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約束  作者: 猿丸
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第七章・君が僕を知ってる

「第七章・君が僕を知ってる」




「さあて、後片付けの前に、ちょっと一服してくるか。」

「俺、タオル置いてきた。取ってくるから、先に行っててくれ。」


皆に遅れて体育館を出たところで呼び止められた。


「トシロー。」

振り返ると、クミコが立っていた。


『いきなり呼び捨てかー。』と思ったが、悪い気はしない。


「ほら、差し入れ。」

クミコがわざわざ買ってきてくれたのか、コーラを差し出した。

体育館の側面は人通りが少ない。そっちへ歩いていき、腰をおろした。

何となく、人目が気になったのだ。

クミコも俺の隣にしゃがんだ。

コーラの蓋を開け、グビグビと飲んだ。

ほとんど一気に飲み干してしまった。

炭酸はやっぱり喉で飲まないとね。



「なんだ、来てたんだ?」

「せっかく来てやったのに”なんだ”はねぇだろ。コーラ返せ。」

「スマン、そういうつもりじゃ・・・。んで、どうだった?ライブ?」

「うん。結構やるな。認めてやるよ。」

「ファンになっちゃった?」

「バーカ!いい気になんなよ。」

「ホントは好きになっちゃったとか。」

「テメェー、本気で怒るぞ。コーラ返せ!!」

「解った、解った。ところで、こっちには慣れれたか?」

「まあな、遊ぶとこ、何にもないけどな。あいつら良いヤツらだし・・・・。」

「そうか、そりゃ良かった。」


「トシロー、”クミコ”って呼んでいいぞ。」

「えっ?」

「私、超能力あるんだ。呼んでいいぞ。」

「・・・・解った。」


”フフッ”っと二人で笑った。

クミコとは不思議とスムーズに話せる。

ヒロミとだったら一々考えちゃうのに・・・・。。

ドキドキしないからだろうか。

”相性がいい”とはこういう事なのだろうか。


「タバコ吸いに行くとこだったんだろ?」

「ん?ああ、でもいいよ、コーラ貰ったから。

 クミコ、吸わないのか?何なら一緒に行く?」

「私は吸わない。・・・・タバコやめた方がいいぞ。」

「意外な発言だねぇ。体に悪いとか言うのか?」

「ううん。キスする時臭いから。」

「え?」


”ドキッ!”とした。

思わずクミコのピンクの唇を凝視してしまった・・・・。


「何考えてんだ!このスケベ!そう意味で言ったんじゃない!」

「ヘヘッ、そういう意味かと思ったぜ・・・・。

 でも、今の発言、クミコ、キスしたことあるんだ。」

「あるよ。」

「えっ?あるの?」

「アッタリめーだろ、いくつだと思ってんだ。

 えっ?トシロー、キスしたことないの??」


『そうなのか・・・・東京の高校生はみんなキスしてんのか・・・・。』


「へ〜、カッコつけてる割りに純情なんだ〜。」


何か、

物凄くバカにされてるような、

物凄く自分が遅れているような、

物凄く自分が情けないような気になった。


「俺は硬派なんだ!」

「へ〜、でも、してみたいだろ?毎晩、Hな本とか見てるくせに。」


『本当に超能力あるのかな・・・・。』


「そりゃぁ、男だもん、興味あるさ。なんならクミコ、相手してくれるか?」

「バーカ、するわけねぇーだろ!」

 

クミコの視線が、突然、俺の後ろに向けられた。

「トシロー、結構モテるんだなぁ・・・・。んじゃ、私、帰るわ。」

「えっ?」

振り返ると、ヒロミがこっちを見ていた。


「お・おう!クミコ、またな。サンキュー!」


クミコは立ち上がり、

「カッコ良かったぞ!」と小さな声で言った。

俺はクミコを見上げたが、こちらを見ようともせず、

ヒロミが立つ、体育館の入り口の方へ歩いて行った。


クミコと入れ替わり、ヒロミが俺の隣に、しかも、クミコより近くに座った。


「今の人、誰?」

「ん?あー、ミナミの転校生。」

「ふ〜ん、キレイな人・・・・。」

「そ・そうか〜?」


何を動揺してんだか、クミコには何の感情も無いのに・・・・。


「これ、差し入れ。」

そう言って、ファンタオレンジを差し出した。

蓋を開け、少し飲んだ。

さすがにコーラの後だ。ちょっときつい・・・・。


「ライブ、凄かったらしいね。」

「・・・・って言う事は見てないの?」

「うん、だって部活だもん。」

「そうか、県大会もうすぐだもんな。」

「うん。でも、文化祭は必ず見るよ。」

「ちょっと恥ずかしいなぁ・・・・。」

「なんで?」

「なんでだろ。」


「ヨージ君たちは?」


タバコを吸うポーズをして見せた。


「タバコか・・・・。

 ねぇ、タバコやめたら!?」

「えっ?」


『ヒロミも”キスすると臭い”とか言うのかな。

 まさか、キスしたことあるとか・・・・。

 相手は・・・?アキラか?えっ?そんな・・・・。』


「ねぇ、ちょっと、聞いてるの!?」

「えっ?」

「もう〜、だから、タバコは体に良くないって!」

「うん。」

「ねぇ、どうしてタバコ吸うの?」

「・・・・。」


余りにも率直な質問に、言葉を失った。


『ホントだ、なぜ俺はタバコを吸うんだろう?

 中毒?確かにもう中毒なのかもしれない。

 じゃぁ、なぜ止めようとしないんだろう?

 止めようとすれば止めれるかもしれないのに・・・・。

 確かに初めは、タバコを吸う事で、

 ちょっと大人になったような、ちょっと悪い奴になったような気がして、

 それがカッコよくて吸い始めた。でも今は、そんな気もない。

 普通に吸ってる。飯食うのと同じように吸ってる・・・・。』


「なぜなんだろ・・・・。」

「も〜う、いい加減なんだから。」

「スマン。」

「ねぇ、今日から真面目になって。タバコ吸ったり、授業サボったりするの、

 やめて、”普通”になって。」

「普通?」

「そう、普通。勉強して、大学行って、ちゃんと就職するの。」

「お前、そう言うのが好きなの?」

「うん。普通がいいに決まってるよ。」


「お前・・・・今日機嫌悪い?」

「どうして!」

「何かイライラしてない?」

「どうして私がイライラするわけ?イライラするわけないよ!

 人が真面目に話してるのに、どうしてそんな事言うの!

 もう、イライラしてきちゃったじゃない。帰る!!」


そう言って、立ち上がると、早足で歩き始めた。

「ヒロミー!ゴメ〜ン!!」

俺は、慌てて後姿にそう叫んだ。

ヒロミは立ち止まり、こっちを向いた。


「俺、普通とか、真面目とか、まだよく解らないし、

 いい加減に見えるかもしれないけど、

 俺は俺なりに一生懸命やってんだ。

 だから・・・・お前だけは解っててくれ。」


俺は、初めてヒロミの前で自己主張した。


ヒロミは首を傾げてニコっとしながら、


「わかってるよ・・・・。」と言い、


小さく”バイバイ”と手を動かし、

また後ろを向いて歩いていった。


また胸が苦しくなった。

その後姿に、「好きだ〜!」って叫びそうになったけど、

心の中だけにしておいた。



それにしても、今日のヒロミは、

なぜかいつものヒロミとは違った・・・・。


 


 



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