グレイソン:君は本当に医師か?軍人の様な技を使うが。
ジョージ:どうかな、軍人だったかもしれない。
そう言ってニヤリと笑うと、ジョージはグレイソンに見えない様に手を後ろにして、SDSをスタンモードに切り替える。そのまま線路にSDSを撃つ。電気が走る。
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リスキーはジョージとグレイソンから少し離れた線路内に居た。うずくまりながら二人をずっと見ている。そんな彼の背後から、人影が近づく。
シャーリー:リスキー!
アステリア:…お願い。少し話を聞いてほしいの。
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