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約束  作者: 猿丸
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第九章・雨上がりの夜空に

「第九章・雨上がりの夜空に」



ズブ濡れのキョウが到着した。


「おい、キョウ何やってたんだよ。おせーよ。」

「・・・・。」


ヨージが急かすように言ったが、反応がない。


「あら、あら、ズブ濡れじゃない。いい男が台無しよ。

 着替え持ってるんでしょ。早く楽屋で着替えなさい。

 髪、セットしてあげるから・・・・。」


お姉さんがキョウを楽屋へ連れて行く。


「お姉さん、キョウの事ヨロシク!俺たちリハーサルしてきまーす!」

「了解ー。しっかりねー。」


「キョウ無しでリハーサルすんのか?」

「ああ、あんなの、音量決めるだけだから、ノブにでも弾かせる。」

「何かへんだなー、今日のキョウ・・・・。」

「ああ・・・・。」


嫌な予感がしていた。

俺が部室を出てから、”サチ”と何か有ったに違いない。


リハーサルはノブにギターを弾かせた。

ノブはギターなんて弾いた事ないくせに、

大喜びで、でたらめに弾きまくったために、

随分戸惑った。



さぁ、開場だ。

俺たちは一発目なので、楽屋に戻った。

キョウは楽屋の隅っこでギターを拭いていた。


「おい、キョウ・・・・。何があったか言ってみろよ。

 演りたくないなら帰ってもいいぞ・・・・。」

「いや・・・・演る。」


ヨージには、「俺が聞くからお前は喋るな」といっておいた。

ヨージは何か言いたげに俺を見たり、キョウを見たり、落ち着かない様子だ。


「わかった。何も聞かないから、演奏は頑張ろうぜ。」


「実は・・・・フラれたんだ・・・・。」


「えっ?」

「えーーーー!!!!」

「なんでぇーー!嘘だろ、キョウ!」


サチがキョウを振る訳がなかった。

サチはキョウにベタ惚れだった。

いつも俺たちの練習を、廊下からコッソリ見ていた。

いや、俺たちじゃない、キョウを見ていたんだ。


キョウがサチを振るなら解るが、まさかあのサチが・・・・。


「何かの間違いだ、キョウ、詳しく話せ!」

「詳しくも何も・・・・好きな奴が出来たんだと。」

「あ゛〜〜〜〜〜!!!!!」


信じられなかった。本当に信じられなかった。


「絶対何かの間違えだ!俺、電話してくる。」

「やめてくれ!」

「だって・・・・。」

「もういいんだ。余計なマネすんな。・・・・ホントにもういいんだ・・・・。」


「一つだけ、頼みがある。」

「何だ?」

「今夜の最後の曲、”FEEL SO BAD”に代えてくれ。」

「いいけど・・・・。」

「エンディングのギターソロ、俺が合図するまで、好きなだけ弾かせてくれ。」

「・・・解った。好きなだけ弾きまくれ。ジョニーBグッドは無しだ。

 四曲でいく。思い切り弾きまくれ、キョウ!」


「スマン・・・・。」


「ヨージ、いいな。」

「あぁ、もちろんさ。」



俺たちのステージが始まった。

客席は八分くらいの入りで、ミナミの連中は十人ほどだった。


『やつら、突っ張ってるわりには、

 夜、出歩けない良い子ちゃんなのか・・・・。』



ノリユキや、ノブ達が頑張って盛り上げようとしてくれたが、

あまり盛り上がらず、最後の曲になった。


”FEEL SO BAD”はキョウが作曲した歌だ。

軽快なテンポで進み、エンディングのギターソロが荒れ狂う。


『さぁ、エンディングだ。キョウ!弾きまくれ!

