小説家に! なろオォっっ!
飛行機が幾何学模様の飛行機雲を亜音速で描いていく。
放課後の雑談が時間を蒸発させていき、気が付くとふたり以外の生徒は消え、ふたりの男子高生が残っていた。
安寧とした午後、彼は今思いついたように――実際はずっと前から考えていたアイデアを、友人に話すことを決めた。
「ちょっと小説のネタが思いついたんだが、聞いてくれるかい?」
「ああ、趣味で書くって云ってた奴? 聞かせてみろや」
「その世界では職業選択の自由ってものが有るんだ」
「職業選択の自由? どういうこと?」
「そのまんま。全ての人は職業を自由に選べるんだ。アイドルになりたい人、サラリーマンになりたい人、全ての人は、なりたい職業を考えて就職するんだ」
彼の衝撃的な発言に、友人は逆に笑った。
非現実的で説得力の無い設定だと、そう思ったからだ。
バカげている、そんな世界はありえない、そういった笑い。
「おいおい、職業の自由って、それはいつ、どうやって決めるんだい? 幼稚園に入る前からかい?」
「いや、高校生くらいかな。そのくらいで自分の進む道……進路を決められるんだ」
彼の言葉は、友人の笑いに油を注いだ。
燃え上がるように大きくなる笑いの波を消すように、友人は言葉を選ぶ、
「おいおい。そんな世界っておかしいよ。じゃあ高校生になるまで、歴史学者になるわけでもないヤツが日本史や世界史を勉強し、科学者になるわけでもないヤツが元素表を覚えたり、数学者になるわけでもないのに二次不等式を覚えるのか? 無駄極まりないな」
「そうかな?」
「不合理極まりないよ。職業を自分に選ばせる? それだけのためにプロフェッショナルじゃないゴミみたいな生徒を大量生産しなくちゃならないんだい?」
「そんなに……おかしいだろうか」
「おかしいよ。なるべき仕事を割り振られれば、仕事を探したり決めるっていう非合理的な作業をしなくて良いじゃないか。
そうするのが当たり前だし、このシステムが有るから皆が平等な収入を得られるんじゃないか。
もし、なりたいけど向いていない仕事を目指したら、その人間は不幸なだけだろ?」
「そう、だろうか」
「そうさ。それに、自分で証明してるじゃないか。
お前は小説家が好きだが、そんなアイデアしか出ないんじゃ、なれっこない。
お前は、その妙に常識外れの知識で医者になるのが最適なんだよ」
「……君は、その整然とした考え方で、学校の先生だっけ?」
「ああ! 適材適所さ! 論理的で説明上手! 最高の仕事だろ?」
常識を説いて夢と野望を積むような喋り方は、なるほど確かに、友人は教師という仕事に向いているかもしれないと彼は思った。
だが、それでも、彼は小説を書きたかった。
職業選択の自由というヤツは、確かにバカバカしいものかもしれないが、少なくとも、少年には必要なものだった。
小説家に、なりたい。
素晴らしいばかりでない世界だとしても、それでも、自分の道を自分で選べる世界を、描きたかった。