残された手記1
これが世に出回るかわからない。もし出回ったとしても、それが私の望んだ形になったのかはわからない。未来を予測することはできない。それでも、ここで起きたこと、ここで消えた人々の無念を決して終わらせないために、私はこのノートとペンを持って記録を残す。
私の名前は水月七海。この現象が起きるまでは、この街に住む女子高生に過ぎなかった。将来は看護師になろうと思っていた。それも、今は叶うかわからない。
最初に侵略が始まったあの日、こっくりさんを実行した中学生たちが消えたあの日、私は親と喧嘩をした。理由は将来のことに関する意見の相違だった。私の思い描く私の人生と、親が思い描く私の人生にすれ違いが生じ、私はあの家にいるのが嫌になって、家から出て行った。もちろん、行方不明扱になるのは嫌だったから、友人宅にいるという手紙は残した。
親友の野中有紗は、私が彼女の家に泊まることを歓迎してくれた。彼女の両親は共働きで、家を空けることが多い。一人っきりで家の中を過ごすことに、彼女は飽きていた。誰かと一緒にテレビを見て、食事をし、お風呂に入って、一緒に寝ることを求めていた。
有紗と私の共同生活は、この上なく平穏だった。本当の家族と一緒にいるよりも、居心地がよかったかもしれない。一緒にお風呂に入れば、お互いの身体の良さを誉め会い、一緒に料理を作っては向かい合って食事をし、テレビを見て笑いあって、一緒のベッドで寝た。恋愛感情はない。ただの友情しかもっていない。少なくとも、私はそうだ。
野中有紗。この現象が発生し、崩れ去っていく世界の中、最も長く一緒にいた人。今これを書いている瞬間も、あの子の手の温もりが恋しい。
なぜ、この現象が起きたのか。
誰もがきっかけをこっくりさんのせいにしているが、私は違うと確信している。この侵略の始まりが偶然、こっくりさんと重なったため、誰もがあの儀式をきっかけと勘違いしているだろう。
だが、この侵略はいずれは起こった必然だった。私たちは運悪く、最初の占領地に住んでいた市民に過ぎなかった。