分岐路 〜若手自衛官の悩み〜
オレは3年前に自衛官になったんだ。
前の仕事は、介護士だったんだ。
女性社会の職場でさ、男もオレ一人だったし……。
分かるかな?
容赦ないんだ。女性達って。
セクハラ問題ってあるだろ?
女性の方がエグかったりするんだ。
オレが食らったのは「玉なし」とか「結婚できない理由がわかる」……とか、言葉のセクハラだったな。
未婚の40代の人に言われるもんだから、腹が立って「あなたもどーりで今まで結婚出来なかったんですね」って言ったら、泣いちゃってさ。
"セクハラだ"って。
"男には何言ったって良いでしょ?男のくせに"って
男の立場の弱さを痛感したな。
男だって言われりゃ傷つくんだ。
そんな所にいたら3年で限界が来ちゃって、介護士を辞めたんだ。
辞めたくなかったけど……。
そこで、次は何しようか考えた結果、「仕事で一番嫌な事をしてみよう」と思ったんだ。
修行で1年9ヶ月。
やってみようかなって。
だから、今は自衛官。
介護士に戻るつもりでやってたんだけど、今、どうしたらいいか分からないんだ。
ここで会ったのも何かの縁。
聞いてくれよ。オレの話。
自衛隊の訓練はキツイっていうのは世間一般の考えだと思うんだけど、実はキツイのは最初だけなんだ。
最初の6ヶ月。
教育期間だな。
前期教育と後期教育。
それさえ乗り越えれば、あとは楽だったりするんだ。
逆に楽しかったよ。
辛い事もたくさんあったけど。
辛い事?
ああ、オレは不器用で他の人がすぐ覚えれる事がすぐ覚えられないんだ。
だから、色んな人ににらまれて、何しても怒られまくったよ。
これは介護士の頃から何も変わらなかったな。
でもオレは真面目にやってたんだ。
バカはバカなりに、時間が解決するまでダメでもやる。
その精神だったよ。
そしたら、一人の3曹 (いわゆる軍曹)の人に目にかけて貰えたんだ。
"真面目にやってくれる所がいい"んだって。
よく分からなかったけど、とても嬉しかったんだ。
だからその人と仕事するときは楽しくて楽しくて……。
男の職場っていいなって思った。
女の人達は徒党を組んでひたすら攻撃。
とても辛かった。
誰にも認められないってのはこんなにも辛いんだ。
でも今は、一人でも認めて貰えて……充実感っていうのかな?
そういう物が心の中にあるんだ。
……正直な話、給料も中々いいんだ。
ただ……心の中のオレは言うんだ。
介護士に戻りたいって。
だって気がつけばもう、3年もいるんだぜ?
流されていく内に時間が過ぎて行ったんだ。
なんで戻りたいのかって?
人に貢献する仕事が好きだったからさ。
今の仕事は……、"人を殺す練習"が仕事だから……。
好きになれないんだ。
さすがは嫌な仕事ナンバーワン。
人に恵まれても、嫌な事はどうにもならないよ。
だから、任期で辞めますって言ったら、その3曹の人、とても悲しい顔をして、辞めないでくれ、行かないでくれ、残ってくれって言うんだ。
何度かそう言われるタイミングがあって、その度にオレは複雑な気持ちになるんだ。
分かるかな?
世話になった人を裏切る気持ちが。
良くしてくれた人から別れなきゃならないこの気持ちが。
でも辞めたい……、こんな気持ちが。
オレはその3曹の人に会って人生が変わったんだ。
……実を言うと自殺志願者だったんだ。オレ。
何も出来ない自分が嫌で嫌でね……。
普通の人が羨ましかったんだ。
その人に会って、大分自分に自信が持てるようになったんだ。
そういう、やる気をくれる人に……あと何人……人生で会えるかな?
そう思うと辞めない方がいいのかなって思ったりもするんだ。
いつみさんはどう思う?
人間、嫌な思いして夢を追うべきかな?
それとも、いい思いをして、嫌な仕事をやるべきかな?
ここ最近、ずっと悩んでいるのさ。
いい選択、教えてくれよ。
彼は今、人生の分岐路に立っている。
一度挫折した道だが夢を追うか。
楽しいが嫌な仕事をするか。
その分かれ道に立っている。
どちらせにせよ、後悔のない人生を送ってほしい。
人生は一度きりなのだから。
……作者は寝ようか小説書こうか悩む時がある。
明日の仕事の為に寝ろよバカ。