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証言2

高橋直人

1995年7月19日生まれ

藤沢市立大庭中学校出身


発見日時:2010年9月24日

発見場所:自宅自室

 えっと、どこから話せばいいのか……


――事件の始まりについて、自分の話しやすいところからで構いません。


 わかりました。

 僕にとって事件の始まりだと思うのは、7月の夏休みに入る前、放課後の部活動でした。当時僕は演劇部の部長を務めていました。といっても、演技はダメダメで、後輩のほうがずっとましな演技をするので、大方僕は裏方として舞台の設定や小道具作り、照明や音楽の調節などを担当していました。役者として舞台に立つこともありましたが、さっきも言ったように演技はひどいものなので、当時副部長だった椎名香苗が演技指導を担当していました。椎名香苗については、説明すべきでしょうか?


――彼女についてはこちらで紹介しますので、気にせず続けてください。


 ありがとうございます。

 とにかく、大庭中学校の文化部は、吹奏楽部がとびっきり優秀で幾度となく大会にも出場していました。まぁ、僕の偏見もありますが、吹奏楽部は結構学校でも優秀な人が入部しているので、エリートの集まりって感じがして。それに比べ、他の文化部は結構レベルがひどいというか、うちの演劇部も最大の見せ場といえば夏の市民会館での公演と、冬に開かれる文化部発表会くらいで、部員もオタク系の子がいたり、偏屈な奴がいたりで、よくも悪くも個性豊かでした。僕もまぁ、パソコン関係に関してはすこぶる強いので、オタクのうちに入りますね。部活動する場も、吹奏楽部が音楽室、美術部が美術室を使っているのに対し、演劇部は図工室、つまり技術の授業で半田ごてとか木材加工するような部屋を使わせてもらっていたんです。

 部活の内容といえば、基本的に夏の公演の台本は決まっていて、役者も決まっていたので、あとは役者は演技の練習、裏方は小道具作りって感じでした。

 で、ある日の部活動の事。その日は確か7月10日だったかな。役者たちが演技の練習をしている間、裏方の女子たちが舞台で設置する張りぼての裏で何かをしていたんです。気になって見ると、それはこっくりさんでした。

 こっくりさんは、僕が小学生だった頃に流行っていましたが、さすがに中学生になってやる人はいなかったので、少し驚きというか、そんな感じになりました。で、女子たちにどうしてこっくりさんをしているのかって尋ねると、女子の一人桜井って子が答えたんです。滝の沢にいる小学校の頃友人だった子から、滝の沢でこっくりさんが流行っているって。で、結構珍しい現象が起きるって聞いたから、自分たちもやってみたって。

 僕は「へぇ、珍しい現象ってどんな現象?」て聞くと、桜井は答えました。

「何でも、机が揺れたり、十円から指が離れず、勝手に動くらしいです」

「それで、そうなったの?」

「自分たちはなりませんでしたが、クラスメイトのある女子グループは、実際にその現象にあったらしくて、携帯のビデオで撮影したらしいです。それで自分も見てみたんですけど、確かに机は揺れていたし、指が離れずパニくっている様子もありました」

 それで僕はフェイク映像じゃないかなって指摘すると、そうかもしれませんが、そうとは感じさせないほど映像が生々しく、実際に参加者で休んでいる子もいるって桜井は反論しました。

 僕は半信半疑で、小道具作りが終わって、こっくりさんやるくらい暇なら、役者の演技でも見てろ、部活動中だぞって注意して、女子たちは素直に見学し始めました。

 その時でした。部活で使っているのは部屋の半分だけで、もう半分は物置みたいに様々な材料や道具が置かれていて、そこの電気をつける事はないのですが、その空間を見たとき、僕は確かに突っ立っている影を見たんです。目の錯覚かと思って、何度か目をこすってみましたが、やはり影が立っていました。最初は部員かと思って、部活動している空間を見ましたが、その日参加している部員は全員いたので、用務員さんか何かかと思ってもう一度振り返りますが、その時には影は影も形もなくなっていました。

 ちょっと怖くはありましたが、当時僕は幽霊なんて信じていなかったので、気のせいだと思って特に気にも留めていませんでした。

 その日の部活が終わったので、クラスメイトで同じ演劇部員の男子岡村と一緒に帰りました。僕の住んでいるアパートの隣に建っているアパートに岡村は住んでいるので、いつも帰りは一緒です。

