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証言3

吉田裕也

1992年4月13日生まれ

県立平塚工科高等学校出身


 その時の俺は大学進学を目指して、定職に就かずアルバイトで金を稼いでました。大学進学って言いましたが、それは高校卒業と同時にもはやただの口癖というか、実際に大学の試験に合格しようって努力はしなかったです。いわゆる悪い友達と昼間っから遊び続ける毎日を送ってたんです。


——何故、大学進学を諦めたのですか?


 俺の理想では、高校現役の時に試験に受かるって感じで、それなりに努力はしてたんだけど、努力が足りなかったんだよね。だから周りが推薦制とかで進学や就職が決まっていく中、俺は取り残されている感じがして。だんだんそれが嫌になって……。

 なんというか、どうして俺だけこんな思いをしなきゃいけないんだって思ったんだ。今でこそ努力が足りないってのは感じるけど、そん時はたくさん努力していたって思ってたんだ。だから、努力してもそれが報われるとは限らないって思って。だったら、若いうちに人生楽しんじゃおう、勉強や仕事で時間を失うのはばかばかしいって感じたんだ。


——卒業後よく一緒に遊んでたという友人方との出会いは?


 アルバイト先。俺とように落ちつぶれて人生楽しんじゃおうってそいつらも思ってたから波長が合ったんだろうね。

 そいつらとはよく、昼間にパチンコ、夜にドライブって過ごし方をしたんだ。パチンコで使う金はアルバイトで稼いだ金が主だったんだけど、どうしても足りなくなることが多くてね。だから親からお小遣いはもらったし、へそくりもした。


——ご両親はその事情をご存知でしょうか?


 薄々は気づいてたんじゃないかな。でも、そん時の俺は反抗期で気性も荒かったから、変に詮索する気が親にはなかったんじゃないかと思う。


——夜はドライブとおっしゃいましたが、あなたは今現在、免許を習得しておりません。


 もちろん、俺が運転することはなかった。いや、人気のない場所でこっそり運転させてもらったことはあったけど、ほとんどの場合、友達が乗っている車やバイクに乗せてもらうことが多かったね。バイクの後ろ乗りはスリルがあって面白かったな。

 それである日ね、深夜辻堂海岸まで行って花火しようってなったんだ。そん時は結構女の子もいたから皆、いいねいこってノリになって、夜、車一台とバイク三台で海岸まで行ったんだ。人数は男子六人、女子二人。女子は車の後ろに二人乗ったんだ。俺は車の助手席に乗せてもらった。

 海岸までは難なくついた。それで、買ってきた市販の花火で遊んだんだ。結構過激な遊びだったね。ロケット花火で撃ち合ったり、ねずみ花火をたくさん、同時に使ったり。

 遊びの合間に各人休憩をとるんだけど、それで俺は車のドライバーだった今本と一緒に海を見ながら座って、少し話をした。


——どういう会話をなさいましたか。


 友情に関する会話。

 俺は今本に今日は楽しかったねって切り出したんだ。それで今本は、俺との出会いについて語り始めた。

「お前も今でこそ生き生きしているけど、バイトに入ってきたばかりのお前って言ったら、死んだ魚の目をしてまじかぁ~って思ってたぜ」

「まぁ、あん時はいろいろ挫折した頃だったし」

「わからなくはないけどな。受験に失敗して、就職もせず、周りだけ進路を歩みだすと妙に焦るもんな。不思議に、あのバイト先は結構そういう奴が集まってくるんだ。みんな死んだ魚みたいな目をしてな。」

「そういえば今本、お前はどうなんだ? お前は挫折しなかったのか?」

「ぶっちゃけると、俺の人生設計はもう決まってるんだよね。周りの同級生が学生のうちはアルバイトで生活して、皆卒業してそれぞれの進路に進んだ頃には、自衛隊に入ろうって設計さ」

「自衛隊、お前が?」

「なんだよ、悪いか?」

「いや、意外だなって」

「お前、俺が悪だって思ってるんだろう? 意外かもしれないが、俺は人助けが好きなんだ。だから将来は警察、消防、自衛隊のどれかにしようって思ってね。警察と消防は高校のうちに諦めたけどな」

「人生設計か。俺はしていないな」

「しといたほうがいいぜ。行き当たりばったりばかりの人生じゃなくて、ちゃんと最後にはどうするか、決めといたほうがいい」

「お前が言うか」

 こんな感じの話をしたんだ。

 花火も終わって、さぁ帰ろうってなった。

 異変が起きたのはこの時だった。

 車もバイクも、エンジンがかからなくなったんだ。車買ったは中古で買ったやつらしいだからエンジンの不調くらいあるだろうって俺は思ったけど、おかしいのは新品で買ったバイクですらエンジンがかからないってことなんだ。