 荒れ狂え!俺たちは最後まで付き合ってやる。』


キョウのギター・ソロは、鬼気迫るものがあった。

ベースを弾きながら、聴き入ってしまうほどだった。


そう、キョウのギターは泣いているようだった・・・・。



アンコールもなく、俺たちは楽屋へ戻った。


「ありがと。スッキリした。」

キョウが笑った。

「あれだけ弾けばスッキリするよな。」

「ああ。」

「社会人バンド見に行こうぜ。どんなもんかよ〜。」

「わりー、俺もうちょっとギター弾いてる。」

「そうか、客席にいるから。」


スッキリしたとは言っているが、そんなに簡単にスッキリするものか。

キョウを置いて客席に出た。


「俺のほうがスッキリしねーよ。何なんだ、サチは。」

「はんとだよ。女なんてそんなもんかもなぁ・・・・。」

「そうだな・・・・。信じらんねぇなぁ。」


客席の入り口に受付がある。

そこにお姉さんがいた。


「よかったよー。さすが伝説バンド。

 あれ、あのギターの子は?キョウ君って言ったっけ。」

「あっ、まだ楽屋にいます。」

「そう、ギター、凄かったね。でも、あの子、何かあったでしょ。」

「お姉さん、超能力あります?」

「やっぱ、あったんだ。よし、お姉さんが慰めてあげるか。

 受け付けお願〜い。」

そう言って、楽屋の方へ小走りに駆けていった。

「慰めてって・・・・。」

「・・・・どうやって・・・・。」

「いいなぁ・・・・キョウ。」


「私が慰めてあげようか?」

「えっ?」

クミコとノリユキだった。

「いや、俺が慰めてやるよ。」

「うえ〜、勘弁してくれよ〜、気持ち悪い。」


「ハイ、差し入れ。」

コーラを差し出した。

「ハイ、ヨージも。」

「ヨージって・・・・。」

「クミコ、サンキュー。」


「クミコって・・・・トシロー、いつからそんなに仲良くなったわけ?」

ヨージが小声で言った。

「いつからって、この間のライブからだよ。言わなかったっけ?」

「言わねーよ。」


「何コソコソはなしてんだ?」

「いや、なんでもない。それよりどうだった?」

「最後の曲、キョウ、なんかすごかったな。

 俺、鳥肌立っちゃったよ。」

「クミコは?」

「まぁまぁ、だな。」


「それよりノリユキ、随分仲間が少なかったよな。」


ヨージはミナミの番長にだけは物凄く強気だ。


「スマン、ヨージ。あいつら、普段はえらそーにしてるくせに、

 夜の外出はビビりやがったんだ。明日シメとくから勘弁してくれ!」

「おい、こんな事ぐらいで大げさな・・・・。

 いいよ、いいよ、文化祭にしっかり来てくれれば。」

「そうだよ。それよりよく来てくれたよ、10人も。」

「いや、そう言ってもらえると嬉しいよ。」


世間話をしていると、受付の交代が来てくれた。

もう最後のバンドだ。

最後のバンドは、お姉さんの友達のバンドで、

今回のライブの主催者でもある”ジュンさん”が率いるバンドだ。


俺たちは客席に入った。


「おっ!さすが社会人、結構上手いじゃん。」

「うん。でもなんかピンと来ないなぁ・・・・。」

「ノリユキ、どう?」

「う〜ん、俺、ホントは、音楽よくわかんねぇんだ。」

「・・・・。」

「クミコ、どうだ?」

「ダメだな。」

「随分ハッキリ言うなぁ・・・。どうして?」

「ここに来ないんだ。」

クミコは胸を叩きながらそう言った。


「ここか・・・・。」


「私は、音楽は”胸に来るか来ないか”だと思うんだ。」


妙に説得力がある一言だった。

クールな顔からは想像が出来ないほど、

内面は熱いのかもしれない。


「このバンドは上手いけどそれだけだ。

 この間のポップスバンドもそうだったけど、

 きっと、レコード買って、楽譜買って、

 そっくりになるように練習してんだろ。そんなのモノマネだ。

 それだったらレコード聴いたほうがいいもんな。」


俺の胸の中の”モヤモヤ”・・・・このバンドや、ポップスバンドが

どこか”ピン”とこない訳を、いとも簡単にクミコは答えた。


「俺たちはどうだった?胸にきたか?」

「あぁ、前回はトシローの唄、今回はキョウのギターが良かった。」

「えっ?俺のドラムは?」

「まだ、ダメだ。」

「くッそー、だめか・・・・。

 よ〜し、見てろよ、今度はクミコをうならせてやる!」

「誰が呼び捨てにして良いって言った?」

「えっ?だめなの?」

「ダメ。」

「そんな〜、俺だけ?」

「そうだよ、ヨージはまだドラムの練習が足りねーからな。」

「そうだぞ!ヨージ、練習あるのみだな。」

「チェッ、トシローまで・・・・。」


結局、客席でコソコソ話をしていて、

社会人バンドの演奏なんて聴いてやしなかった。


俺は笑談しながら、

クミコに、少しづつ惹かれていく自分に気がつき、戸惑いを感じていた・・・・。



全ての演奏が終わり、皆で後片付けをしていると、ジュンさんが俺を呼んだ。


「トシロー君、どうだった?俺たちのライブに参加してみて。」

「う〜ん、結構勉強になりました。リハーサル一つとっても違うし、

 機材が凄いし・・・・。」

「卒業したら、この町に就職して、一緒にバンドやらないか。」

「えっ?」

「まだ若いから、夢もあるとは思うけど、

 やっぱり働いて、金貰って、好きな楽器買って、車買って、

 時々、こうやってライヴして・・・・やっぱ、音楽は楽しくないとね。

 君なら、うちのバンドのボーカルに大歓迎だよ。」

「はぁ・・・・考えときます。」


内心、何処となく嫌な気分だった。

でも、ジュンさんに悪気がないのは解っていたので、適当に答えた。


『ジュンさんは、音楽を完全に趣味だと割り切って活動している。

 俺はどうなんだろう。

 飯を食うためとか、金を稼ぐためなんて、考えちゃいないし、

 でも、ジュンさんみたいに趣味だと胸を張るのは、違う気がする。

 俺は、なぜ、何のために唄を歌ってるのだろうか・・・・。』




後片付けが終わり、公民館の入り口で解散した。

ジュンさん達は打ち上げに行くらしい。

俺たちも誘われたが、遠慮しておいた。

正直、この人たちとはウマが合いそうにない。

どこか退屈なのだ。


「急いで帰らないと、終電に間に合わねーぞ。」

「あれ?キョウは?」

「あれ?」


「プップー」と後ろから来た車がクラクションを鳴らした。

振り返ると、お姉さんの車だった。

お姉さんの車は、俺たちの横に止まった。


「みんな、おつかれー!

 キョウ君は、私が送ってくから、心配しないでね。」

「えっ・・・・俺たちは・・・・。」

「そんなに大勢乗れないでしょ。」

「トシロー、悪ぃーな!お先!!」

キョウが助手席の窓を開けて笑った。

「お、おい、キョウ!」

「んじゃぁ。」


お姉さんの車は、キョウを乗せて走り去っていった。


「・・・・。」


「トシロー、もしかして、もう立ち直ったのかなぁ、キョウの奴・・・・。」

「あいつ・・・・いつか絶対刺されるぜ・・・・。」


気が付くと、雨はすっかり上がっていた・・・・。





 

 


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