 岡村と一緒にコンビニによった時、ふと部活動中の影を思い出したので、実はこんなことがあってねってそのことを話したら、岡村は少し真顔になったんです。そして一言、やっぱりお前も見てたんだって呟いたんです。

 どういうことって僕は聞き返しました。

「お前、あいつらのこっくりさんを辞めさせた時、ずっと図工室の置き場を眺めてたろ? どうしたんだって思って、お前の視線の先を追ったら、俺も影を見た」

 それで僕は、影がどうなったか聞いたんです。

「お前が目を離したとき、影は後ろに下がったんだ。歩いて下がる感じじゃなくて、まるで、足にローラーシューズか何かをはいて、ロープか何かで後ろに引かれたみたいに、滑らかに、何の揺れもなく、すうっと後ろに下がって、消えたんだ」

 消えた。その言葉を聞いた時、薄ら寒気を感じながら冗談だろって僕が思わず言うと、岡村は首を横に振ったんです。

「見間違いかもしれないけど、確かにそう見えた」それで岡村は俺の顔を見ました。「なあ部長さん。俺、なんか嫌な予感がするんだ。だから、滝の沢で流行ってるこっくりさんを調べるつもりだ」

「でも、こっくりさんなんて、俺らが小学生だった頃にも流行ったけど、そん時は何もなかったぜ」

「今回もそうだといいけどな」

 岡村がこんなに真剣にものを語るのは、よほどなんだって思いました。岡村は結構変わってるやつで、ユーモアのあるやつだ。二言目には冗談か政治の話かイデオロギーの話をする岡村が、珍しく真剣に話す姿を見て、僕も何となく嫌な予感を感じ始めました。

 岡村が情報を得たのは二日後でした。

 学校の教室で岡村は得た情報を教えてくれたんです。

「こっくりさんに関係するかわからないけど、滝の沢で行方不明者が出てた」

「マジで。何人?」

「今日で四人。全員女子で、クラスメイトらしい。最初に二人消えて、ここ最近また二人消えたらしい。結構な騒ぎになってるぞ」

 こっくりさんとは関係ないって思いたかったけど、どうしても結びつけてしまいます。岡村も、ただの偶然だとしながらも、やっぱりどこか不安に感じてそうでした。

 その日の朝礼に、担任から告げられました。滝の沢中学校で四人が行方不明になっていること、誘拐の可能性があること。クラスメイトの反応は様々でした。もうすぐ夏休みだって時期なので、夏休みが短くなるんじゃないかって思う奴や、単純に不安に感じる奴、面白がる奴。様々です。僕と岡村は不安がるタイプでした。

 その日の部活動でも、顧問の先生からなるべく一人で行動しないように注意がありました。部長である僕からも、皆に気を付けるように言いましたが、意外な注意をしたのは岡村でした。部活中にこっくりさんはしないことって言ったんです。この時間帯はあくまで部活動の時間であるため、暇だからってこっくりさんとかするのは人として終わってるから、暇だからって絶対にやるな。やるような奴は社会に出てもろくなことはしないって。もっともらしい理由だけど、きっと岡村は、滝の沢の失踪とこっくりさんに何らかの関係性を感じてるから言ったんじゃないかと思いました。それ以外にも、いつもなら使わないから電気をつけない半分の空間の電気も、この日からつけるようになったんです。もちろん、顧問の先生に注意はされますが、岡村は、電気をつけてないと暗くて危ない、特に刃物とかあるからけがをされちゃ困るって譲らなかったんです。もちろん、僕はわかっていました。岡村は影を見たくなかったんだと。

 しばらく、演劇部は何事もありませんでした。小道具や舞台道具も完成し、役者も台本を完全に暗記しました。影を見ることもなかったし、こっくりさんをする奴もいませんでした。

 それで、ある日の土曜日の部活動の時。

 その日は体育館を借りることができたので、本番を想定して、体育館のステージで練習をしました。役者たちが、体育館のステージで劇をしている間、裏方は見えないところで待機し、何もない奴は観客として、役者の演技などを見学していました。

 僕は音響担当だったので、ステージの横で、設置されている音響にCDを入れて、場面ごとに流すべき音楽の調節をしていました。だから、僕はステージ上の役者しか見ることができず、観客席側を見ることはできませんでした。

