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証言5

武藤大地

陸上自衛隊東部方面隊:第1師団隷下第1特科隊第3中隊所属

階級:2等陸曹

その日は夏季の士気高揚期間として休暇に入った日でした。私は当時当直勤務についていたため、駐屯地の勤務隊舎で寝泊まりすることになっています。

 私は事務室で受け持ち係の仕事をしていました。そうしている間にも、私服に着替えた営内者は、事務室へと上がり、休暇証の交付を求めてきます。これがないと外出はできません。それで私は若い隊員に対しては、ハンカチとティッシュを持ったかとか、どこへ行くのか、どこへ宿泊するのか、交通手段がダメだった時の腹案は保持しているのか、とか自衛隊恒例のいじりをして、外出させました。

 森澤武蔵が交付を求めたのは、午前9時記憶しています。彼は入隊して一年しかたっていない若手隊員で、物分かりは悪く運動もできないのですが、元気だけはいっぱいある奴でした。アニメが大好きで、広く浅くアニメを愛していると自負し、外出してはショッピングセンターのトイレでオナニーする常識のない野郎でした。二任期を満了した退職金を軍資金に、将来はイラストレーターになると語ります。これが高卒の隊員だったら可愛い夢でしたが、25歳が語るとどこか悲しく感じました。

 まぁ、とにかく、森澤はその日半日かけて実家に帰る予定でした。それで自分は実家まで気を付けて、公衆トイレでオナニーは禁止、脱柵はするなと冗談で言い、休暇証を交付しました。休暇中、山梨県外に出る隊員については、当直に連絡を入れることになっていました。森澤の実家は神奈川にあるので、実家に着いたら当直に連絡を入れるよう伝えたのが、あいつとの最後の会話でした。

 係の仕事を終え、入浴を済ませ、点呼を終え、当直室でひと段落だなぁ、と思っていた頃に、ふと森澤から連絡がきていないことに気づきました。

 時刻は23時を過ぎていました。とっくに実家についてもおかしくない時間です。あいつ、連絡しろって言ったのに、忘れやがったな。そう思いながら、叱るつもりで森澤に電話を掛けました。しかし、あいつは電話に出ません。寝ているかもしれない可能性を考えながらも、幾度となく電話を掛けましたが、一向につながる気配はありませんでした。時間が時間なので、これ以上電話をかけるのも気が引けたので、その夜は当直士長に睡眠の許可を与え、私は巡察の為に起きていました。

 次の日の8時から、森澤との連絡を試みましたが、やはりつながりません。その時から、私は嫌な予感を感じました。そこで、森澤の休暇行動計画に記載されている実家の連絡先に電話をしました。しかし、実家のほうもつながりませんでした。

 森澤との連絡を試み続け、あっという間に午前が過ぎました。これはもうおかしい。私はそう思い、悩んだ挙句に中隊長に報告することにしました。中隊長はすぐに電話に出、概要を聞くと、今日一日森澤との連絡を試みるよう指示し、それでだめなら、中隊長自身が森澤の実家に向かい、確認すると言いました。私は中隊長の指示通り、森澤との連絡を試みましたが、つながりませんでした。

 後日、私は中隊長の連絡を待ち続けました。夕方、中隊長から連絡が来ました。

 それはただ一言。森澤を所在不明隊員として報告することでした。

 森澤の事案を報告し、私は当直を下番しました。そして、自宅に帰りましたが、気持ちは不安でいっぱいでした。自衛隊はそれなりに長く勤めていますので、自隊から所在不明の隊員や死亡隊員が出る事は何度も経験しましたが、森澤の事は今までのそれとは異なる、何か不気味な感じがしました。

 自宅で過ごしている最中、中隊から所在不明隊員についての連絡が来ました。私は森澤の事だろうと思いましたが、森澤は一人にすぎませんでした。

 森澤以外にも所在不明隊員はいました。全員で7名。所属部隊はそれぞれで、北海道の奴、九州の奴、関西の奴、バラバラです。しかし、共通点はありました。

 いずれも神奈川県出身者です。

森澤武蔵

1985年4月4日生まれ

陸上自衛隊東部方面隊:第1師団隷下第1特科隊第3中隊所属

階級:1等陸士


失踪日時:8月13日~15日

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