 後ろに座る女子が「どうして動かないの~?」「早く出してよ~」って文句を言いまくり。俺もイライラして今本を見るんだけど、今本は何かを見てた。

「どうしたんだ、今本?」

 俺はちょっと軽い基調で聞いたんだけど、今本は真顔で口を開いたんだ。

「お前ら、あれが見えるか?」

 そういって、海のほうを指さした。

 俺も女子二人も、指先を見る。

 絶句したね。

 暗い海の向こうから、何人もの人影がゆっくりとこっちに歩いてきてたんだ。後ろの女子は「ちょっと、何あれ」「気持ち悪」って呟いた。

 夏の夜だっていうのに、寒気を感じたんだ。

 影たちはゆっくりと近づいてくる。

 どんなに近づいても、その姿がはっきりすることはなかった。

 言いようのない不安を感じたんだ。それで俺は今本にエンジンをかけるように急かして、今本の努力した。バイクに乗る奴らも、近づいてくる影に気づいたんだ。勇者のつもりなのかバカなのか知らないけど、一人影の連中に近づく奴がいた。

 そいつは影の一人の目の前まで行くんだけど、突然、直立不動の姿勢で動きを止めたんだ。それで残り三人がそいつの様子を心配して近づくんだけど、影との距離をある程度詰めた後、突然、悲鳴を上げて、逃げ出した。自分のバイクを置いてね。最初に影に近づいた奴は相変わらず直立不動だったんだけど、影の一人に肩を掴まれたんだ。

 その時の光景は今も忘れられない。

 そいつと影は、海のほうに滑って行ったんだ。立った姿勢のまま、すうっと海のほうに下がって、暗闇の向こうに消えた。

 それが限界だった。

 後ろに座る女子も悲鳴を上げながら、車を出て逃げた。

 俺はシートベルトを外そうとするけど、焦ってうまく外せなかった。今本は先にシートベルトを外してて、すぐに俺の手助けをした。

 俺のシートベルトが外れたんで、俺は助手席のドアを開けて逃げようとしたんだけど、今本の動きが止まっていることに気づいた。それで、どうしたんだ、逃げようって叫ぼうとしたけど、気づいた。

 後ろの席から、白い両手が伸びて、今本の肩を掴んでいた。後ろの女子二人が逃げた姿を見たから、後ろに誰かいるはずなんてなかった。今本はゆっくりと俺のほうを見ると、呟いたんだ。

「俺たち、友達だよな?」

 俺は言葉を発しようとしたけど、うまく発音できず、頷くしかなかった。

「なら、俺の言うとおりにしろ。後ろの席を見ないで逃げるんだ」

 俺は迷った。今本を助けるべきだけど、本能がすぐに逃げろって叫んでた。海のほうからやってくる影も、もうかなり近い距離にいた。

 今本は俺の迷いに気づいたんだろうね。

「さっさと逃げろぉ!」

 ほとんど悲鳴に近い叫びだった。

 それと同時に、今本は後ろにいる何かに引っ張られた。

 後ろの席はなぜか暗くて見えなかった。尋常じゃないくらい、見えなかった。

 俺は逃げた。今本を置いて。

 逃げてる時の記憶はない。とにかく、人のいる場所を求めて走った。

 それでコンビニに行きつくと、俺はコンビニの店員に警察を呼ばせたんだ。そん時、俺携帯電話の電源切らせてたから。

 警察が現場に入った時、そこには乗り捨てられていた車とバイクしかなかった。

 もちろん、俺は事情聴取を受けたんだ。何が起きたのか聞いてきた。俺は見たままの事を話したけど、信じてもらえなかった。

 ただ、俺には意外な展開が待ってたんだ。今本はドライブレコーダーを搭載してたんだ。事件当時の映像はなぜか乱れていて見れなかったんだけど、あいつの自宅から過去の映像は見つかった。ばっちり映ってたんだ。無免許運転する俺の姿が。

 それで俺は少年院に送られた。何度も無免許運転するドライブレコーダーの映像と、今回の事件に関する偽証で罪が重くなった。


——偽証とはどういうことでしょうか?


 つまり、俺以外にあの事件を証言する人はいなかったんだ。警察は真剣に捜査をしたいのに、俺がまともな証言をしないって決めつけたんだ。


——あなた以外に証言をする人がいなかったとはどういうことでしょう?


 みんな行方不明になってるか、ちょっと頭がおかしくなってまともな証言ができなかったらしい。その頭のいかれた奴は女子だったんだけど、ただひたすら「来る」って呟いてたらしい。

 そいつもすぐにいなくなったけど。


*吉田裕也氏は現在も小田原少年院にて更生中。


今本和樹

1992年4月2日生まれ

県立平塚商業高等学校出身


失踪日時:2010年7月21日

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