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第2話

 マンネルヘイム元帥は、眠れないままに回想に耽り、小声で独り言を呟いた。

「もし、自分が営口で戦死して、あいつが生きていたら、歴史はどうなっていただろうか」


 1905年1月15日に営口で戦死したかつての親友は、ウクライナコサックの末裔であることを誇りとしている人間だった。

 そして、いつかキエフ・ルーシ(キエフ大公国)の復活を夢見る愛国者でもあった。

 マンネルヘイム元帥も、親友と似たようにフィンランドの独立を夢見る愛国者であったことから、二人は意気投合したのだった。


 勿論、二人は共に表向きはロシア帝国の軍人である。

 だから、共にロシア帝国に忠誠を誓わねばならない身の上だった。

 しかし、だからといって愛国者として、自分の愛する真の祖国の復活(独立)を夢見ることは共に止められなかったのだ。


 オフラーナ(ロシア帝国内務省警察部警備局)の目を気にして、二人共に祖国の復活(独立)を決して口に出しはしなかった。

 だが、お互いの目を見れば、お互いの真の想いが分かる間柄だったのだ。

 しかし、彼は営口で戦死してしまった。

 1905年1月15日に。


「本来なら自分が死ぬ筈だったのにな」

 マンネルヘイム元帥の頬に新たな涙が伝った。


 あの時、1905年1月初めのある日、自分は第52ネージン竜騎兵連隊の指揮官となっていてミシチェンコ騎兵団の一員として出撃準備に追われていた。

 そして、半ば気分転換も兼ねて、自分の愛馬に乗ることにしたのだった。

 幾ら乗り慣れている愛馬とはいえ、出撃前に暫く乗らないままで自分は出撃したくなかったのだ。

 しかし。


「おいおい、どうしたんだ」

 乗馬している自分の指図に乗り慣れた愛馬は全く従わなかった。

 半ば腹立ちまぎれに鞭を振るったところ、愛馬は棒立ちになり、その勢いで落馬した自分は右半身を強かに打ってしまった。

「大丈夫ですか」

 従兵が自分に声を掛けてくる。

 折あしく地面が完全に凍結していて、落馬の衝撃で自分は右腕と右足を複雑(開放)骨折してしまった。


 従兵の助けを借り、自分は軍医の下を訪ねたのだが。

 軍医の答えは芳しくなかった。

「こりゃ、いかん。自分の手に余る。ハルピンにいる名医を紹介しよう」

「ハルピンですか」

 何でハルピンに名医が。

 自分は疑問を覚えたが、軍医の言葉に自分は従うことにした。


 ハルピンに赴く前に、親友が自分の下を訪ねて来た。

「悪いな。第52竜騎兵連隊の指揮官にお前の代わりに任命されたよ」

 親友が、自分と顔を合わせた際の第一声だった。

「何だと」

 少し腹が立ったが、親友の騎兵指揮官としての才能を考えれば、最もな話だと自分も想えた。


「頼む。ミシチェンコ騎兵団の一員として、自分の代わりに日本軍相手に大戦果を挙げてくれ」

 思わず自分は親友に頭を下げながら言ってしまった。

「安心しろ。聞いたか。営口にいる日本軍は陸軍でさえない。海兵隊だとよ」

 親友の口調は敵をあざけるものだった。

 自分もその言葉を聞いて笑みを浮かべた。

 我がロシア陸軍の騎兵が、海兵隊ごときに負ける訳が無い。


 あいつらのことは、それなりに自分達も調べた。

 30年近く前の日本の内戦、西南戦争時に雨が降ったら使用不能になる銃(大方、火縄銃だろう)と刀を主武器としてあいつらは戦ったという。

 最近あった義和団事件においてもあいつらは少し砲撃を加えたら、刀での白兵突撃を行ったという。

 あいつらは海兵隊のせいか、白兵戦バカもいいところ、火力の重要性が分かっていない。

 旅順要塞攻防戦においても、火力不足からあいつらは最終的には白兵突撃に頼る羽目になったとか。


 我がロシア騎兵の突撃を歩兵の白兵戦で阻止できるか、あいつらは身をもって知るがいい。

 あの時は皆がそう思っていた。

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