退屈な日々が別れを告げる
便鱈本太良は冷め切っています。夫婦生活八年引く一ヶ月間ですが…。
「あなた、朝ご飯できましたよ」
冷えた朝、本太良氏は温かい味噌汁からすすぐ。しかし、彼の腹は冷え切ったままのようだ。
心もそうだが、最近、彼が気づくのは過度のアルコール摂取のせいかもしれないと思った。トイレに行くのも頻繁になった。
アルコール飲みながらビデオと会話していくのも、今となっては精神が壊れてきているのではと思うようですね。何度も思いますが、これだけ愛されているのなら妻の穂詩さんと一緒にビデオ鑑賞し語り合えばいいのではと思いますね。
しかし、一人モニターに釘付けになる夫と、夫を喜ばせようと執筆する妻。彼女には考えがあるのです。本太良氏が好きだったライトノベルに入賞すれば彼がまた振り向いてくれるのではないかと。それを私は見張っておりまして文才を与える悪魔と交渉して穂詩さんに持ち得ない文章力を身につけさせました。投稿した、出版社と小説内容は秘密ですが彼女なら問題なく入賞ですね。
ですが、それはありえないですね。
彼は穂詩さんからはいる収入しか見向きもしないでしょう。彼は夢がなくなったのですから。好きでもない仕事を何度も変えては繰り返し、いやいや賃金を収入しているだけの人生に夢も希望もないと彼は考えているようです。
彼を愛する女性がいるのです。彼はちっともくだらない人生を歩んでいないと気づくべきです。いつも、自分のことばっかりしか考えていません。多少の夢もあったようですが挫折に終わりました。
楽して儲けようなんてできません。私、シークレットワイズでさえデビルサマナーと名乗っていますが、やりたくない仕事、受けなければならない仕事、割の合わない仕事などいくらでもありますし、それを達成するのに苦労の連続です。彼の勉強量は私の悪魔使いにくらべれば雀に涙程度でしょう。
そんな、非魅力的な彼を妻、穂詩さんは愛しています。原因は悪魔の力を使ってですがね。
そもそも、本太良氏と穂詩さんを恋仲にしたのは私が高校生の時でした。我々は同級生という奴です。向こうは微塵にも私を覚えていないでしょうが…。
当時、私は悪魔学や神智学といった勉強で高校生らしいことを何一つできずに没頭していました。周りは遊ぶなど恋愛など将来ことなど好き勝手に青春を謳歌していたのでしょうが、私にはデビルサマナーという職業は運命づけられていましたし余裕というのは一切ありませんでした。
悪魔使いの専門というべき専門高校があるわけがありません。しかし、私は社会に溶け込み高卒程度はと頑張っていたものです。なんとか家業も継げました。
高校生活は会話する相手がいなかったわけではないですが友達はいませんでした。遊んでいる暇はないですからね。
ただ、皆のやり取りをみて楽しませてはいただきました。その癖が、今の本太良氏と穂詩さんの傍観に繋がったんでしょうかね。
だけど、クラスメイトとは悪魔に使役をしてチョッカイをしませんでした。初めてやったのが本太良氏と穂詩さん…便鱈本太良と出世魚穂詩です。
クラスに打ち解けこまず本に夢中でいる本太良氏。
クラスの中心で何事にも秀でて輝いている穂詩さん。
接点のないこの二人ですが…私はふと思ったんです。この二人をくっついてみたらどうなるかと? すぐに別れるに違いない、それではつまらない。私の中に住む悪魔が囁きました。そして、悪魔と契約し使役し二人を恋仲にしました。両親などの身内の問題なども悪魔の力をつかって解消しました。
始めは愛し合った二人ですが一ヶ月で終わりました。もともと、そういう風に呪いをかけたのだから。
ただ、穂詩さんには呪いをときませんでした。今思えばあんな幸せに満ちたリア充というべき人間がその反対の人間と掛け合わして泥でも塗ってあげようと思ったのかもしれません。私はひねくれています。
本太良氏には一ヶ月は愛し合った記憶は残してあります。ですので、呪いが解けたときは腑に落ちない様子でしたがそれでも妻の為にと頑張っていた様子です。しかしながら、次第に堕落していき、好きだった本を読む活力も失せて堕落していきます。
なぜ? 別れなかったのか?
答えは単純で妻帯しておきたかっただけです。それでも少しは愛情があったかもしれませんが穂詩さんにも稼ぎはありましたので手放したくないとは心の奥底では思っていたでしょう。
最低です。
そして、それを操る私はクソです。
しかしながら、この縁もそろそろ終わりにしましょう。私も腕利きのデビルサマナーで悪魔を使役しないと解決しない仕事が山ほどあるのです。
では、日程を決めましょう。穂詩さんが新人賞を取った日に呪いを解くことにしましょうか。
二人は共稼ぎと述べましたが、アパートからでる時間も同じ。
「あなた、行ってきます」
「………」
本太良氏は返事もせずにさっさと明後日の方向へと去る。おやおや、仕事をサボる気ですかね?
「本太良君…。私はもう…」
穂詩さんは一筋の涙を流して手を振って本太良氏を送っています。
おや? 呪いの影響とはいささか違う様子ですが。
さておき、穂詩さんもいつもの会社の道のりではなくどこか別の方向へと向かう。どうしたことでしょうか?
まあ。いいでしょう。また、二人が会うまでには時間がかかりますし。この後の二人の動向を見る気が今日はありませんので天の国でのんびりとしますか。
悪魔を使役し、天使とも戦ったこともある私ですが…。神というものとは会ったことや感じたことはありません。そう名乗る上級の霊には遭遇しましたが…。私が思うには神は始めから世界に飽きてしまい世界を傍観して楽しんでいるのだと思う。
そういう私は神気取りの愚か者ですね。
ふと、自嘲の笑みをする。
「なにが可笑しいのだ?」
「ベルフェゴールよ。退屈とは最低だな。だが時期に終わる」
「次の契約はもっとまともなことにしてくれ。俺も飽きた」
そして、悪魔ベルフェゴールは椅子に腰掛けて考えことをするかのように腕をつき頬をあてる。彼の癖なのだそうだ。私は天の国を物見遊山することにした。