 休憩に入り、皆で集まって反省会をしている最中、椎名は突然言い出したんです。

「ねぇ、体育館の正面入り口に立ってた人いる?」

 体育館の入り口は、ステージから見て正面と、左右に一つずつあるだけですが、その時はステージから見て左側の入り口だけを使い、それ以外は鍵がかかっていました。人の出入りは誰も見ていませんし、役目がある以外の部員はステージの前に観客としていたので、椎名のいう入り口に立っていた奴は誰も該当しませんでした。

 それで、後輩の一人がどんな風に見えたのか尋ねたんです。

「それが、はっきりと見えなかったの。影みたいな感じで」

 それを聞いて、僕と岡村はぞっとしました。

「確かに、人影を見たのか?」岡村はそう聞き返しました。

「うん、確かに誰か立ってた」

 部員の間では、え~怖いね、誰だったんだろうって感じの軽い受け止めをしていましたが、岡村だけは重く感じていたそうで、後輩から聞いた話では、次の練習が始まった時、あいつは照明で二階からスポットライトを当てる仕事をしていたので、照明が必要とする場面以外はずっと、入り口を見張っていたそうです。

 さすがに僕も、この時は怖く感じました。夏の午前中に姿がはっきり見えない影なんて、普通現れるもんなのか。いくらカーテンを閉め切った体育館とはいえ、姿がはっきり見えないほど、暗くはなかったはずです。

 午前中の練習が終わり、昼食の時間になった頃です。皆が弁当を食べている最中、桜井はトイレに行きました。それでしばらくして、突然悲鳴が上がったんです。

 部員全員と、一階にいた教員たちが悲鳴の聞こえたところに駆けつけました。

 そこは女子トイレでした。女子トイレから、先生に連れられて桜井が出てきました。

 その時は、すごく怯えていたんです。それで保健室に連れられ、落ち着くまで待ちました。顧問の先生は練習するように言いましたが、皆、桜井が心配なので、皆で保健室に入って、桜井のそばにいました。

 それで、桜井が回復すると、事情を聴く先生に話し始めました。

「お昼休み、トイレをしている最中、誰かがノックをしてきました。自分が入った時には誰もトイレにいなかったので、トイレが空いてないことなかったし、最初は丁寧に誰かって聞きなおしました。返事はありませんでした。でも、ノックが止めることはなかったんです。だんだん気味が悪く感じて、同時にイライラも募ってきて、それで自分は勢いよくドアを開けたんです。

 でも、外には誰もいませんでした。ドアを開ける直前まで、ノックしていたのに。

 その瞬間、自分は怖くなりました。早く体育館に戻ろうと、個室から出て入り口に向かおうとしました。それで見たんです。入り口のそばに、人が立っていました。昼間で、トイレの電気がついているのに、姿がはっきり見えず、影のように見えたんです。

 本能的というか、直感的というか、とにかくやばいって感じました。これはやばいって。影はゆっくりと近づいてきました。近づくにつれ、ぼやけていた姿が鮮明になっていくんです。おかしな話かもしれませんが、鮮明になればなるほど、自分の中の恐怖感も強くなっていきました。思えば、窓から外に出ればよかったのかもしれませんが、その時自分は個室に入って鍵をかけ、うずくまりました。怖くて仕方なかったんです。しばらくして、ドアがノックされました。最初は普通のノックでしたが、だんだんリズムが早くなり、ドアもあり得ないくらい揺れだしたんです。怖くて仕方がありませんでした。

 突然、ノックもドアの揺れも収まりました。。あきらめて帰ったことを願いました。でも、上を見上げると、あの人影は上から覗き込んでいました。姿もだいぶ鮮明になり、それが女性だということはわかりましたが、顔はまだぼんやりとしていました。ただ、何となく顔を見ちゃいけないって感じて、下を見て、目をつぶりました。そして、右腕を強く掴まれたとき、限界がきて、悲鳴を上げました。気配が消えた気がしましたが、怖くて先生たちが来るまで、しばらく顔を上げる事ができませんでした」

