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第5話

 そして、私は傷が完全に癒えるまで件の医師に押し止められ、奉天会戦にも参加できなかった。

 奉天会戦でもサムライ、日本海兵隊は活躍して、我々にしてみれば、あの大敗の最大の原因を作った。

 もし、奉天からの撤退を図る我々の前に立ち塞がっていた日本海兵隊が、我々の懸命の脱出作戦により崩れ立ち、奉天会戦に際して脱出口を開くことに我々が成功していれば、我々の大半が逃げられ、あそこまでの敗北を喫することはなかっただろうに。


 それに更に考えてみれば、営口でミシチェンコ騎兵団が大敗した時に、奉天会戦での我々の大敗は半ば運命づけられていたのかもしれない。

 営口で大量の騎兵を失ったことが、奉天会戦での日本海兵隊を先鋒とする日本軍の迂回戦術把握を我々に失敗させ、大敗に至るクロパトキン将軍等のロシア軍司令官の誤判断を招いたのだから。


 その一方で、このような大敗に我々が至ったのも最もだ、という想いが件の軍法会議の裏事情等まで知るにつれて私の身に沸き上がったのも事実だった。

 都合の悪い情報等は隠し、上層部の顔色をうかがって、上層部が喜びそうな情報を流す者が出世する。

 そして、敗北等の問題が起きた場合には、上層部はできる限り、下の現場の人間に責任を押し付け、自らは責任逃れに奔る。

 本来なら、状況の改善に役立つ筈の軍法会議でさえ、既述のような始末だ。

 軍法会議を開く意味が無い。


 営口で奉天で我々が負け、最終的に戦争が敗北という結末に至ったのは半ば必然だった。

 そして、このような状況は基本的にその後も変わらなかった。

 確かに一部ではあの(日露)戦争の教訓は我々の間で生かされた。

 しかし、全面改革が必要という流れにはならなかったのだ。

 その結末が、先の(第一次)世界大戦におけるロシア革命だ。

 そのお蔭で、皮肉なことに私の祖国フィンランドは悲願の独立を果たすことが出来た。

 また、我々にくびきを掛けていたロシア帝国は完全に崩壊した。

 もっとも。


 ロシア帝国の圧政に苦しんでいた全ての民族が独立を果たせたわけではない。

 その多くが新たな民主主義国家の皮を被ったソ連という国家の圧政にまた苦しむ羽目になった。

 先の(第一次)世界大戦とロシア革命という嵐が吹き止んだ後、独立を果たせたのは、我がフィンランド以外では、ポーランドといわゆるバルト三国だけだ。

 戦友が夢見ていたキエフ・ルーシ(キエフ大公国)の復活ともいえるウクライナの独立は、一時は成功の一歩手前のように私には見えていたが、最終的にはソ連赤軍の前に圧殺された。

 そして、ウクライナの人々はソ連の圧政に苦しみ、スターリンが主導した飢餓輸出により1000万人以上とも推測される餓死者を出す羽目になったと私は聞いている。


 更に今の(第二次)世界大戦は、バルト三国とポーランドから独立を奪ってしまった。

 我がフィンランドにしても、カレリア地方の大部分を失うという結果をもたらした。

 だが、我がフィンランドは、辛うじて独立を維持することはできた。

 ソ連軍は満州侵攻により、日米を主力とする連合国軍の反撃によって多大な損害を被っており、フィンランド全体の再征服は困難な状況にあったことが、カレリア地方を割譲する代償としての我がフィンランドの独立維持をもたらしたのだ。


 しかし、だからと言って。

「このままで済ませる訳には行かない。それにソ連軍の脅威が我がフィンランドから去った訳ではない」

 私は思わず呟いた。


 何れは独は崩壊するだろう。

 その後、連合国はソ連への侵攻作戦を発動する筈だ。

 その際には我がフィンランドもカレリア地方奪還のために参戦する旨、秘密外交の末に確約している。

 ソ連には(冬戦争の)報いを受けてもらう必要がある。

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