 信じられない話で、実際に半信半疑の先生もほとんどでしたが、ただ、桜井の右腕に強く握られた右手の痕が残っていたので、不審者がいたことだけは確かだということになり、その日のすべての部活動は停止し、警察に連絡し、教員による見回りも行われました。

 僕も岡村も、部員の何人かも、これが生きた人間の仕業だとは思いませんでした。僕と岡村、椎名の三人が姿がはっきりしない影を見て、桜井は実際に襲われました。なので、部員には一人で行動しないように伝えました。学校側も、月曜日にはたとえ学校の中にいる間も一人で行動せず、一週間は部活の停止と集団下校を行う決定を下しました。

 学校はすっかり、正体不明の不審者の話で持ち切りでした。桜井は一躍有名人になりましたが、当の本人はショックが大きかったので、学校を休んでいました。学校側も事情が事情なので、欠席ではなく出席停止の扱いにしてくれたそうです。

 僕の考えを相談できるのは、岡村くらいでした。椎名は幽霊なんて信じてなさそうだったうえに部活ができないことに腹を立てていました。

「なぁ、岡村。どう思う、今回の事?」

「部長がどう思うか知らんが、俺はもう生きた人間の仕業だとは思わないよ。本気でお祓いとか考えてるんだ」

「マジで」

「マジで。ただ、お祓いなんて無縁の世界で生きてきたわけだから、具体的にどうすればいいのかわからんが」

「ネットで調べれば一発じゃね?」

「ネットで注文できるデリバリーお祓いなんて信用できるか?」

「わからんよ。今の時代、お坊さんもネットを使ってるかもよ」

「俺は地道に、お寺を訪ねまわる手法で行くよ」

 些細な会話かもしれなかったけど、岡村のユーモアに少し癒されました。

 その日の夜、パソコンでチャットをしている最中、桜井から電話が来ました。珍しいなって思いながら電話に出ると、怯えたような声で桜井が言ってきました。

「部長さん助けて! 家の外に誰かいる! 誰かがノックしてる!」

 それで電波が悪くなって、電話が切れました。

 何度も電話をかけなおしましたが、電源を切っているか、電波の届かないところいるっていう自動音声しか流れませんでした。僕はすぐに岡村を呼んで、二人で桜井の家に向かいました。途中、岡村は外出中の桜井の兄に連絡を入れ、家に戻ってくるよう頼んでいました。

 桜井の住んでいる団地につくと、桜井の住んでいる部屋のチャイムを何度も鳴らしました。ノックもし、電話も掛けましたが、通じませんでした。桜井の両親は共働きなので、まだ帰宅していなかったので、僕らの頼み綱は桜井の兄だけでした。

 桜井の兄が慌てて戻ってきたので、鍵を開けさせ、部屋に入りました。

 部屋には誰もいませんでした。桜井の部屋に入っても、荒れた様子はありませんでした。ただ、ベッドの上に無造作に置かれた布団がありました。ついさっきまで、桜井は布団の中で怯えていたに違いない。そう思いながら、桜井の兄に両親へ連絡を入れさせ、岡村は警察に連絡しました。

 玄関を見ると、桜井が持っている靴は全部あったらしいので、靴を履いて外出したわけではなさそうでした。何度も桜井に電話をしましたが、やっぱり電波の届かないところにいるっていう自動音声しか流れません。

 桜井の両親が帰ってきました。かなり焦っている様子で、いつまでも落ち着かず、やってきた警察にも娘はどこなのッてヒステリックを起こしていました。警察は僕と岡村、桜井の兄に事情聴取し、電話の様子からただ事ではないことを悟っていました。

 その日、僕と岡村は自宅まで警察が送り届けました。

 翌日、学校が緊急で集会をし、桜井が失踪したことを伝えました。後で知ったんですが、警察は携帯の電波を使って追跡しようとしたらしいんですが、ダメだったらしいです。それどころか、携帯会社が、桜井の使っている電話番号の登録がなくなっていることも確認したらしいです。

 その日の夜、僕は岡村とチャットしました。

“なぁ、今回の事、どう思う? 何が起こったんだと思う?”

 岡村の返答はただ一言。

“神隠し”


桜井絵里

1994年9月1日生まれ

藤沢市立大庭中学校出身


失踪日時:2010年7月16日


椎名香苗

1995年10月3日生まれ

藤沢市立大庭中学校出身


失踪日時:2010年8月

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